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沈黙せし森の主との遭遇
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『我はこの森の主・クリムゾンであるぞ』
ひざま付け――と言わんばかりの威圧的な雰囲気を醸し出すユニコーンに私は思わず吹き出しそうになった。こんなに偉そうな癖に馬みたいなビジュアルなのだから。ユニコーンとはいえ、普通の馬に角と翼が生えただけだ。だが、笑いそうになるのをグッとこらえ、ドレスの裾を持ち上げ丁寧に挨拶する。
「はじめまして、私はグレイス・ゴドウィンと申します。ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした」
『ほう、人間にしては我の言葉を理解する者か……。して、何用じゃ』
この世界に転生してから、ユニコーンを見るのは今回が初めてだ。ユニコーン自体も人間が珍しいのだろう。心なしか語尾に『♪』がついているような気がする。
「森の主よ。お騒がせし申し訳ございません。ラベンダーなる植物を探しておりました」
まぁ、勝手に自分の敷地内に誰かが入ってきたら、要件ぐらい聞きたくなるよね。
『ラベンダー……聞かぬ名だな。どんな植物なのじゃ?」
「紫色の小さな花を穂先に複数付けた花でございます。精油に加工いたしますと、火傷に効いたり、リラックス効果も得られ、万能薬ともいえる花なのですが……」
『それはシャモンドのことじゃな。ついて来るがよい』
クリムゾンはクルリと反転すると、そのまま森の奥へ向かう。なるほど!名前が違ったわけだ。この森ではシャモンドと呼ばれているわけね……と納得してついていく。少しすると目の前に白い小さな花が穂先にたくさんついた植物が群生している場所にたどり着いた。フワリと広がる匂いはラベンダーに似ていなくもない。
『これのことじゃろ』
「さすが、森の主様ですわ。ありがとうございます」
色が多少違うが、ここは異世界だ。
「民のために少しばかり分けていただけないでしょうか」
白い絨毯を敷き詰めたように群生しているので精油を作るために『少し』集めても問題なさそうだが、一応『森の主』とやらに確認をすると、クリムゾンは嬉しそうに短くいななく。
『よいよい。わしはお前が気に入った。好きなだけ持っていくがよい。わしがこの森にいる限り、満月の夜には何度でも咲くのでな』
月に一度のサイクルで咲く……というより、おそらく気候が大きく変わらないこの国では、時期を問わず植物が育つのだろう。
「グレイス―――!!」
その時遠くから私の名前を呼ぶオリバーの声が聞こえてきた。
『そなたを探している者がおるようじゃのう。あまり人に見られるのは都合がよくないので、失礼するとしよう』
そう言うと大地を蹴るようにして駆け抜け背中の羽を大きく羽ばたかせると、そのまま空へと飛んで行った。
「グレイス……今の……」
そんなクリムゾンの姿を見ながら、オリバーは信じられないものでも見たような表情を浮かべている。
「自称、この森の主のクリムゾン様ですって」
「名前を知っているのか?」
「ご自分で名乗られていましたわよ」
「会話できるのか?」
会話しておいて何だが、確かに会話できるのは不思議だった。
「森の主ですから、人間の言葉ぐらいお話しになられるんじゃありません?」
森の主というのが、どこまで本当だか分からなかったが人間の言葉を話すという点においては、珍しいユニコーンなのかもしれない。
「本当にいるなんて……」
「クリムゾン様も人間を見るのは珍しい――という感じでしたわ。でもご親切にラベンダー探しを手伝ってくださいましたのよ」
私はそう言って異世界版ラベンダーをオリバーに見せるが、
「それはよかった」
と棒読みな感想しか返ってこない。もはやラベンダーよりも、ユニコーンとの遭遇の方が彼にとっては、貴重な経験になったようだ。
ひざま付け――と言わんばかりの威圧的な雰囲気を醸し出すユニコーンに私は思わず吹き出しそうになった。こんなに偉そうな癖に馬みたいなビジュアルなのだから。ユニコーンとはいえ、普通の馬に角と翼が生えただけだ。だが、笑いそうになるのをグッとこらえ、ドレスの裾を持ち上げ丁寧に挨拶する。
「はじめまして、私はグレイス・ゴドウィンと申します。ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした」
『ほう、人間にしては我の言葉を理解する者か……。して、何用じゃ』
この世界に転生してから、ユニコーンを見るのは今回が初めてだ。ユニコーン自体も人間が珍しいのだろう。心なしか語尾に『♪』がついているような気がする。
「森の主よ。お騒がせし申し訳ございません。ラベンダーなる植物を探しておりました」
まぁ、勝手に自分の敷地内に誰かが入ってきたら、要件ぐらい聞きたくなるよね。
『ラベンダー……聞かぬ名だな。どんな植物なのじゃ?」
「紫色の小さな花を穂先に複数付けた花でございます。精油に加工いたしますと、火傷に効いたり、リラックス効果も得られ、万能薬ともいえる花なのですが……」
『それはシャモンドのことじゃな。ついて来るがよい』
クリムゾンはクルリと反転すると、そのまま森の奥へ向かう。なるほど!名前が違ったわけだ。この森ではシャモンドと呼ばれているわけね……と納得してついていく。少しすると目の前に白い小さな花が穂先にたくさんついた植物が群生している場所にたどり着いた。フワリと広がる匂いはラベンダーに似ていなくもない。
『これのことじゃろ』
「さすが、森の主様ですわ。ありがとうございます」
色が多少違うが、ここは異世界だ。
「民のために少しばかり分けていただけないでしょうか」
白い絨毯を敷き詰めたように群生しているので精油を作るために『少し』集めても問題なさそうだが、一応『森の主』とやらに確認をすると、クリムゾンは嬉しそうに短くいななく。
『よいよい。わしはお前が気に入った。好きなだけ持っていくがよい。わしがこの森にいる限り、満月の夜には何度でも咲くのでな』
月に一度のサイクルで咲く……というより、おそらく気候が大きく変わらないこの国では、時期を問わず植物が育つのだろう。
「グレイス―――!!」
その時遠くから私の名前を呼ぶオリバーの声が聞こえてきた。
『そなたを探している者がおるようじゃのう。あまり人に見られるのは都合がよくないので、失礼するとしよう』
そう言うと大地を蹴るようにして駆け抜け背中の羽を大きく羽ばたかせると、そのまま空へと飛んで行った。
「グレイス……今の……」
そんなクリムゾンの姿を見ながら、オリバーは信じられないものでも見たような表情を浮かべている。
「自称、この森の主のクリムゾン様ですって」
「名前を知っているのか?」
「ご自分で名乗られていましたわよ」
「会話できるのか?」
会話しておいて何だが、確かに会話できるのは不思議だった。
「森の主ですから、人間の言葉ぐらいお話しになられるんじゃありません?」
森の主というのが、どこまで本当だか分からなかったが人間の言葉を話すという点においては、珍しいユニコーンなのかもしれない。
「本当にいるなんて……」
「クリムゾン様も人間を見るのは珍しい――という感じでしたわ。でもご親切にラベンダー探しを手伝ってくださいましたのよ」
私はそう言って異世界版ラベンダーをオリバーに見せるが、
「それはよかった」
と棒読みな感想しか返ってこない。もはやラベンダーよりも、ユニコーンとの遭遇の方が彼にとっては、貴重な経験になったようだ。
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