ぬいの王子と裁縫の魔女

すなぎ もりこ

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⑦調子に乗る生首王子

⑦-2

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「このようなことに付き合わせて申し訳なかった」
 しょんぼりしながら謝罪するアーネストを横目で見ながら、ミランダは洗って濡れた手を布で拭き取る。
「私がやるって言ったんだから謝る必要はないわ」
「ミランダは優しいな」
 どうやら呼び名を魔女殿に戻すつもりはないらしい。ミランダは使い過ぎた手首を回して解すと、アーネストの胴体をひざ掛けで覆って隠す。ちらりと見えた陰茎はすっかり萎んで垂れ下がっていた。
「これで当分大丈夫なんでしょう? 明日になれば腕も付くし自分で処理できるわね」
「ああ。でも、我は引き続きミランダとの情事を想像して抜くだろう」
「そんなことはいちいち宣言しなくていい」
「一応断っておかなければ。我はきっとミランダの名前を連呼するだろうから」
「黙ってできないものなの?」
「口に出した方が盛り上がる。ミランダの名を呼ぶと、胸も陰茎もきゅっとするのだ」
 全然嬉しくないわ。
「ミランダの裸を、乱れた姿を想像することを許してほしい」
「勝手にすればいい」
「できれば、使用済みの下着なんかを貸してくれると……」
「調子に乗んなよ、エロ王子」
 てへっと笑うアーネストの向こう、窓から見える空は橙に染まっている。片側から風に乗って漂ってきた煙が、景色を曇らせた。きっと、騎士たちが夕飯を作り始めたのだろう。
 納屋を寝床に開放し、風呂も使ってよいと言えば、彼らは無邪気に喜んだ。自分たちで食材を調達し、三食を野外炊飯で賄っている。警備をしつつ剣の稽古にも手を抜かない実に真面目な生活ぶりである。
 彼らやアーネストに接するうち、ミランダの中で変化が生じていた。過度な警戒心が和らぎ、誰かと過ごす感覚を取り戻しつつある。
 ミランダはアーネストの首を持ち上げ、定位置であるテーブルの上に置く。窓際で作業するミランダを見たいと言う彼のために、用意した場所だ。
 夕日色に染まったアーネストが、夢見るように話し出す。
「ここは景色がきれいだな。綺麗な鳥が飛んで、たまにウサギやキツネも横切るのだ。夜は星が瞬いて、フクロウの鳴き声や虫の音が心地よい音楽を奏でる。穏やかに時が流れ、静かで、だが命に溢れている」
「その代わり不便よ。孤独だし」
「我は常に周りに誰かがいるところで育った。賑やかだが、ふと煩わしく感じることもある」
 ミランダはそっとアーネストの横顔をうかがった。彫りの深い顔に陰影が落ちている。夕日の眩しさに目を細める表情が、どこか痛みを耐えているかのように見えた。
「あら、殿下が一番うるさいんじゃないの?」
「違いない」
 笑うアーネストに安堵し、作業台へと戻るミランダの背後から、ぽつりとつぶやく声がした。
「命とは誰のものなのだろう。我はたまにわからなくなるのだ」
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