目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい

そよら

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PHASE II-01|配属

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 二年前──


 零式戦域群【ZΩ-00】
 越境武装勢力殲滅作戦
 敵国内周縁都市【FRINGE-07】


 弾丸が地面を削り、乾いた音が跳ねた。
 通信が一瞬だけ途切れる。

「第二班、接近しすぎるな。包囲を崩すな」

 桐生蓮は伏せたまま指示を出し、返答を待たずに次の地点へ視線を移した。

 再装填の音が重なる中、その背後に、場違いな気配が割り込む。

「誰だ!」

 誰何の声と同時に、数人の隊員が振り返る。
 輸送車両の陰から姿を現した人物を見て、その場にいた全隊員の言葉が一瞬、詰まった。

「着任の命を受けて参りました」

 土埃ひとつない軍服。
 装備の重さが似合わないほど、線の細い輪郭。
 防護具の影に隠れてしまいそうな首筋が、無防備に見える。

「下がれ!交戦中だ!」

 叫ばれても、その男は足を止めなかった。
 銃声を全く気にせず、自然な動きで蓮の視界に入る。

「本日付けで、零式戦域群隊副官として配属されました」

 唇が弧を描いただけなのに、視線を向けた者の意識を、自然と絡め取る。

「冴木悠斗です」

 蓮はようやく振り返り、その男を一瞥した。

 戦場の緊張や銃声から切り離されたような、妖艶な笑み。

「今は戦闘中だ」

 それだけ言って、すぐに前を向く。

「下がれ。指示するまで待機しろ」
「了解」

 冴木は即座に応じ、再び輸送車両へ乗り込んだ。

 戦場には似合わない、その場違いな余裕だけが、ひどく浮いていた。

 *

 金属音が重く響き、装甲コンテナの扉が閉まった。

 蓮は背中のライフルを外さず、胸部装甲の留め具を片手で確かめる。
 グローブを外すこともなく、腰のホルスターに指を掛けたまま、端末を操作した。

「冴木中尉」

 名を呼ばれて、冴木が一歩前に出る。

「零域の任務は、国際武装兵力の殲滅だ」

「概略は、把握しています」

 蓮は、新しい副官の経歴が映し出された端末に、じっと視線を据えたまま問う。

「前線経験は?」 

「ありません」

 即答だった。

 指が一瞬止まる。
 蓮は端末をスクロールさせる。

「前所属は、第七戦略域 赤域管理部」

 読み上げて、わずかに怪訝そうに眉が動いた。

「通称、レッドセクターか」

「そのように呼ばれることもあります」

 蓮は初めて顔を上げた。
 名前だけは聞いたことがある。
 中央戦略顧問直属、管理層すら把握できない極秘階層。

「前所属での主任務は」

「特殊取引に関わる対諜報外交です」

「具体的には」

「機密です」
 
 視線が合った瞬間、ふっと冴木の口元が緩む。
 意図したものではない。
 その笑みは、向き合った者の呼吸を乱す。
 理由も分からないまま、意識は引き寄せられていた。

「前所属部署は、そういう職務か」

「そう言うとは?」

「言わせたいのか」

「ご想像に、お任せします」

 冴木は曖昧に答え、肩をすくめた。

「中央戦略府の回し者か。それとも、犬か」

「答えられません」

 蓮は乱暴に端末を閉じる。

「ならいい」

 間を置いて、今度は冴木が首を傾けた。

「質問しても?」

「簡潔にしろ」

「自分で何人目の副官ですか」

「知らん。数えてない」

「数えきれない、では?」

 冴木がくすりと笑う。

 蓮は視線をきつくして、顔を上げた。

「死にたくなければ後方でおとなしくしてろ。戦況がこちらに傾いたら、」

 一瞬、言葉を切る。

「すぐに退任を願い出ろ」

 冴木は瞬きを一つしてから、また笑った。

「その顔、やめろ。命令だ」

「どの顔です?」

 問い返しながら、冴木は再び口元を緩める。
 思わず意識を奪われそうになる、そんな種類の美しさ。

 蓮はそれ以上、何も言わず踵を返した。
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