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フキの葉湿布~火傷ケアにはコレ!~
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「ねぇ、コロ、従魔になると何か特別なことがあるの?」
酒場で昼食を食べながらそう聞くと、コロは伏せていた顔をダルそうに上げる。
『なんで俺が従魔だって分かったんだ』
「フェンリルが言っていたじゃない『従魔』だって。でも“名づけ”を行うことで従魔になるっていうのは村長さんから聞いたんだけどね」
コロは大きくため息をつく。
『知られたくなかったんだけどな――』
「何それ、わざと隠していたの?」
『そりゃそうだろ。だから“コロ”って呼ぶなって何度も言ったじゃねぇか』
なるほど『コロ』としての自分を受け入れてしまうと、従魔になってしまうことが分かっていて必死に否定していたのか……。
「私が命令しちゃったら、全部言うこと聞いてくれたりするの?」
隠したくなる程の存在ということに私は思わず笑顔になる。
『だからこうして酒場でやりたくもない護衛の仕事しているんだろ』
不貞腐れたようにコロにそう言われ、私は思わず耳を疑う。
「え?嫌だったの?」
てっきり危険は少ないし美味しいご飯が食べられるので、喜んでやっていると思っていた。
『長年、クリムゾン様を守ってきたからな。それが誇りでもあったんだが……』
「なんかごめんね」
『でもグレイスに頼まれたら、そっちの方が価値ある仕事に感じるんだ。それは俺がお前の従魔だからかもしれない』
言葉に強い強制力はないが、相手の気持ちに影響を与えることができるのだろう。
『あと主となる人物から、何とも言えない匂いがする。常に側にいたいって思うんだ』
「だからオリヴィアも数日に一回、温泉宿に来るのかしら?」
『だろうな。性的な意味ではなくて、お前の匂いを嗅ぐと嬉しくなる。最初はお前が大聖女だからいい匂いがするのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい』
遺伝子レベルで相性がいい人の汗は、いい匂いがすると言うが、それと似た現象なのかもしれない。
『だから、カルも本当の息子みたいにお前に懐いているんだろ』
「僕がお母様の『従魔』だから、大好きなんじゃないよ」
いつの間にか私達の後ろに不服そうな表情を浮かべたカルが立っていた。生後二週間にして既に十歳ぐらいの少年に成長している。その見た目に合うように言葉遣いも成長しているからビックリだ。もしかしたらこの子も転生者なのかもしれない……と最近、思うようになってきた。
「お母様が僕を孵してくれたから『お母様』なんだよ」
カルはやはりプリプリしながら、慣れた口調でマーゴにランチメニューを注文する。
『ま、“従魔”だって認めたくないのは分かるがな……』
確かにカルは本当の息子のように扱われることを望んでいる。
「カルは私の大好きな息子よ。従魔なんかじゃないわ」
そう言ってカルの少しくせ毛の黒髪を優しく撫でると、ようやく彼の表情がいつもの可愛らしい表情に戻る。時々大人びた表情を見せるようになっていたが、それでもまだ子供の面影の方が濃い。そんなことを考えながらカルを見ていると、彼の右手の甲が赤く腫れていることに気付いた。
「右手、どうしたの?火傷かしら……」
「今日はね、魔法の練習をしたんだ」
この二週間、クリムゾン様が指導してくださっているが、相変わらずドラゴンになることはできない。それならば、と魔法の練習も始めたらしい。
「僕、火系統の魔法と相性がいいみたい。もう上級魔法を使うことだってできるんだよ」
「上級を?」
上達スピードの速さに思わず言葉を失う。一般的に学園や神官学校では卒業するまでに中級までしか魔法を教えていない。それ以上となると独学で学ぶか、神殿や軍で働きながら習得するしかない。そのため私も含めて多くの人間は上級魔法を使えないのだ。
「ちゃんと冷やした?」
「うん。冷やした」
カルは何てことはないという表情を浮かべるが、痕が残ったら可哀想だ。私は酒場のカウンターに飾っておいたフキの葉を取る。ここで調理をする人のために用意しておいたのだ。
「これを巻いておくと火ぶくれになりにくいし、治りも早いのよ」
カルの手の甲に合うようにフキの葉をちぎって、火傷した部分に貼り付ける。その上に包帯を巻くだけの簡単なケアだ。
「お母様、心配しすぎだよ。ドラゴンにはなれないけど、これぐらいの傷なら直ぐに治っちゃうよ」
「生意気言わないの。心配してあげているんでしょ?」
私が軽くカルのおでこをこずくと、嬉しそうに小さく笑った。本当の子供……というより人間の子供として扱われることを彼が望んでいることを私は知っているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
サワイ健康推進課:家庭でできるケガの応急手当(最終閲覧日:2019年6月21日)
