43 / 56
第3部 黒い剣士と宿敵の魔族メイズ
第11話
しおりを挟む夜明け前。
ラベンダーは、まだ誰もいない回廊を一人で歩いていた。
足音が、やけに大きく響く。
思い返せば、いつもそうだった。
危険な役目を、自分より先に引き受ける。
目立たない場所で、誰かの“失敗”を肩代わりする。
評価されなくても、文句を言わない。
それが“優しさ”だけではなく、覚悟も混じっていたと気づいたのは、ずっと後だった。
「・・・・・私、何を見てたんだろう」
勇者。
選ばれた者。
期待される存在。
その言葉の裏で、彼が、ホワイトがどれだけ自尊心を削られていたか――
自分は、ちゃんと見ていただろうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぼくクラレットもその諜報網を駆使して、ホワイトの足取りを掴んでいた。
そして、ホワイトの居る宿屋がわかった時、ぼくは、真っ先にラベンダーに伝えに行った。
「クラレットくん?」
「ラベンダー、ホワイトの居場所が分かったよ。会いに行くかい?」
「もちろん」
嬉しそうに微笑むラベンダーとは対照的にぼくのこころは落ち込む。
恋敵に塩を送るんだ。
でも、ホワイトが本当に望んでいるのはぼくじゃない。
ラベンダーだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クラレットの案内でホワイトとラベンダーは会った。
その夜。クラレット、ラベンダー、ホワイトの運命が交錯した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜が明けて。
「急がないと」
ホワイトは、ベッドから立ち上がろうとしたが、体がよろめいた。
すぐにラベンダーがホワイトの身体を支えた。
「・・・私が支える」
ラベンダーはその腕を離すまいと強く握りしめた。
ホワイトは支えられながら一歩一歩、先へ進む。、
砂漠の奥。
崩れた神殿とは別の場所。
そこに――魔王の居城が、姿を現していた。
静かに。
圧倒的に。
その手前で、三つの運命が、同時に収束し始める。
勇者。
名を呼ばれぬ剣士。
そして、宿命を背負った魔族。
(ここで、決着をつける)
ホワイトは、胸の奥で静かに思った。
(でも――)
視線の先にはラベンダーがいた。
(僕は、独りじゃない)
その確信だけを携えて、彼は一歩、前に進んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
砂漠の夜は冷える。
火があるのに、骨の芯が冷たい。
ホワイトは焚き火の前で、指先をじっと見ていた。
ホワイトはナイルと合流した。
震えは、止まらない。それは寒さのせいじゃない。
身体の奥が、もう摩耗しきっている。
「・・・・・顔色、最悪。でも目は死んでないわね」
ナイルが、ぶっきらぼうに言った。
だけど視線は、ずっと彼の手元を追っている。
「分かってる」
ホワイトは笑おうとして、咳き込みかけた。
耐えた。
今ここで崩れたら、もう立ち上がれない気がする。
そのとき――
「ホワイト君」
声が聞こえた瞬間、ホワイトの表情がゆるむ。
ラベンダー。
鎧の上から砂を払う仕草は、旅の途中のそれなのに――
目だけは、とても優しかった。
「なんだい?」
ホワイトの声は、思ったよりかすれていた。
その問いを無視してラベンダーは、
「あなたが、私の“邪魔”にならないために無理をしてるの、分かるよ」
ホワイトは息を呑んだ。
言葉が出ない。
ナイルが、わざとらしく咳払いをした。
「はいはい。そういう話はあとあと。時間がないわよん」
ラベンダーがナイルを見る。
ナイルもラベンダーを見る。
互いに、相手の強さを一瞬で理解する目だった。
「・・・・・あなたが、ナイル、さん?」
「そうよん」
「この魔力の流れ・・・・・龍族?」
「そう」
短い言葉のやりとり。
それだけで、十分だった。
ラベンダーはホワイトに視線を戻し、一つだけ、強い声で言った。
「私、魔王の元へ行く」
ホワイトは頷く。
それは止められない。
「・・・・・うん」
「その前に、もう一度だけあなたに会いたかったの」
“会いたかった”
その言葉だけで、胸がじんわりと熱くなる。
ホワイトが口を開こうとした時、砂の向こうから馬蹄と鎧の音が近づいた。
「ラベンダー!!」
先に飛び出してきたのは、サンドベージュだった。
すぐ後ろに、キース、ミモザ、ケイトが続く。
「勝手な行動するな!単独行動など。心配したんだぞ!」
サンドベージュの怒声が止まった。
ホワイトを見つけたからだ。
「っ、きさま・・」
空気が、硬直する。
キースが先に口を滑らせた。
「え、なに、あいつ・・・・・生きてたの?」
ミモザが小さく息を吐く。
聖女ケイトは、まるで祈るように目を閉じた。
ラベンダーは、仲間たちの前に一歩出た。
「勝手に動いてごめんなさい。私が悪いの」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
サンドベージュは歯を食いしばり、握りしめた拳からは血が流れていた。
「・・・・・分かった。だが、時間がない」
彼が言う“時間”は、魔王への道のことだ。
そして――
ホワイトは別の“時間”を数えていた。
(僕の時間)
もう、長くない。
だからこそ、今夜で――
決めなければいけない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる