愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第三章 建国の女神様

(66)王妃の説明

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王妃が魔道回路を通じて発表を始めると、その澄んだ声が王都全域に響き渡った。死霊の軍勢との戦いで傷ついた王都。ギルドや広場、宿屋など、魔道回路が無事な場所に集まった市民たちは、その言葉に耳を傾けた。王妃の声には威厳と責任感が満ち、一言一言が人々の胸に深く届いた。

「まず、皆様にお伝えいたします。王都を脅かした死霊の軍勢は、すでに全て殲滅されました。どうか、安心してお過ごしください。」

広場には安堵の息が広がり、恐怖に縛られていた心がその言葉で癒されていった。

「この危機を乗り越えるために、命を賭して戦った全ての勇士たち、そして皆様を支えてくださった方々に、王家を代表して心から感謝申し上げます。この勝利は、皆様の献身と協力なくしては成し得ませんでした。」

誠実な感謝の言葉に、人々の心は動かされ、胸が熱くなった。そして王妃は、核心に触れる言葉を紡いだ。

「次に、今回の騒動の原因について、王家として皆様にご説明いたします。」

広場は静寂に包まれ、期待と不安が入り混じった視線が王妃に向けられた。

「今年の建国祭において、例年を遥かに超える量のマナが王都で放出されました。これが、死霊の軍勢を引き寄せる原因となったのです。」

ざわめきが広場を駆け抜けたが、王妃は動じることなく毅然とした態度を崩さなかった。

「隣国との緊張が続く中、さらに今年が建国五百年の節目であったことから、特別な意義を込めて壮大な式典を開催しました。しかし、その結果として過剰なマナが放出され、それが王都近郊の中級ダンジョンに影響を及ぼし、死霊の軍勢を招いてしまったのです。この責任は全て王家にあります。直ちに復興に向けた具体的な手続きを開始いたします。」

失敗を認める重みと、それを乗り越える意志がその声には込められていた。その毅然とした言葉は、人々に希望と安心を与えつつ、王家の責任を明確に示していた。

「復興予算を確保し、ギルドを通じて新たな雇用を創出します。また、家を失われた方々や避難民の皆様にも即時支援を行います。皆が安定した生活を取り戻すまで、王家として全力を尽くします。」

具体的な計画が次々と提示される中、人々の表情には次第に希望が戻り、張り詰めていた空気が和らいでいった。

一方、宿屋の片隅で発表を聞いていたフィオラの胸には、異なる感情が湧き上がっていた。その瞳には、王妃の説明に対する疑念が浮かんでいた。

「ほんまに、そんな簡単な話なんか…?」

低く呟く声に、眉間の皺が深く刻まれる。ミラーゴーレムのコアや死霊の軍勢の異常が、単純な因果関係で説明できるとは到底思えなかった。
「どうして…何もなかったことみたいに済ませようとするんやろ…」

フィオラの呟きは、自分自身への問いかけのようだった。心の奥では、何か重要な事実が隠されているのではないかという疑念が次第に確信へと変わりつつあった。部屋の静寂がその不安をさらに膨らませ、彼女の胸に重くのしかかる。

そんなフィオラの様子を見ていたアルマが、そっと優しい声をかけた。「フィオラ、気分転換に少し外に出ない?私のローブがもうボロボロで動きにくいから、新しいのを買いに行きたいの。一緒に来てくれる?」

アルマの声には、フィオラを気遣う思いが込められていた。一瞬、フィオラは顔を上げたが、表情は曇ったままだった。

「ほんまやな…乙女の服装は大事やしな…」

冗談めいた口調とは裏腹に、その笑顔はどこかぎこちない。アルマは静かに微笑み返し、無理をさせないようそっと気を配った。

その時、ベッドに横たわるカーライルが弱々しい声で口を挟んだ。「だが…今、街の店が開いているのか?」

現実的な疑問に、アルマは少し間を置いてから穏やかに答えた。「大丈夫よ。こういう時だからこそ、少しでもお金を使って経済を回さないとね。日常を取り戻すことが復興の第一歩だもの。それに、カーライル、あなたのロングコートだってボロボロじゃない?新しいのを買わないと、まともな格好で歩けないでしょ。」

アルマの視線が壁にかけられたカーライルのコートに向かうと、彼もそのコートを見て小さく笑った。「確かに…今のままじゃ、人目を引くかもしれないな。」

その軽い冗談に、フィオラの表情がようやく緩んだ。そして、いつもの明るい声が戻ってきた。「ウチが全部払っとるわ! 魔具はなくなったけど、あのクリスタルゴーレムのおかげで、まだまだたんまりお金あるねん!」

その言葉には冗談の響きが含まれ、場の空気を和らげた。アルマも微笑みながら続けた。「心配しないで。私たちも第三王子様からしっかり報酬をいただいたから。」

「お、第三王子の話、めっちゃ気になるわ!歩きながら聞かせてな!」フィオラは興味津々な様子で声を上げ、活気を取り戻していく。

アルマはその言葉に少し顔を赤らめながら、軽く頷いた。「え、えぇ、話せる範囲でね…」

「なんやなんや~。あねさん、なんかええことあったんちゃう?」フィオラはニヤリと笑い、荷物の準備を始めた。その様子にアルマは少し慌てたような表情を見せたが、楽しげな空気を壊さないよう静かに微笑んでいた。

こうして三人は外へと歩みを進めた。瓦礫と破壊の跡が広がる街並みを抜けながらも、彼らの姿は小さな希望の光を思わせた。軽やかな笑い声が廃墟の静けさを和らげ、新しい命の息吹が街に戻り始める兆しとなっていた。
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