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対戦当日
⑤
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橋を渡り切った場所にはそこだけが切り取られたような平場になっていた。目前には濃い緑がうっそうと茂り、視界を遮っている。左右を見れば川の際まで森の木が押し寄せており、水中まで根が張っているのが見えた。
ここで《詠唱その1》を唱えれば、魔王城までの道が開くはずだ。
欄干に掴まりながら橋を渡り終えたバーノンが隣に並ぶ。
僕は深く息を吸い込み、声を発した。
詠唱を唱え終えた途端に樹木がざわざわと騒ぎ始め、ぱっくりと二つに割れた。
植物が動くという気味の悪い現象を目の当たりにしバーノンは怯え、僕の腕にしがみつく。
「歩きづらいんだが」
「君ったら、どうしてそんなに平然としていられるの! なにこれ! 信じられない!」
「神の奇跡を目の当たりに出来たんだから光栄に思えばいい。神父冥利に尽きるだろ」
僕はセルジュが魔力を使うのを幾度となく目にしている。超常現象には耐性があるのだ。
「神様って本当にいるんだ……」
立場上言ってはならない言葉をバーノンが呟いた。
僕たちは緑のトンネルを歩く。時折、折り重なる樹木の隙間からけたたましい鳥の鳴き声や獣の遠吠えが聞こえた。その都度身体をびくつかせるバーノンを腕にぶら下げながら、僕は黙々と足を動かす。
ついと上を見上げれば、どんよりとした紫灰色の雲が上空を覆っている。風に流れることなくひたすら渦巻くそれは初めて目にするもので、普通の雨雲でないことは明らかだ。きっと、これが瘴気と呼ばれるものなのだろう。
周囲を取り巻く樹木の幹は揃って捩じれており、橙色の斑点が浮き出ている。葉の大きさも形も不規則だ。人間と同じく瘴気の影響で姿かたちを変えてしまったに違いない。
「それにしても気味が悪い。魔族を見てみたいと思っていたけれどやっぱり恐ろしいな。こんな場所で生きているなんて、どんなにか醜い形をしているだろう」
「……さあね」
それが偏見であることを僕は知っている。僕はセルジュしか知らないが、彼があれほど美しいのだから、他の魔族を見ても醜いとは感じないと思う。
セルジュほど完璧な生物を見たことがない。
真紅の瞳も青黒く光る捩じれ角も力強い漆黒の翼も、他の何とも比べようがない。芸術的で官能的だ。
バーノンも、ひと目で虜になるに決まっている。それがわかるからこそ、絶対に会わせたくないと思う。僕以外の人間と接触させたくない。僕が唯一の人間でありたい。
セルジュの素晴らしさを広く知らしめたい一方で、誰にも知られたくないと思う。
僕は粘着質な欲が渦巻く胸を押さえ、焦げた息を吐く。
ああ早くセルジュに会いたい。
こんなに長くセルジュと会わずにいるのは初めてだ。
下り月の半月から新月を経て満月まで、二十日以上も彼を目にしていない。
僕はセルジュを渇望していた。
ここで《詠唱その1》を唱えれば、魔王城までの道が開くはずだ。
欄干に掴まりながら橋を渡り終えたバーノンが隣に並ぶ。
僕は深く息を吸い込み、声を発した。
詠唱を唱え終えた途端に樹木がざわざわと騒ぎ始め、ぱっくりと二つに割れた。
植物が動くという気味の悪い現象を目の当たりにしバーノンは怯え、僕の腕にしがみつく。
「歩きづらいんだが」
「君ったら、どうしてそんなに平然としていられるの! なにこれ! 信じられない!」
「神の奇跡を目の当たりに出来たんだから光栄に思えばいい。神父冥利に尽きるだろ」
僕はセルジュが魔力を使うのを幾度となく目にしている。超常現象には耐性があるのだ。
「神様って本当にいるんだ……」
立場上言ってはならない言葉をバーノンが呟いた。
僕たちは緑のトンネルを歩く。時折、折り重なる樹木の隙間からけたたましい鳥の鳴き声や獣の遠吠えが聞こえた。その都度身体をびくつかせるバーノンを腕にぶら下げながら、僕は黙々と足を動かす。
ついと上を見上げれば、どんよりとした紫灰色の雲が上空を覆っている。風に流れることなくひたすら渦巻くそれは初めて目にするもので、普通の雨雲でないことは明らかだ。きっと、これが瘴気と呼ばれるものなのだろう。
周囲を取り巻く樹木の幹は揃って捩じれており、橙色の斑点が浮き出ている。葉の大きさも形も不規則だ。人間と同じく瘴気の影響で姿かたちを変えてしまったに違いない。
「それにしても気味が悪い。魔族を見てみたいと思っていたけれどやっぱり恐ろしいな。こんな場所で生きているなんて、どんなにか醜い形をしているだろう」
「……さあね」
それが偏見であることを僕は知っている。僕はセルジュしか知らないが、彼があれほど美しいのだから、他の魔族を見ても醜いとは感じないと思う。
セルジュほど完璧な生物を見たことがない。
真紅の瞳も青黒く光る捩じれ角も力強い漆黒の翼も、他の何とも比べようがない。芸術的で官能的だ。
バーノンも、ひと目で虜になるに決まっている。それがわかるからこそ、絶対に会わせたくないと思う。僕以外の人間と接触させたくない。僕が唯一の人間でありたい。
セルジュの素晴らしさを広く知らしめたい一方で、誰にも知られたくないと思う。
僕は粘着質な欲が渦巻く胸を押さえ、焦げた息を吐く。
ああ早くセルジュに会いたい。
こんなに長くセルジュと会わずにいるのは初めてだ。
下り月の半月から新月を経て満月まで、二十日以上も彼を目にしていない。
僕はセルジュを渇望していた。
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