愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第三章 建国の女神様

(67)衣装の選定

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瓦礫が積み重なり、灰色の埃が舞う王都の大通りは、かつての栄華が遠い記憶のように感じられるほど荒れ果てていた。破れた看板が風に揺れ、ひび割れた石畳を冷たい風が抜けるたび、静けさの中に瓦礫が擦れる音が微かに響いた。その風がカーライルの赤いコートの裾をわずかに揺らしていた。

「なんか店見つけたで!入ってみよか?」

フィオラが瓦礫を軽快に避けながら明るい声を上げた。その声が荒廃した街に一瞬の活気をもたらし、アルマも続いて瓦礫を乗り越え、小さな衣服屋を見上げた。崩れかけた建物は割れた窓やひびの入った壁に覆われていたが、それでも営業を続けているようだった。

「お店に入ってもよろしいですか?」

アルマが店の入り口から声をかけると、奥から疲れた声が返ってきた。

「まあボロボロだけどな…。でも、こうして商売を続けてりゃ、いつか立て直せる日も来るだろう。遠慮せずに見ていってくれ。」

店内には散乱する瓦礫と埃をかぶった棚が並び、それでも残された衣服がかつての賑わいを物語っていた。

「これどう?あっちの服もなかなかええんちゃう?」

フィオラは埃を払った服を手に取り、軽快にアルマに話しかけた。その明るい声が沈んだ空気を和らげる。アルマは微笑みながら服を見つめ、やがて静かに棚に戻した。街の荒廃が彼女の胸に重くのしかかるのを感じた。

カーライルは二人のやり取りに目をやりながら、自身の赤いコートに視線を戻す。深紅のその色は荒れた街並みにおいて際立ち、彼が背負う過去と責任を象徴しているようだった。

「なあ、あんちゃんはいつも同じ服装やねえ…飽きへんの?」

フィオラが冗談めかして軽口を叩く。その気軽さが瓦礫に覆われた街にもわずかな温かさをもたらした。

「たくさん物が入るし、寒さもしのげる。それが重要だ。」

カーライルは短く答え、落ち着いた声で店主に指示を出した。「腰のあたりを加工してくれ。双剣をすぐに収められるようにしたいんだ。」

店主は一瞬驚いたようだったが、すぐに頷いて作業を始めた。その手際の良さは、簡素な環境にもかかわらず確かな技術を示していた。

その様子を見つめていたアルマは、手に取った漆黒のローブをじっと見つめた。布地は光を吸い込むような艶を放ち、手触りも柔らかい。彼女はふとカーライルに目を向け、小さな声で尋ねた。

「カーライル…このローブ、どう思う?」

カーライルは一瞬彼女を見つめ、それから黒いローブに視線を移した。短く確かな声で答える。「悪くない。」

その一言に、アルマはほっとしたように微笑む。黒いローブを手に、彼女は心の中で決意を新たにした。それは共に歩む覚悟と、自らも強くなるための第一歩だった。

二人のやり取りを見ていたフィオラが笑顔で近づく。「なぁ、あねさん、黒もええけどさ、建国の女神様みたく真っ白なローブも似合うんちゃう?そんなの着て歩いたら、みんなひれ伏すで!」

冗談交じりの言葉に、アルマは思わず微笑んだ。「もう、フィオラったら冗談ばっかり!」そう言いながら彼女の肩を軽く押す。

フィオラはさらに笑い、「ほんまやって!スケルトンですら道譲るで!」と続け、その場の空気を和らげた。

カーライルは少し目を細め、わずかに肩をすくめて低く呟く。「何をやってるんだか…」彼の声には呆れながらもどこか柔らかな響きがあった。

買い物を終え、三人で瓦礫が散乱する街を歩いていると、フィオラが突然立ち止まり、目の前の通りを指差して声を上げた。「あ、あそこに天剣の騎士団の駐屯所があるみたいやん!ロクスはんがいるかもしれんし、お礼言うてくるわ!」

その言葉に、カーライルとアルマは顔を見合わせたが、フィオラは気にする様子もなく、一人で勢いよく駆け出そうとした。

カーライルの胸に重い感覚が広がる。十年前、ロクスとの間に刻まれた深い傷が、いまだに彼を縛り付けていた。彼は無言のままフィオラの後ろ姿を見送り、止める言葉を見つけることもできなかった。

アルマも足を止め、困惑した表情を浮かべる。ロクスの冷たい言葉が彼女の脳裏をよぎる。

「…フィオラ、ちょっと待って…」アルマは声をかけたが、その言葉には迷いが滲んでいた。どう振る舞うべきか、彼女自身も答えを見出せずにいた。

しかし、フィオラは二人の沈んだ空気に気づくことなく、軽やかに駐屯所へ向かっていく。「ほな、後で宿屋で落ち合おうな!すぐ戻るで!」と明るく手を振り、その姿は瓦礫だらけの通りの先に消えていった。

カーライルとアルマは、遠ざかる彼女の背中を黙って見送った。彼女の無邪気な明るさが、今の二人にはどこか遠いもののように感じられた。

「…どうする?」アルマが静かに問いかける。その声には、不安と迷いが見え隠れしていた。だが、カーライルは何も言わず首を横に振り、ただ視線を遠くへ向けたままだった。その目は、過去の記憶に囚われているかのようだった。

二人は言葉を失い、静寂の中で立ち尽くした。瓦礫に囲まれた街の中で、それぞれの思いが胸の中を重く満たしていく。
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