必殺のグロースー最弱からの急成長―

ヒラメキカガヤ

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第一章 最弱の始まり

LV.4 上位者

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 「しょ、勝者、藤井カナト!」

 審判員を務めていた先生は、予想外の出来事に驚きを隠せずにいた。

 「かっ、勝った…」
 
 俺もまた、自分の快勝に驚いていた。

 「よっ…、しゃああああああ!!!!」

 剣を握ったままの腕をそのまま折りたたんで、ガッツポーズをした。そして、今まで溜まっていたものを全て吐き出すように叫んだ。

 周りがドン引きしそうだから、こういうのはなるべく控えたいのだが、勝ったことが、たまらなく嬉しかった。

 地獄のような境遇で、周りにバカにされても、諦めずに努力した結果として、手に入れた勝利。

 リョウとミツキのような天才には、絶対に味わえない。泥臭い努力の上で成り立つ、輝かしい奇跡。

 結果が出た今だからこそ言える。


 努力は報われる、と。 



 文字通り、俺は増田を秒殺した。

 リョウが相手を瞬殺した時とは別の意味で、会場がどよめいた。

 「はあ?」

 「ウソだろ?」

 戦闘開始前、俺に罵声を浴びせていた増田の連れ達も、思いもよらない光景に唖然としている。バツが悪そうな表情だった。

 「いやいや、まぐれだって、あんなの…」

 「でも、さっきの表示、見ただろ…」

 気絶した増田が保健室に運ばれ、俺が戦闘スペースから離れてからも、俺たちの戦闘を見ていた生徒たちは、依然として動揺していた。

 「ああ、見たよ。LV.18…」



 スライムを1匹倒して、レベルが3に上がったあの日。

 俺は、直感した。

 『回避』という診断されたスキルの他にもう1つ、隠された真のスキル。

 言うなれば、『急成長』。

 言い換えるなら、『諸刃の剣』

 上がったレベルが1にリセットされる短所とは裏腹に、瞬間的にレベルを跳ね上げる長所が存在することに、俺は気づいた。

 俺たちの身体に纏う経験値は魔物を倒すことによって、手に入る。そして、その経験値の量は、魔物の種類によって決められる。

 スライムは、全世界に存在する魔物の中で最弱だから、得られる経験値も最小。レベルが1から2になる分には、ちょうど足りるが、1から3以上にジャンプアップすることはまずない。

 でも、俺には可能だった。

 どうやら俺は、魔物を倒して経験値を手に入れるほど、経験値を得られる『倍率』が上がる体質らしい。
 
 スライム1匹あたりの経験値を3とするなら、俺の場合は、その数10倍の30は優に超える。
 だから、レベルが3以上にジャンプアップし、試験の日には1匹のスライムを倒しただけでレベルが18に上がったのだ。

 そして、その18に上がった一撃で、増田を蹂躙した。

 しかし、いくら高いレベルに達しても、数秒後に1にリセットされるのは変わりないみたいだ。
 
 『急成長』かつ『諸刃の剣』。

 これが、俺のスキル。

 


 「それでは、今回の中間試験、上位の成績を残した者5名を発表する」

 訓練室の壇上に立つ学年主任、それを壇の下から見上げる生徒たち。
 やりきった顔をしているやつもいたけど、大半はこの「結果」のために、戦闘の時と同じように緊張しているようだった。

 10組の戦闘が終わり、俺たち受験者は、当日中に成績が言い渡される。そして、この成績の良し悪しが、学内の8つのチームからの推薦などの高待遇になるかどうか、直接繋がる。

 「上位者は例年、学年のうち3名なのだが、今年は、試験前から生徒会に入会した者2名が高確率で上位者になるため、今回は5名とした。新たな可能性たちを見逃さないためにな」

 教師、生徒たちが、リョウとミツキの方を見る。大勢からの注目を浴びた2人は、周りに視線を向けたり、動揺することなく、毅然な態度で前の壇上を見ていた。
 俺は、2人の反応が嫌味のように思えた。
 やっぱり、羨ましい。

 「では、上位者5名を発表する!」

 期待してしまう。

 先ほどの戦闘で、対戦相手を秒殺した結果。それを観戦していた教師やチームリーダーたち。

 あまりの手応えに、期待というよりも、もはやある種の確信のようなものを持った。

 「第1位」

 無意識のうちに溜まっていた唾を飲み込む。

 「滝本リョウ」

 悔しいけど、心のどこかでは分かっていた。
 リョウは、表情を変えずにただ真っ直ぐ立っている。

 「滝本」

 学年主任が呼びかける。

 「君は先日、生徒会に入会したわけだが、チームからも入隊を勧められている。どうだ、多少の苦労はあるかもしれんが、掛け持ちしてみる気はないか?」

 えっ?

