必殺のグロースー最弱からの急成長―

ヒラメキカガヤ

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第一章 最弱の始まり

LV.8 予測

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 A地区にある俺たちの中学校から、同地区の東部はそう遠くなかった。
 
 街から少し外れた森林地帯。その入り口の近くに到着する。

 街の外れ付近までは、役所の職員が運転した。自分より一回り年下の俺たち2人に「頑張ってください」と言われ、俺は少し驚き、たどたどしく「はいっ」と返事した。牧田は、慣れているのだろうか、もともと性根の腐った性格だからだろうか、年齢の差など気にせず「はいよ」、と軽々しい声で返した。

  
 森林は、外からでも暗さが伝わるくらいに鬱蒼としていた。午後の14時。普段なら授業を受けている時間だが、学内のチームメンバーは外部からの任務であれば、そちらを優先し授業を公欠することができる。

 「初めての任務。ビビってるか?」

 「全然」

 今回の任務内容は、森に繁殖したコウモリ型の魔物『タイニーバット』の討伐。彼らのレベルは5以下と聞いている。きっと、新人である俺の研修も兼ねて、ヒビキさんは俺を派遣したのだろう。

 でも、なんで1番仲の悪いこいつと組まされたんだ?

 ここまで来てなお憎まれ口を叩く牧田に、挑むように言う。

 「そっちこそ、ビビってんじゃねえの?」

 「ああ、結構ビビってるよ」

 これは意外だ。普段からあんなに偉そうにしているクセに、本当は弱いんじゃないか。

 牧田が続ける。

 「だって、レベル1のポンコツに足引っ張られるんだぜ、そりゃ命に関わるって。致命的な雑魚メンバーなんだからさあ。脆すぎて囮にもなんねえよ。木綿を盾にした方がマシだな」

 憎たらしいくらいに口元を歪ませて嫌味を言う。

 「こんの、やろう…」

 超ムカついた。
 
 森の中に入ると、やはり暗かった。真上からは木漏れ日が微かに差すくらいで、夜になったら完全に光を失いそうだ。

 こいつと2人で歩いていたが、しばらくは無言だった。喧嘩をする以外に会話がほとんどない俺たち。
 
 しかし、しばらくして牧田が口を開いた。

 「お前、スライム1匹で、レベルがジャンプアップするって、本当か?」

 妙に改まった口調だ。俺は応える。

 「ああ、そうだよ。レベル1のポンコツなりに頑張ってんだよ。このインテリ気取りメガネ」

 まだ引きずってんのかよ、と困り顔になる牧田。さらに尋ねる。

 「この前の試験は、スライム倒しただけで、レベルが18になった、これも間違いないか?」

 「ああ」

 「そうか、分かった」

 そう納得するなり、再び無言になった。


 「あいつか」
 
 それから数分後。タイニーバットが現れた。

 木の枝に、50匹は軽く超えている。
 そこに近づくと、人間を警戒するように木の枝から離れ、バサバサと黒い塊たちが宙を飛び出した。

 大群の勢いに少しだけ驚いた。

 
 大群の一部が俺たちに襲いかかる。

 牧田が後ろに飛んで回避する。

 俺は咄嗟に剣を構えて戦闘態勢に入る。飛んでくるコウモリ型の魔物の攻撃を弾く。

 「おらあ!」

 剣でなぎ払ったが、1匹も命中せず空振りに終わった。

 「クッ…」

 「よく見てろ」

 「ああ?」

 後方を見ると、短刀を構える牧田がいた。

 俺の直剣よりも小さくて頼りない小刀。右手に持って、コウモリ達を見据える。

 今度は、コウモリが牧田に襲いかかった。

 それを弾き返そうと、まずは右手の甲を上にして、左から右上に振る。

 比較的軽いスイングで、命中どころかまともにダメージを与えられないのでは、と思った。

 案の定、下に避けられた。

 しかし。

 軽く右上に振られた短刀が、いきなり素早く方向転換し、下にいたコウモリを一気に切り裂く。消滅して青い粒子が牧田の身体を舞う。

 近くにいたコウモリも、同じ要領で、切り裂いていく。小さな塊で襲いかかった大群の一部が、あっという間に消滅した。

 「今の、分かったか?」

 「最初は、軽く振ってた…」

 どうやら、正解らしい。牧田が捕捉した。

 「すばしっこくて小賢しいこいつらに、渾身の初撃を与えようとしても避けられるだけだ。避けられることを前提に戦うのがコツだな」

 なるほど、そういえばこいつ。

 「フロアに置いてるだろ。俺が寄付した魔物の図鑑。生息から行動、習性までいろんな情報が載ってんだ。ちゃんと予習しとけよ、バカ」

 超が付くほどの、魔物マニアだ。

 「タイニーバットは、知能が高くて初撃はほとんど避けられる。また、夜になると仲間を探したり警戒する目的で発光する習性があったり、その辺の小さい木の実を食べる。意外と少食なところもある」

 「知らねえよ」

 そんなやりとりをしていると、1匹のタイニーバットが俺の方へ攻撃の準備をしているのが見えた。

 「やってみろ」

 「え?」

 「俺がやったみたいに、最初はコンパクトに。避けられる方向は、予測しろ」

 「予測って、そんなの出来んのかよ」

 じゃあ、さっきこいつが命中させたやつは、下に避けるって分かってたのかよ。

 俺に速いスピードで飛んでくる黒い生き物。

 剣を構えた。

 予測しろ、予測、予測…。

 剣のリーチに入る。

 「はっ!」

 俺は、さっきのフルスイングの半分くらいの速さで縦振りする。
 案の定、避けられた。

 左に。

 俺の読み通り。

 膝元に下ろした剣を、次はフルスイングですくい上げる。

 狙いは、こいつの、左羽の付け根。

 …当たった。

 羽を狙われて、機動力を失ったコウモリを、次は縦斬りで確実に仕留める。
 青い粒子が俺の身体を纏い、レベルが上がった。

 レベル22。

 「そのまま蹴散らせ!」

 牧田の声に俺は、はっとなる。

 レベルがリセットされる前に、こいつらを、蹴散らす。

 さっきよりも、明らかに身体が軽い。これが、高レベルの感覚。試験の時も感じた、この解放感。閉鎖された、自分の内なる何かが目覚めるような、何かが解き放たれるような。

 スピード、パワー、攻撃速度。数秒前の倍以上のステータスで、宙を舞う残りに急加速。

 「避けられるもんなら、避けてみろや!」

 剣を、縦、横な、斜めに振り回し、とうとう全滅させた。

 と、思われたが、2匹残っていた。

 後ろを取られる。致命傷にはならないが、多少の痛手は負わされるだろう。痛みを覚悟する。

 「詰めが甘え! ちゃんと見ろ!」

 牧田はそう言いながら、懐から金属の塊のようなものを、ナイフを腰に収めた右手に持って、それを構えていた。

 拳銃だ。

 俺たち学生は、基本的には銃器の携行は禁止されているが、外部から要請されたチームの任務時は、ライセンスを持っていれば携行を認められる。

 そのライセンスの取得には、莫大なお金と、難関な試験を合格する射撃力が求められるので、うちの学校では、全校でも、射撃スキルや射撃に向いているスキルを持った20人弱しか持っていないと聞く。

 その拳銃で、標的を丁度2発の弾丸を頭部に命中させて、仕留めてみせた。

 精密な射撃、おそらくこいつのスキルは、射撃、もしくは射撃に適したもの。

 「ふう。やっぱり銃は爽快だな。仰々しく鳴る発砲音、それによって外せないプレッシャー、それでもキレイに命中させた時の達成感といったらないな」

 命中の余韻に浸る牧田に、俺はただただ驚くだけだった。俺の態度に察して、一言。

 「銃使えるからって、偉そうに踏ん反り返ってるやつ、ムカつくし、友達少ないって思ってんだろ、お前?」

 「なんで分かったんだよ…」

 図星だった。
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