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魔法全般についての考察
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新緑は鮮やかで空は高い。遠くで雪解け水が激しく打ちつける音が響く中、宇田川卓人は正座をして講義を受けていた。
「ぎゃははははは! タクト君、変顔になってるー!」
いたずら好きのショータとゲオルギが爆笑する。幼い子供たちもそれに倣う。
「笑ってはいけません。タクト君は真剣なのです」
たしなめつつも講師を務めるタマラも思わず吹き出す。卓人はこの数日何度も彼女の魔法講義を受けていた。
「周りにあるちょっぴりの熱を指先に集めるのです。そのちょっぴりがたくさん集まれば火になるのです」
それも何度も聞かされた。卓人は指先を凝視し、意識して「熱よ、集まれー」と念じるものの、何か変化が起こる気配はなかった。
「あぁー、集中が足りないのです。根性なしにもほどがあります!」
いやいや、頑張って集中している。しかしそうするとどうやら無意識に変顔になってしまうらしく、それを笑いに子供たちが集まってくるようになった。なかなかの屈辱だ。魔法が使えるようになれればとは思うもののかなりのスパルタでつらい。元のタクトはかなり使え、それが無能になって帰ってきたとなればその気持ちもわからないでもなかった。
「ほらほら、お兄ちゃんは真面目にやってるんだから邪魔しちゃダメよ」
エミリは畑の種まきに子供たちを連れて行ってくれた。
昨日はスカートをめくって怒らせてしまったが、今日はいつものようにやさしい子に戻っていた。例の件について卓人は猛省する必要があった。自分がスカートをめくったところで理論の証明にはつながらない。理論と実験の関係性を単純に捉え過ぎていたのだ。そして、仮に理論が正しかったとしても「スカートめくりのイデア」があると確かに言えることは何もない。短慮であったとしか評価のしようがない。
卓人にとってこの講義は何一つ楽しくはなかったが、知識としては有意義な面があった。
まず、魔法は火・風・水・土の四つの属性に分かれていること。
つまりこの世界では四元素説が信じられているということだ。原子論しか知らない卓人にとってはちょっと驚きだった。
この世界ではおよそ半数の人が魔法を覚えるらしい。たいていは小さな炎を出すことを初めに覚え、次に風を操り、最後に水の流れをつくる。土の魔法は難度が高いこともあり、先日訪れたおじさんのように老後の趣味で覚える人が何人かいる程度だという。
しかしながら巨大な炎をつくり出すには火の魔法を極める必要があり、一概にその序列が魔法の優劣を表すものではない。ナタリア先生が使える回復魔法は水に属するらしい。人体の六〇パーセントが水分だからだろうか。水の魔法が使えると水を氷らせられるらしく、それはまだ納得できるがなぜ回復できるのかいまいち理解に苦しむ。
ほとんどの人は、魔法を生活の支えのためだけ使い、修練を要するレベルまでは極めようとはしない。深く関心をもつ、あるいは必要に迫られた人のみが凄まじいまでの威力をもった魔法を身につけてゆく。
「どうしてタクト君はこんなバカになってしまったんでしょう? 残念でなりません」
「……ごめん」
しかしながらこうして講義を受けていると彼らなりの理論が見えてきて、自分の知る科学理論と同様に考えられる部分もいくつかある。
例えば、火・風・水・土の属性について、これは土→固体、水→液体、風→気体とみなすことができる。物質の三態に次ぐ第四の状態としてプラズマを加えるなら、火→プラズマとなるので、魔法と物質の状態にそれぞれの対応が与えられることになる。そして熱運動の小さい固体を動かす(?)土の魔法を使うには、それだけの多量のエネルギーを要するから習得が難しい、と考えるとまずまず合理的な気がする。
仮にそうであるとして、この世界の人はそれをどのようにして意図的に行うことができているのだろうか。ここが異世界だからできるのか、あるいは元の世界の人も同じ能力をもっているが単に使えないだけなのか。例えば「魔法のイデア」に気づいてないとか。
化学の授業で、錬金術と呼ばれる技術は二つに分かれ、ひとつは物質的な再現性を重視した化学という学問となり、もうひとつは精神性を探究した魔術として発展したと聞いた。元の世界が前者であり、この異世界は後者なのかもしれない。そうであるなら自分もそのうち魔法が使えるようになるのかもしれない。
「こら、タクト君! 真面目に話を聞きな……はう!?」
卓人はいつしか左手をあごにそえて考え込んでいた。
またしてもタマラはその姿に心を奪われてしまった。
その日の午後、卓人はナタリアに呼び出された。春とはいえ結構寒いのだが、この人は相変わらず涼しい恰好で目のやり場に困る。だけどいつもとちょっと違って深刻そうな表情に別の意味で戸惑った。
