スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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 グリンバルドは眉を顰める。
「そのような噂は聞かないが。彼女らのことは社交場でもほとんど話題に上らない」
「へえ、それは却って不自然ですねぇ。年頃の七人姉妹ですよ? しかも公爵家。独身のお坊ちゃまたちの興味を引かないわけがなさそうだけど」
 ジャックは首を傾げた。グリンバルドは顎に手を当て神妙な表情で呟く。
「揃って身体が弱く、王都の砂塵が原因で胸を悪くしたと聞いています。発作が酷く社交もままならいため数年前から別荘で療養していると……それくらいです」
「全員元気そうに見えたけどなぁ」
 侍女長は小さく首を振る。身体を傾けて二人に近づくと、声を潜めた。
「公に知れ渡らぬように揉み消しているのです。公爵家の権力なら容易いこと。けれど、完全には御しきれない。私共使用人は屋敷の外に出ないわけには参りません。どうしたって人と接する。そして、人の口に戸は立てられないのです」
「ドワーフ家の使用人から直接なにかを聞いたのですか?」
「娘からの情報です。同僚の母親の従弟がドワーフ家の調理場で働いているそうで」
「ビミョー! 信用できるようなできないような……」
 ジャックがもどかしげに胸を掻く。
「ともかく聞きましょう。火のないところに煙は立たずと言いますし」
 三人は顔を付き合わせ、薄暗い廊下でこそこそと話し合った。
「まずその一、ドワーフ家には大量の蜜蠟が保管されているようです。不思議に思って古参の調理師に訊ねたところ、青ざめて口をつぐんだとか」
「蜜蝋って保湿効果があるんだろ? 貴族の女どもなんかは、やたらと身体中に塗ったくっているそうじゃないか。あそこの家は七人もいるし結構消費するんじゃねぇの―?」
「蜜蝋を保管するための倉庫があるそうですよ。馬小屋の三倍はあるそうです」
「それは確かに度が過ぎていますね」
「そして、その二です」
 侍女長は切れ長の緑の瞳で二人を見据え、強張った声で告げる。側面から照らすランプの灯りで、地味な顔に深い陰影が落ちる。男たちはごくりと唾を呑み込んだ。
「グリンバルド様、一時、王都を賑わした神隠し事件をご存じですか?」
 予想外の問いにグリンバルドは一瞬戸惑うも、程なく侍女長がいうところの噂に思い当たる。
 三年ほど前だろうか、少年少女が連続で姿を消すという事件があった。狙われたのは十三から十七の子供で、下校途中にいなくなり、自警団と親族が懸命に捜索するも見つからない。騎士団に協力を要請するが、全員が平民の子供だったために人員を割く許可が下りず、やがて捜索は打ち切られたと聞いている。大方腹を空かせ町に下りてきた野犬にでも襲われたのだろうと片づけられた。
「被害者の共通点は平民であること、年齢、それと――いずれも優れた容姿の持ち主だったという点です」
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