 チームからも?

 掛け持ち?

 「あいつ、マジかよ」

 生徒の誰かが放った言葉に強く同意する。この時期に生徒会に入会するのも異例なのに、その上でチームからも誘いがかかるなんて、許されて良いのだろうか。この場にいる生徒全員が間違いなくそう思っているはずだ。

 リョウの答えは…。

「俺でよければ、力になります。よろしくお願いします」

 長身を折りたたんで、深々と頭を下げた。

 「よし。では、滝本の入隊先は、学内の8チームの中でも生徒会との繋がりが最も強く、学内での貢献度も高い『ブルーナイツ』だ。これから大変だろうが、精進してくれ」

 「はい、ありがとうございます!」

 まあ、そうだろうな。
 俺だって、リョウと同じ立場なら、間違いなく2つを掛け持ちする。
 あいつは、それほどに、期待されているんだ。

 ああ!みっともねえ!
 力の抜けた自分の頰に、両手で喝を入れる。
 
 まだ、1人目だ。
 リョウに先を越されたくらいでへこむな。そう自分に言い聞かせる。

 「では、第2位の優秀者を発表する」

  「第2位」

 身体に力が入る。
 今回の査定の中心が戦闘終了時間なら、俺にも十分チャンスがある。あの瞬殺と一撃を彼らはどこまで評価してくれているだろうか。

 「嵐ミツキ」

 やっぱり。
 そう思ってしまった。意識の範囲では、俺にはチャンスがあると、一縷でもそう思いたかったけど、無意識はやはり、考えていた。
 リョウが他の生徒たちと平等に査定され、1位になるのなら次は、間違いなくミツキの番だと。

 そして…。

 リョウと同じく、チームに入隊。
 『ブルーナイツ』と同じく、生徒会への貢献度が高い『パープルバリスタ』。

 ここまでは、なんとなく分かっていた。俺も、俺以外の連中も。
 
 本当に、重要なのは、ここからだ。
 現時点での、リョウとミツキの次に優秀な人材。

 ある意味、次に呼ばれる『第3位』こそが、生徒たちの緊張を最も煽る順位。

 「第3位を発表する」

 身体中が、強張る。心拍数が、上がる。

 「第3位」

 言い渡される。
 
 『結果を出したもの』として、名前を言われた人間のこれからが、大きく変わる。
 
 「小野屋ハルマ」

 その声を合図に、全員が小野屋という生徒を探し、見つける。

 喜ぶ者や、やっかむような表情で見る者。
 小野屋という人物は、平然を装っていたけど、小刻みに震わせた身体に力強い握り拳。嬉しさを隠しきれていない。

 
 一方、俺は愕然としていた。そして、悔しかった。

 リョウとミツキを超えるどころか、近くに並ぶことすら出来ないのか。
 小野屋ハルマには罪はないだろうに、彼のことを妬む気持ちがこみ上げてくる。

  
 第4位も、俺じゃなかった。

 そして…


 第5位も。


 「以上が、上位者5名だ。選ばれた5名は、生徒会やチームに貢献してくれ。選ばれなかった者たちも腐らず、次の機会で満足のいく結果を出すように尽力してほしい」

 『選ばれなかった者』、『たち』。

 俺は、選ばれなかったし、今回の上位者5名とは違って、選ばれなかった人間たちと一括りにされる。

 容赦なく押し寄せる、圧倒的劣等感。今どうこうしても解決できないもどかしさ。
 
 「では、以下、全生徒の成績をモニターに表示する。結果は各自で確認するように。では、解散」

 学年主任や教師たちが訓練室の出口へ向かうのを合図に、周りが露骨にざわめく。

 そんなことは、どうでもいい。

 俺の順位は…。

 目の前に大儀そうに掲げられた順位表。
 俺は、上位の枠から、名前を探し始める。

 見つからない。

 数字が、どんどん大きくなっていく。
 
 止まれ、数字。

 見つかれ、名前。


 ようやくして、俺は、自分の名前を見つけた。

 学年全体の生徒数は200人。


 俺の順位は、



102位。
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