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目覚め②
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「お、奥さん!?」
とんでもないことを言われて、私は顔が真っ赤になってしまった。それにベッドに押し倒されているようないかがわしい体勢も良くない。慌てて体を起こそうとするが、肩を優しく押されてまあもやベッドにぎゃくもどりさせられた。
「ダメだってば。まだ傷は治ってないんだよ?そもそも胸を貫通するような攻撃を受けてて、いつ死んでもおかしくなかったんだから!」
目の前の男の眉がへにゃりと情けなく下がる。まさかそんなに重傷だったとは思わなくて、自分の胸を触って確認してみた。
「っ!いった!!」
激痛が走って胸を抑えてうずくまる。
「っ!何をしてるの!」
男の人は咎めるような声音で私を叱ると、私の胸に手を当てて小さな声で何かを呟いた。すると、その手がぼんやりと光って、私の呼吸が楽になる。
「お願いだから無茶しないで。どう頑張っても胸の傷を塞ぐぐらいまでしか出来なかったんだ。体の中が元に戻るには少なくともひと月はかかる。それまでは絶対安静なんだ。この部屋から出ることは禁止だよ?」
「え、いや、あの。」
そもそも目の前のこの人は誰なんだろうか。私が戸惑っていると、コテンと男の人はコテンと首を傾げる。
「どうしたの?何か不安?聞きたいことがあるならなんでも聞いて。」
「えっと、そもそもあなたは?」
「えっ!僕のこと分からないの?」
「は、はぁ。すいません、会ったことはないと思うんですけど…。」
男の人が分かりやすく肩を落として悲しんでいる。助けてもらって申し訳ないが、こんなかっこいい男の人に知り合いはいない。
「ちゃんと自己紹介したじゃないか!ライヤードだよ!あ!もう僕らは夫婦なんだから、僕のことはライヤードって呼び捨てで呼んでね?僕も君の名前が呼びたいからそろそろお名前教えてくれるかな?」
「ライヤード…?」
「うんうん!」
目の前でワクワクと瞳を輝かせている男の人。そうか。顔が見えなかったから分からなかった。この人、私の部屋に突然入ってきた魔王だ。
「ま、魔王が私に何のようですか!!!」
ベッドから体を起こし、魔王から距離を取る。
「わ、私を人質にするつもりですか?無駄ですよ!あなただって見てましたよね?私が聖女や女神や御門君に攻撃されて死にかけてたのを!何のために連れてきたのよぉ!」
体に激痛が走り、生理的な涙が溢れてくるが構っていられない。彼氏であった御門君からさえ裏切り者と罵られ、ゴミのように捨てられた私。なんの価値もない私を、今度はどのように痛ぶるつもりなのか。
もう誰も信じられない。信じたって裏切られるだけ。愛したって、返されるのは憎悪と嫌悪なのだから。
「っ!そんな風に動いたら傷が開いてしまう!落ち着くんだ!」
「いや!来ないでよ!私を何に使うつもり?何の力もないちっぽけで平凡な女の使い道なんて何もないわ!殺してしまう方がマシよ!さぁ!」
「っ!!!やめろ!!!!」
「っあ!」
魔王の声がまるで直接脳に響くようだった。体が勝手に動きを止めて、自分の意思で動かせない。そんな私に魔王は大股で近寄ってきた。
(殴られる!!!)
ぎゅっと目を閉じる。
「お願いだから、自分の体を大事にしてくれ…!あぁ、こんなに泣いて。目が真っ赤になってしまってるじゃないか。さぁ、おいで。こっちで拭いてあげるよ。」
「あぅ…。」
魔王に横抱きにされて、目元にキスされた。
(キス!?き、きす!!?された!!?)
