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⑤お喋り王子
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しかし、そんなミランダの心中を知らないアーネストは、自らのことを無防備にさらしていく。無視をしようと思っても、すべてを聞き流すことは難しい。耳を塞ごうにも手を止めては作業がはかどらない。
ミランダは思い余ってアーネストに注意した。
「殿下、あまりに軽率じゃない? 仮にも一国の王太子なんだから、そんなあけすけに話すものじゃないわ」
「なぜだ?」
「誰かに聞かれたらどうするの? 万が一事情を知られでもしたら困ったことになるかもよ」
「こんな山奥にはめったに人は来ないだろう。もし、誰か来たらハンスたちが教えてくれる」
「……私は魔女よ。誰にも忠誠を誓うことのない流浪の民。私たちは群れないし情が薄いの。利益になると思えば、平気で情報を売り渡すわよ」
「ふうん。かっこいいな」
アーネストの返答にミランダは拍子抜けし、続ける言葉を見失う。魔女は信用するに値せずと忠告したかったのに、アーネストの興味を引いたのは、話の前半部分だったようだ。
「魔女殿はひとりで生活しているのか。偉いな。こんな人里離れたところで怖くはないのか?」
「……別に。仮に何かあっても、呪術が使えるし」
「どんな呪術が使えるのだ?」
手の内を明かすなど、これまでのミランダなら絶対しない。しかし、アーネストの自己紹介をたっぷり聞かされたあとでは、なんだかフェアじゃない気がした。
「ぬいぐるみを動かすことができるわ。みんな驚いて逃げていく」
「確かに!……あのアル中のサツマイモ人間が迫ってきたら恐ろしいな!」
「アル中のサツマイモ人間ってなによ。あれはロバよ」
アーネストは目を見開き、少しの間黙り込んだ後、再び口を開く。
「……同じものを見ていても他人の頭の中は覗けないからな。魔女殿にはロバがあのように見えているのだな。時に、我は魔女殿にはどう見えているのだろう」
ミランダは針を持つ手を止めて、しばしアーネストを観察した。そして、再び作業に取り掛かる。ちなみに今は、掌に薬指を縫い付けているところである。ミランダは、素早くしかし繊細に針を操りつつ訊ねた。
「なぜそんなことを知りたいの?」
ミランダは思い余ってアーネストに注意した。
「殿下、あまりに軽率じゃない? 仮にも一国の王太子なんだから、そんなあけすけに話すものじゃないわ」
「なぜだ?」
「誰かに聞かれたらどうするの? 万が一事情を知られでもしたら困ったことになるかもよ」
「こんな山奥にはめったに人は来ないだろう。もし、誰か来たらハンスたちが教えてくれる」
「……私は魔女よ。誰にも忠誠を誓うことのない流浪の民。私たちは群れないし情が薄いの。利益になると思えば、平気で情報を売り渡すわよ」
「ふうん。かっこいいな」
アーネストの返答にミランダは拍子抜けし、続ける言葉を見失う。魔女は信用するに値せずと忠告したかったのに、アーネストの興味を引いたのは、話の前半部分だったようだ。
「魔女殿はひとりで生活しているのか。偉いな。こんな人里離れたところで怖くはないのか?」
「……別に。仮に何かあっても、呪術が使えるし」
「どんな呪術が使えるのだ?」
手の内を明かすなど、これまでのミランダなら絶対しない。しかし、アーネストの自己紹介をたっぷり聞かされたあとでは、なんだかフェアじゃない気がした。
「ぬいぐるみを動かすことができるわ。みんな驚いて逃げていく」
「確かに!……あのアル中のサツマイモ人間が迫ってきたら恐ろしいな!」
「アル中のサツマイモ人間ってなによ。あれはロバよ」
アーネストは目を見開き、少しの間黙り込んだ後、再び口を開く。
「……同じものを見ていても他人の頭の中は覗けないからな。魔女殿にはロバがあのように見えているのだな。時に、我は魔女殿にはどう見えているのだろう」
ミランダは針を持つ手を止めて、しばしアーネストを観察した。そして、再び作業に取り掛かる。ちなみに今は、掌に薬指を縫い付けているところである。ミランダは、素早くしかし繊細に針を操りつつ訊ねた。
「なぜそんなことを知りたいの?」
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