赤ずきんと猟師

すなぎ もりこ

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悪臭①

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 やがて、素っ裸の男がたるんだ腹を掻きながら現れた。あがぁと汚い声を上げて欠伸をし、片手に掴んだ猟銃を揺らしながら持ち直す。
「うるせぇぞクソ狼、黙れって言ってるだろうが……耳を吹っ飛ばすぞ」
 狼はぐるると唸るも、尾を下げて後退る。男は無精ひげの斑に生えた顔を歪めて笑った。
 痩せこけた狼より優位に立てることがよほど嬉しいのか、銃を構え醜い身体を揺らして前後にステップを踏む。股の茂みの中から萎びた男根が見え隠れした。
「ほらほら、逃げねえのか、まごまごしてたら撃つぞ、撃っちまうぞ」
 ジャックは藪の中で舌打ちを堪える。反吐を吐きそうなほど醜悪な男の登場に、目の下がぴくぴくとひきつった。
 ふと隣を窺えば、メイジーが両手を握り合わせ、唇を噛んで震えている。
 男はガサツいた声で狼を唆した。
「そうだ、姉ちゃんを呼んで来いよ。だったら見逃してやる。あれでも雌だからな、突っ込んでやればいい声で鳴くぜ? 俺が存分に可愛がって女にしてやるから安心しな。母ちゃんもまとめて面倒見てやるよ」
 男がゲヒゲヒと汚い笑い声を立てながら胸毛を掻く。頭に残った髪より豊かなそれが、赤黒い指に絡んでいる。
 男はジャックが想像していたよりずっと年配で、下衆だった。
 メイジーは縮こまっている。その横顔は青ざめ、今にも泣きそうだ。
 ジャックの中に急激に怒りがこみ上げる。ついぞ経験したことのないような嫌悪感と強烈な憤りだった。
「ほら、行けよ! お前らみたいなイカレた化け物は里じゃあ生きていけねぇんだ! 俺の言うことを聞くしか道はねぇんだよっ」
 のけ反って笑う男だったが、やがて胸を押さえ苦しそうに咳き込んだ。身体を折り曲げ、銃床を地面に置き膝をつく。
 ジャックはゆっくりと深呼吸し、手に持った猟銃の薬室を開いた。
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