長年御門君と付き合っていたものの、実はキスひとつしたことはなかった。御門君が私に全く手を出してこなかったからだ。
そんな私に目元にキスなんてロマンティックなことは刺激が強すぎる。口から変な声が出てしまった。
「…なんだその声。可愛いな…。」
魔王の言葉に反論できず、顔を隠すことしかできなかった。
とんでもないことを言われて、私は顔が真っ赤になってしまった。それにベッドに押し倒されているようないかがわしい体勢も良くない。慌てて体を起こそうとするが、肩を優しく押されてまあもやベッドにぎゃくもどりさせられた。
「ダメだってば。まだ傷は治ってないんだよ?そもそも胸を貫通するような攻撃を受けてて、いつ死んでもおかしくなかったんだから!」
目の前の男の眉がへにゃりと情けなく下がる。まさかそんなに重傷だったとは思わなくて、自分の胸を触って確認してみた。
「っ!いった!!」
激痛が走って胸を抑えてうずくまる。
「っ!何をしてるの!」
男の人は咎めるような声音で私を叱ると、私の胸に手を当てて小さな声で何かを呟いた。すると、その手がぼんやりと光って、私の呼吸が楽になる。
「お願いだから無茶しないで。どう頑張っても胸の傷を塞ぐぐらいまでしか出来なかったんだ。体の中が元に戻るには少なくともひと月はかかる。それまでは絶対安静なんだ。この部屋から出ることは禁止だよ?」
「え、いや、あの。」
そもそも目の前のこの人は誰なんだろうか。私が戸惑っていると、コテンと男の人はコテンと首を傾げる。
「どうしたの?何か不安?聞きたいことがあるならなんでも聞いて。」
「えっと、そもそもあなたは?」
「えっ!僕のこと分からないの?」
「は、はぁ。すいません、会ったことはないと思うんですけど…。」
男の人が分かりやすく肩を落として悲しんでいる。助けてもらって申し訳ないが、こんなかっこいい男の人に知り合いはいない。
「ちゃんと自己紹介したじゃないか!ライヤードだよ!あ!もう僕らは夫婦なんだから、僕のことはライヤードって呼び捨てで呼んでね?僕も君の名前が呼びたいからそろそろお名前教えてくれるかな?」
「ライヤード…?」
「うんうん!」
目の前でワクワクと瞳を輝かせている男の人。そうか。顔が見えなかったから分からなかった。この人、私の部屋に突然入ってきた魔王だ。
「ま、魔王が私に何のようですか!!!」
ベッドから体を起こし、魔王から距離を取る。
「わ、私を人質にするつもりですか?無駄ですよ!あなただって見てましたよね?私が聖女や女神や御門君に攻撃されて死にかけてたのを!何のために連れてきたのよぉ!」
体に激痛が走り、生理的な涙が溢れてくるが構っていられない。彼氏であった御門君からさえ裏切り者と罵られ、ゴミのように捨てられた私。なんの価値もない私を、今度はどのように痛ぶるつもりなのか。
もう誰も信じられない。信じたって裏切られるだけ。愛したって、返されるのは憎悪と嫌悪なのだから。
「っ!そんな風に動いたら傷が開いてしまう!落ち着くんだ!」
「いや!来ないでよ!私を何に使うつもり?何の力もないちっぽけで平凡な女の使い道なんて何もないわ!殺してしまう方がマシよ!さぁ!」
「っ!!!やめろ!!!!」
「っあ!」
魔王の声がまるで直接脳に響くようだった。体が勝手に動きを止めて、自分の意思で動かせない。そんな私に魔王は大股で近寄ってきた。
(殴られる!!!)
ぎゅっと目を閉じる。
「お願いだから、自分の体を大事にしてくれ…!あぁ、こんなに泣いて。目が真っ赤になってしまってるじゃないか。さぁ、おいで。こっちで拭いてあげるよ。」
「あぅ…。」
魔王に横抱きにされて、目元にキスされた。
(キス!?き、きす!!?された!!?)
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そんな私に目元にキスなんてロマンティックなことは刺激が強すぎる。口から変な声が出てしまった。
「…なんだその声。可愛いな…。」
魔王の言葉に反論できず、顔を隠すことしかできなかった。
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