戦巫女様、タヌキ様?

小鳥遊 スズメ/スバル

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注意:1ページ初っ端から、シリアス&少しグロ表現があります。



ローエン国は、戦巫女が統べる国だ。

戦巫女は、誰が流したのか知らないが、奇妙奇天烈奇怪ともっぱらの噂だ。
だからこそこの国は、戦巫女は問題を抱えていた。
それは、戦巫女への婿入りをしようと申し出る王子や貴族が一切ないということだ。
その奇抜だとかいう噂と、自身が王になれないということが合わさって、面白くないらしい。

ローエン国は、この代で戦巫女は終わりかと思われた。が、しかし、希望の婿立候補者――というより、こちらも奇抜で物好きが現れた。
何と、ローエンよりも小国ではあるが、隣国の王が立候補してきたのである。

しかも、戦巫女の先代とその夫――つまり、現戦巫女の父と母を暗殺した張本人、その人だった。
余談だが、確か、婿候補の歳は四十だったはずだ。
それに対して、戦巫女は二十歳。

その旨の手紙が読み上げられると、内容が内容なだけに、隣国が攻めてくるのでは。と玉座の間騒然とする中、

「面白いじゃない」

と玉座に座る巫女装束を着た戦巫女が、楽しそうに言った。

ニヤリと三ヶ月のような口で笑う様に、さすがの家臣達もギョッとしたのは言うまでもない。

かくして、戦巫女と王の見合いが決まった。

しかし、見合いの場に出席したのは、王子だった。
否、王は確かに、主席“は”していた。





ローエン国と婿養子立候補者の国、その境に近い場所に設けられた見合いの場は、最初に騒然として、次に時が止まってしまったかのように凍り付き、シンと静まり返った。

その渦中の発端は、突如として荒々しく現れた王子だった。
戦巫女の隣に居た、お多福面のような侍女だけが、一つ遅れてキャっと小さく声を上げる。
王子が持つ物が、ポタポタと切り口から垂れて廊下を汚していくが、誰も咎める者は居ない。

王子は、髪を掴んでいた。
髪の主は、王だった。
首から下はない。

他国に比べれば、ローエンは童顔が多い国である。
王子は二十歳だったか、例にもれずローエン基準だと少し大人びた、長身で、金髪碧眼の目鼻立ちがハッキリとしていて整った顔だが、無表情でなおさら不気味だ。
そんな王子は、戦巫女の家臣達を隔て、この場の主役の彼女と対峙していた。

逸早いちはやく反応したのは、このローエンの宰相的位置づけのじいで、口を開こうとしたが、戦巫女が胸元で小さく手を上げ制す。

「よくぞ、わたくしの婿として立候補してくれた。それは礼を言う。だが、その貴方の王の首は何だ。王子」
「今は俺が、王だ。これは、前王の首。俺が狩ってきた」

掲げられた生首じっと見た爺は『確かに』と頷く。
まさに、今狩ってきたというような有様だった。

それを認めた戦巫女は、目を不快そうに細める。

「見合いの場であることを忘れていませんか?それとも、何か意図があるとでも?」

そう言っている間に、王子は生首を持ったまま戦巫女に近寄る。

爺と家臣達は、戦巫女を守るように立ちはだかった。

「退け。何故、俺の邪魔をする」

無表情、無気力そうな青年の印象から一変、自分の行動を制された王子が、エメラルドのような目に剣呑な光を湛えさせて歯をむき出す。
心なしか、金髪も逆立っているように見える。

その豹変ぶりに、戦巫女の家臣達は怯んだが、気丈にも戦巫女は恐れることなく王子を見据えた。

黒と青の目が、交差する。

「その場で答えよ」
「……」
「何故、答えぬ」
「本物の戦巫女はここに居るというのに、何故、お前に答えなければならない?」

ここと王子が示したのは、戦巫女を守る人垣の中に居た、お多福顔の侍女だった。

指を差された侍女は、狼狽えるように身じろいだ。

「わ、わたしは、侍女でして……」
「獣臭い。アンタが、戦巫女だ」

王子に断言された侍女は、ぽかんと口を開けたが、数拍ののちクツクツと笑い出した。

「ご名答。爺達がチヨを必要以上に庇うから、バレたのよ」

わたくしの時は、誰も助けてくれないくせに。
拗ねたように言うお多福侍女――戦巫女は、偽の戦巫女を演じたチヨと交代にイスに座る。

「何を言っておる。主様は一人で平気であろうが、儂の孫娘は可憐でか弱いのですぞ!!」

『そうだ。そうだ』と、所々で声が上がる。

「あーあ。悲しや。わたくしも、か弱い乙女だというに」

溜息を吐いて嘆いた後、戦巫女はひじ掛けに体重を傾け問う。

「で、その物騒なものは何かしら?それと、本当にわたくしの物になってくれるのかしら?」

思い出したかのように、皆一斉に王子だった人物を見る。

「先王は、一人の魔術師に操られていた。国が傾きそうになったから、俺が殺した。戦巫女は相手がいないので、困っている。と聞いた前王が何を考えたのか、婿に立候補したのは確かだ。詫びもかねて、我が国の王なり替わり、俺を差し出せとの我が国の宰相からの打診だ。我が国は、兄が次期王になる」
「それは……」

体のいい人身御供ひとみごくうなのでは?と爺は、喉まで出掛った質問を飲み込んだ。一日も満たなく王を終えるこの王子は、それが何を示しているのか、知っている顔だったからだ。

「それに、俺は動物が好きだ。だから、タヌキの戦巫女も好きだ」

揶揄ではない、紳士な眼差しで隣国の王子は堂々と告げた。

皆、どっと笑った。
そうに違いない。と自身の女王を見詰める。

戦巫女の目は戦を挑む戦士のような圧があったが、にっこりと笑う。

「面白いじゃないの。見合い期間を設けましょう」

その宣言と姿に、水を打ったように周りは静まり返る。

――あの笑みは、碌なことがない。

戦巫女の噂、奇妙奇天烈奇怪というのは、嘘偽りはない。
散々、振り回された家臣達だ。
楽しげに笑う自国の女王に、一同は――特に爺は嫌な予感に、背筋を凍らせたのであった。
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