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「歴代国王の人形は城の地下に保管され、次代へと引き継がれるのよ。生前の功績を神々しい姿と共に子孫へ伝えることが目的だとされているの。校外学習で王宮見学をした際に説明されるはずなのだけど……貴方、サボったのね」
 グリンバルドはジャックの肩を掴み、問いかけた。
「ジャック、お前は何度かあの家に行き、令嬢たちにも会っていますね。何かおかしなところはありませんでしたか? お前には動物的な勘がある。何か感じませんでしたか?」
 肩に掛かる力からグリンバルドの真剣さが伝わり、ジャックは身を引き締めた。目を瞑り、ドワーフ家の記憶を手繰り寄せる。
 しかし、ジャックは所詮平民だ。高貴な貴族の『普通』がどういったものかわからない。お世話になっているこの家は貴族とはいえ田舎の中級貴族。使用人と主人との距離が近く生活も質素な方だと思う。
 最初からドワーフ家のことを特別だとみなしているから、違和感など感じようがないのだ。それに……
「あの家の周りは薔薇が取り囲んでいるから鼻がまったく利かねぇんだ。はっきり言って居心地が悪い。できれば長居したくねぇし、行きたくねぇ」
 グリンバルドはジャックの肩から手を退け、侍女長と顔を見合わせた。
「そうでしたか。お前には酷なことを任せていたのですね。知らなかったとはいえ申し訳ないことをしました」
 静寂が落ち、三人は無言で立ち尽くす。
 侍女長の口から飛び出した衝撃的な事実を鵜呑みにすることもできず、しかし無視もできず、グリンバルドはどうするべきかを決めかねていた。一方、侍女長は不安に押しつぶされそうになりながらも、己ひとりではどうすることもできない無力感に襲われていた。ジャックには最善策がわかっていたが、お貴族のややこしい事情が分からなかったので、口には出せずにいた。
 しかし、三人には共通する思いがあった。各々の立場と性格上、これまでスノウにうまく伝えられずにいたが、そのせいでこのような事態を招いてしまったことを自覚していた。そして、同時に深く反省していたのである。
 やがて、しんと沈んだ闇を真っすぐと切り裂くように、力強く澄んだ声が放たれた。
「わかりました。私が参りましょう。私がスノウ様を取り戻します」
 ジャックは身体の横で密かに拳を握る。侍女長は顎下で手を組み、身を震わせた。
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