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⑰種明かし
⑰-2
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アーネストは、温度の伴わないブルーの目をミランダに向ける。そして、ゆっくりと答えた。
「最初から言っている。我をバラバラにしたのは魔女だ。ミランダの師匠の『針の魔女』である」
衝撃を受け目を見開くミランダに、アーネストは更に驚くべき事実を告げる。
「そして、我の胸に針を刺した張本人だ」
ミランダはぐらつく頭を支えるため額に手を当てた。話が呑み込めず思考が上手く働かない。
なぜ師匠がアーネストに手を貸した?
なぜアーネストの胸に針を残したのだ?
「我は幼いころ病弱だったと言ったろう? ここが悪かったのだ」
アーネストは裸の胸を撫でる。
「生まれつきの疾患でな。少しでもはしゃげば発作が出る。胸が苦しくなり立っていられなくなるのだ。一年の半分はベッドの上で過ごした。医者からは十になるまで生きられないだろうと言われていた」
ミランダは胸を突かれ、目を伏せて黙り込む。
今のアーネストは、均整の取れた肉体の持ち主であり、とても健康そうに見えた。病弱だったという過去が想像もつかないほど逞しい。
「しかし、遊びたい盛りの我はただ寝ているだけの毎日に退屈していたのだ。監視の目を盗んでは外へ出て、その度に連れ戻されていた」
アーネストは記憶を辿るように視線を遠くへ向ける。緊迫した部屋の空気とは裏腹に、窓の外ではいつものように小鳥が囀っている。彼は、長閑な風景が映る瞳を細めた。
「あの日も我は城を抜け出して園庭へと遊びに出た。我は木立の間を舞う青い蝶を見つけ、それを追って庭の奥深くに入り込んでいった。王宮の園庭はとても広い。それこそ、ちょっとした森ほどに。小さな小川があって蓮の池に繋がっている。色とりどりの花が咲く丘もあるらしい。我はその全てを見てみたかったのだ。しかし、その日もそれは叶わなかった。―発作が起きたからだ」
「最初から言っている。我をバラバラにしたのは魔女だ。ミランダの師匠の『針の魔女』である」
衝撃を受け目を見開くミランダに、アーネストは更に驚くべき事実を告げる。
「そして、我の胸に針を刺した張本人だ」
ミランダはぐらつく頭を支えるため額に手を当てた。話が呑み込めず思考が上手く働かない。
なぜ師匠がアーネストに手を貸した?
なぜアーネストの胸に針を残したのだ?
「我は幼いころ病弱だったと言ったろう? ここが悪かったのだ」
アーネストは裸の胸を撫でる。
「生まれつきの疾患でな。少しでもはしゃげば発作が出る。胸が苦しくなり立っていられなくなるのだ。一年の半分はベッドの上で過ごした。医者からは十になるまで生きられないだろうと言われていた」
ミランダは胸を突かれ、目を伏せて黙り込む。
今のアーネストは、均整の取れた肉体の持ち主であり、とても健康そうに見えた。病弱だったという過去が想像もつかないほど逞しい。
「しかし、遊びたい盛りの我はただ寝ているだけの毎日に退屈していたのだ。監視の目を盗んでは外へ出て、その度に連れ戻されていた」
アーネストは記憶を辿るように視線を遠くへ向ける。緊迫した部屋の空気とは裏腹に、窓の外ではいつものように小鳥が囀っている。彼は、長閑な風景が映る瞳を細めた。
「あの日も我は城を抜け出して園庭へと遊びに出た。我は木立の間を舞う青い蝶を見つけ、それを追って庭の奥深くに入り込んでいった。王宮の園庭はとても広い。それこそ、ちょっとした森ほどに。小さな小川があって蓮の池に繋がっている。色とりどりの花が咲く丘もあるらしい。我はその全てを見てみたかったのだ。しかし、その日もそれは叶わなかった。―発作が起きたからだ」
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