「予想はついていたけど……再招集だ」
「ぎゃははははは! タクト君、変顔になってるー!」
いたずら好きのショータとゲオルギが爆笑する。幼い子供たちもそれに倣う。
「笑ってはいけません。タクト君は真剣なのです」
たしなめつつも講師を務めるタマラも思わず吹き出す。卓人はこの数日何度も彼女の魔法講義を受けていた。
「周りにあるちょっぴりの熱を指先に集めるのです。そのちょっぴりがたくさん集まれば火になるのです」
それも何度も聞かされた。卓人は指先を凝視し、意識して「熱よ、集まれー」と念じるものの、何か変化が起こる気配はなかった。
「あぁー、集中が足りないのです。根性なしにもほどがあります!」
いやいや、頑張って集中している。しかしそうするとどうやら無意識に変顔になってしまうらしく、それを笑いに子供たちが集まってくるようになった。なかなかの屈辱だ。魔法が使えるようになれればとは思うもののかなりのスパルタでつらい。元のタクトはかなり使え、それが無能になって帰ってきたとなればその気持ちもわからないでもなかった。
「ほらほら、お兄ちゃんは真面目にやってるんだから邪魔しちゃダメよ」
エミリは畑の種まきに子供たちを連れて行ってくれた。
昨日はスカートをめくって怒らせてしまったが、今日はいつものようにやさしい子に戻っていた。例の件について卓人は猛省する必要があった。自分がスカートをめくったところで理論の証明にはつながらない。理論と実験の関係性を単純に捉え過ぎていたのだ。そして、仮に理論が正しかったとしても「スカートめくりのイデア」があると確かに言えることは何もない。短慮であったとしか評価のしようがない。
卓人にとってこの講義は何一つ楽しくはなかったが、知識としては有意義な面があった。
まず、魔法は火・風・水・土の四つの属性に分かれていること。
つまりこの世界では四元素説が信じられているということだ。原子論しか知らない卓人にとってはちょっと驚きだった。
この世界ではおよそ半数の人が魔法を覚えるらしい。たいていは小さな炎を出すことを初めに覚え、次に風を操り、最後に水の流れをつくる。土の魔法は難度が高いこともあり、先日訪れたおじさんのように老後の趣味で覚える人が何人かいる程度だという。
しかしながら巨大な炎をつくり出すには火の魔法を極める必要があり、一概にその序列が魔法の優劣を表すものではない。ナタリア先生が使える回復魔法は水に属するらしい。人体の六〇パーセントが水分だからだろうか。水の魔法が使えると水を氷らせられるらしく、それはまだ納得できるがなぜ回復できるのかいまいち理解に苦しむ。
ほとんどの人は、魔法を生活の支えのためだけ使い、修練を要するレベルまでは極めようとはしない。深く関心をもつ、あるいは必要に迫られた人のみが凄まじいまでの威力をもった魔法を身につけてゆく。
「どうしてタクト君はこんなバカになってしまったんでしょう? 残念でなりません」
「……ごめん」
しかしながらこうして講義を受けていると彼らなりの理論が見えてきて、自分の知る科学理論と同様に考えられる部分もいくつかある。
例えば、火・風・水・土の属性について、これは土→固体、水→液体、風→気体とみなすことができる。物質の三態に次ぐ第四の状態としてプラズマを加えるなら、火→プラズマとなるので、魔法と物質の状態にそれぞれの対応が与えられることになる。そして熱運動の小さい固体を動かす(?)土の魔法を使うには、それだけの多量のエネルギーを要するから習得が難しい、と考えるとまずまず合理的な気がする。
仮にそうであるとして、この世界の人はそれをどのようにして意図的に行うことができているのだろうか。ここが異世界だからできるのか、あるいは元の世界の人も同じ能力をもっているが単に使えないだけなのか。例えば「魔法のイデア」に気づいてないとか。
化学の授業で、錬金術と呼ばれる技術は二つに分かれ、ひとつは物質的な再現性を重視した化学という学問となり、もうひとつは精神性を探究した魔術として発展したと聞いた。元の世界が前者であり、この異世界は後者なのかもしれない。そうであるなら自分もそのうち魔法が使えるようになるのかもしれない。
「こら、タクト君! 真面目に話を聞きな……はう!?」
卓人はいつしか左手をあごにそえて考え込んでいた。
またしてもタマラはその姿に心を奪われてしまった。
その日の午後、卓人はナタリアに呼び出された。春とはいえ結構寒いのだが、この人は相変わらず涼しい恰好で目のやり場に困る。だけどいつもとちょっと違って深刻そうな表情に別の意味で戸惑った。
「予想はついていたけど……再招集だ」
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