29 / 56
第2部      大地の勇者はかく戦えり

第15話

しおりを挟む

アリザリン討伐を終えたラベンダーたちは、隣国クラウド王国へ足を延ばした。
目的はただ一つ――ゴールド王国の王太子クラレットに、討伐の報告をするためだ。

王都の王宮では臨時の論功行賞が行われ、ラベンダー一行は功績に見合う褒美を受け取った。

スレートとベルフラワーは貴族の地位を望み、それぞれ男爵位を授かった。
功績を重ねれば、さらなる昇進もあるだろう。

聖女ケイトは所属教会への寄付金を希望した。
六武威ミモザは何も求めず、「これも六武威の責務の範囲内だ」とだけ言った。
その言葉の硬さが、まだ胸の内を整理できていない証に見えた。

キース・マリーゴールドはもともと伯爵家の三男。
嫡男ではない以上、通常は家督を継げない身だった。

だが今回、事情は変わった。
邪神封印の監視という“家に残るべき務め”が生まれたからだ。

結果、キースは上の兄たちを差し置いて家督を継ぐことになった。
もちろん、兄たちが路頭に迷わぬよう、別家の後継に回す手配も整えたという。
――マリーゴールド家は、これから長く「封印」を守る一族になる。

スレートは「シルバーナ男爵」、ベルフラワーは「プラチアーナ男爵」。
新たな名を拝領し、二人は誇らしげに胸を張った。

しかし。

シャドウだけは、何も受け取らなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

クラウド王国の王都、王宮。
臨時の論功行賞のあと、ささやかな慰労の席が設けられた。

主催者は王太子クラレットと、その婚約者セピア女王。
二人は勇者ラベンダーと仲間たちへ、ひとりずつ丁寧に労いの言葉をかけていった。

ラベンダーから始まり、ミモザ、サンドベージュ、スレート、ベルフラワー。
そして最後に聖女ケイト。

それを終えると、クラレットとセピアは一礼して退席した。

本来ならこの場には、もう一人いるはずだった。
黒い鎧の剣士――シャドウ。いや、ホワイト。

彼の姿は、どこにもなかった。

本人から「具合が悪いので部屋で休ませてほしい」と申し出があった、と皆は聞かされていた。
だから誰も深くは気にしなかった。

けれど――本当の理由を知っている者は、一人だけいた。

サンドベージュである。

ラベンダーがホワイトへ向ける視線。
それが“親愛以上”であることを、サンドベージュは知っていた。

死んだと聞かされていた。だから、忘れたはずだった。
それなのに目の前に戻ってきたとき、胸の奥に沈めていた感情が、醜く息を吹き返したのだ。

サンドベージュは笑っていた。
笑顔のまま、ホワイトにだけ低い声で告げた。

「――今日は休め。お前は出ない方がいい」

ホワイトは、その言葉を疑わなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

クラウド王宮、ホワイトが休息している部屋。

「入るよ」

軽快な声とともに扉が開き、クラレットが顔を出した。
そして、ホワイトを見るなり、目を潤ませて笑った。

「ホワイト。良く生きていたね!!」

抱きしめる。
勢いが強すぎて、ホワイトは思わず呻いた。

「ぐぇ! おい、あ、相変わらず馬鹿力だな。もうちょっと優しくしてくれ」

「あ、ごめん!」

クラレットは慌てて離れ、それでも嬉しさを隠せないまま言った。

「本当によかったよ。ぼくは、うれしい!!」

ホワイトは苦笑して、胸元のペンダントに触れた。

「正直、僕も駄目だと思った。・・・・たぶん、これのおかげで命拾いしたんだ」
「ラベンダーからもらったペンダントだ。身代わりの効果があったらしい。今も、ここにある」

クラレットはそれを見つめ、何度も小さく頷いた。

「・・・・聞いたよ。大地の勇者がいなくなったって」
「ホワイトは今後どうするの? よかったら、ぼくと一緒に来ない?」

ホワイトは少し俯き、短く息を吐いた。

「ありがとな。気を遣ってくれているんだろ」
「でも大丈夫。・・・・・やることがある。僕にしかできないことがあるらしい」

「あるらしい、って何それ」

クラレットが眉をひそめると、ホワイトは誤魔化すように笑った。

「まあ、そんな話は後でいいじゃん」
「久しぶりに、こうして二人で話せる機会なんてないんだから」

「もちろん。ぼくもだよ。死んだって聞かされた時は、どれだけ――」

そこから先は、積もる話が止まらなかった。
笑って、ため息をついて、少しだけ黙って。
それでも会話は尽きず、二人は久しぶりの時間を過ごした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

数日後。

ラベンダーたちはクラウド王国で英気を養い、次なる目標へ向けて準備を整えた。

魔王討伐。
そのために、魔王が活動している地域へ進軍する必要がある。

勇者ラベンダー一行は、王都から元気よく旅立った。
その雄姿を一目見ようと、王都中の国民が集まり、歓声で見送った。

――しかし、その中に黒い鎧の剣士ホワイトの姿は、なかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ラベンダー旅立ちの前日。


ホワイトは、王宮の一室でサンドベージュの前に立っていた。
背筋を伸ばし、礼を尽くすように深々と頭を下げる。

「サンドベージュ団長。短い間でしたが、お世話になりました」

どんな事情があろうと、挨拶はきちんとしたい。
それがホワイトの流儀であり矜持だ。

「僕がいることでラベンダーの足を引っ張るというのなら、僕は喜んで距離を置きます」
「そして――団長の言う通りの任務を受けたいと思います」

「ただ、ひとつだけ。お願いがあります」

声音だけが、妙に落ち着いている。

「この身体、僕が思っているより、ずっと限界が近いみたいなんです」

そう言って、左腕の手首あたりを――鎧の内側から押さえる。
指先が一瞬だけ震えた。

「戦えば戦うほど、酷くなっていく。回復魔法も効かない」
「だから、“治す手がかり”を探したいんです」

サンドベージュの視線が、ホワイトの押さえた腕へ向いた。

「僕、あの爆発のあと目が覚めた時には、知らない場所にいました」
「そこにいた誰かが僕を見つけて、生きる方法を教えてくれたんです」

記憶の底を撫でるように、言葉を選ぶ。

「でも、顔が思い出せない。名前も、声も・・・・輪郭だけが曖昧で」
「それでも、追えば見つけられる気がするんです」

ホワイトは、もう一度だけ深く頭を下げた。

「団長。任務の合間に、その人物を追う許可をください」
「任務をおろそかにするつもりはありません。必ず期待に応えて見せます」

しばらく沈黙が落ちた。

サンドベージュは短く息を吐いて、視線を逸らす。

「・・・・・好きにしろ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その夜。

クラウド王国の王宮の一室。
ホワイトは小さな紙片を一枚だけ切り取り、迷いなく書いた。

宛名は――クラレット。

『探し物を見つけに行く。必ず戻るから』

それだけ。

丁寧に畳み、机の上に置く。
ペンダントを握り、深く息を吸った。

胸の奥が痛む。
それでも、行かないと。

ホワイトは音を立てずに扉を閉めた。

廊下に灯る明かりが、黒い鎧を一瞬だけ照らし――
次の瞬間には、もう影しか残っていなかった。

第2部 本編 終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...