https://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/grandma/201002.html
酒場で昼食を食べながらそう聞くと、コロは伏せていた顔をダルそうに上げる。
『なんで俺が従魔だって分かったんだ』
「フェンリルが言っていたじゃない『従魔』だって。でも“名づけ”を行うことで従魔になるっていうのは村長さんから聞いたんだけどね」
コロは大きくため息をつく。
『知られたくなかったんだけどな――』
「何それ、わざと隠していたの?」
『そりゃそうだろ。だから“コロ”って呼ぶなって何度も言ったじゃねぇか』
なるほど『コロ』としての自分を受け入れてしまうと、従魔になってしまうことが分かっていて必死に否定していたのか……。
「私が命令しちゃったら、全部言うこと聞いてくれたりするの?」
隠したくなる程の存在ということに私は思わず笑顔になる。
『だからこうして酒場でやりたくもない護衛の仕事しているんだろ』
不貞腐れたようにコロにそう言われ、私は思わず耳を疑う。
「え?嫌だったの?」
てっきり危険は少ないし美味しいご飯が食べられるので、喜んでやっていると思っていた。
『長年、クリムゾン様を守ってきたからな。それが誇りでもあったんだが……』
「なんかごめんね」
『でもグレイスに頼まれたら、そっちの方が価値ある仕事に感じるんだ。それは俺がお前の従魔だからかもしれない』
言葉に強い強制力はないが、相手の気持ちに影響を与えることができるのだろう。
『あと主となる人物から、何とも言えない匂いがする。常に側にいたいって思うんだ』
「だからオリヴィアも数日に一回、温泉宿に来るのかしら?」
『だろうな。性的な意味ではなくて、お前の匂いを嗅ぐと嬉しくなる。最初はお前が大聖女だからいい匂いがするのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい』
遺伝子レベルで相性がいい人の汗は、いい匂いがすると言うが、それと似た現象なのかもしれない。
『だから、カルも本当の息子みたいにお前に懐いているんだろ』
「僕がお母様の『従魔』だから、大好きなんじゃないよ」
いつの間にか私達の後ろに不服そうな表情を浮かべたカルが立っていた。生後二週間にして既に十歳ぐらいの少年に成長している。その見た目に合うように言葉遣いも成長しているからビックリだ。もしかしたらこの子も転生者なのかもしれない……と最近、思うようになってきた。
「お母様が僕を孵してくれたから『お母様』なんだよ」
カルはやはりプリプリしながら、慣れた口調でマーゴにランチメニューを注文する。
『ま、“従魔”だって認めたくないのは分かるがな……』
確かにカルは本当の息子のように扱われることを望んでいる。
「カルは私の大好きな息子よ。従魔なんかじゃないわ」
そう言ってカルの少しくせ毛の黒髪を優しく撫でると、ようやく彼の表情がいつもの可愛らしい表情に戻る。時々大人びた表情を見せるようになっていたが、それでもまだ子供の面影の方が濃い。そんなことを考えながらカルを見ていると、彼の右手の甲が赤く腫れていることに気付いた。
「右手、どうしたの?火傷かしら……」
「今日はね、魔法の練習をしたんだ」
この二週間、クリムゾン様が指導してくださっているが、相変わらずドラゴンになることはできない。それならば、と魔法の練習も始めたらしい。
「僕、火系統の魔法と相性がいいみたい。もう上級魔法を使うことだってできるんだよ」
「上級を?」
上達スピードの速さに思わず言葉を失う。一般的に学園や神官学校では卒業するまでに中級までしか魔法を教えていない。それ以上となると独学で学ぶか、神殿や軍で働きながら習得するしかない。そのため私も含めて多くの人間は上級魔法を使えないのだ。
「ちゃんと冷やした?」
「うん。冷やした」
カルは何てことはないという表情を浮かべるが、痕が残ったら可哀想だ。私は酒場のカウンターに飾っておいたフキの葉を取る。ここで調理をする人のために用意しておいたのだ。
「これを巻いておくと火ぶくれになりにくいし、治りも早いのよ」
カルの手の甲に合うようにフキの葉をちぎって、火傷した部分に貼り付ける。その上に包帯を巻くだけの簡単なケアだ。
「お母様、心配しすぎだよ。ドラゴンにはなれないけど、これぐらいの傷なら直ぐに治っちゃうよ」
「生意気言わないの。心配してあげているんでしょ?」
私が軽くカルのおでこをこずくと、嬉しそうに小さく笑った。本当の子供……というより人間の子供として扱われることを彼が望んでいることを私は知っているのだ。
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【参考文献】
サワイ健康推進課:家庭でできるケガの応急手当(最終閲覧日:2019年6月21日)
https://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/grandma/201002.html
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