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“──真白、すまなかった”
そんな言葉が聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか。
腕に抱きしめた存在は徐々に小さくなっていき、
「ましろ?」
可愛い声に呼ばれて腕の中を見ると、大きな黒曜石の瞳がこちらを見ている。
「・・・白夜兄さま」
「・・・ましろだろ?」
腕の中、5、6歳位の小さな白夜がくんくんと鼻をひくつかせた。匂い?匂いで判断?そういえば、人の姿でここに来た頃、お蝶ちゃんがやっぱり匂いでオレをお母様だと断言してたな。
意識してなかったけど、今度色々な人(あやかし)をくんくんしてみようと思う。
「──おとなになってるけど、なにがあった?ないたのか?イヤなこと、あったのか?」
──君が子供になっちゃったのだよ。
でも、白夜にしたら自分が小さくなったんじゃなくて、オレが大人になってしまったという認識なんだろうな。
どうやら記憶はないようだ。破魔の能力で魔に染まっていた時が消えてしまった、ということか?・・・にしてもだいぶ小さくなっているなあ。
「・・・白夜兄さま」
「なにがあったか、ちゃんとオレにいうんだ。オレがなんとかしてやるから」
「──うん、ありがとう。白夜兄さま、大好き」
「ああん?」
つい口に出た、オレの“大好き”に反応したのか。風雅が凄んでくる。
「なんだ、あのガラのわるいおとこは。ましろ、ああいうやからには、きをつけるんだぞ」
白夜が聞えよがしに嫌味を言う。
「おうおう、俺ぁ、真白の旦那よぉ」
「は?みのほどしらずがなにいってる」
幼児の語彙力!
そういえば、記憶の中の白夜はなかなかの毒舌だったな。
「風雅、子供相手にやめて」
「こんな生意気なクソガキがいてたまるか!大体、お前もお前だ!なんだ、大好きって!お前が大好きなのは俺だけだろう?」
「そ、それは!」
白夜へのそれは、子供の頃の口ぐせのようなものなのだ。しかし、そんな痴話喧嘩じみたこと、今ここでする話ではない!と激しく思う。・・が、頷かなければ風雅がいつまでもオラオラ系になって、それはそれで非常にめんどくさそうだ。
「大好きには色々種類があるの!──ええと、小さくなった白夜兄さまは覚えていないのかもしれませんが、風雅はオレの、お、お、夫です」
「おおおっと、か」
どもるオレを白夜が鼻で笑う。
「ましろ、どういうことなのかきちんとはなせ」
「は、はい・・・」
真白と白夜の関係性だが、白夜が圧倒的強者過ぎる。
「お母様、お待ち下さい」
ずずいっ、とお蝶ちゃんが白夜の前に進み出た。なんだお前は、と言いたげにお蝶ちゃんを見上げる白夜をお蝶ちゃんが睨みつける。
「何を偉そうにっ。・・・このっ、愚かもんがーーーっ!!」
べしいっ、と避ける間もなくお蝶ちゃんの見事な平手打ちが白夜を襲った。いや相手、子供!
「何偉そうにしてんのよ!お前のせいでお母様は死んだのよ?お前のクソ独占欲のせいで!」
「・・・しんだ?ましろが?」
「許さない!お前がっ!お前のせいでっ!」
仁王立ちするお蝶ちゃんの目からは、涙がぼろぼろと、溢れてはこぼれていく。強く握られた痛々しいほど白い両手。
「お蝶ちゃん、・・・」
「お母様の能力は優し過ぎます!私なら、こんな奴ギッタギタにして殺してやるのに!子供になったからって容赦しないんだから!」
「・・・お蝶ちゃん」
大事な、自分の命よりも大事な娘を抱きしめる。
「御山で、いつも母様の側にいてくれたのは白夜兄さまだったんだ。──・・・白夜兄さまは、利用されてしまったんだよ」
お蝶ちゃんには誰も恨んで欲しくない。
「・・・お母様」
ぎゅうぎゅうとオレにしがみつきながら、イヤイヤと頭を振るお蝶ちゃんの背中を撫でた。
白夜は地面に座り込んだまま、呆然としている。いきなり責められて何がなんだかわからないんだろう。
それに、これで終わりではないのだ。白夜の耳から抜け出た式神。風雅が「シキ」と叫んだ時はなんのことだかわからなかったが今ならわかる。
──式神。高位のあやかしに使役する下位の眷属たち。
今、風雅が手に持ち、足でも踏んづけている者がそうだ。細くて真っ黒でうねうねと、・・・は今はしてないな、破魔の力の余波で弱っているのかも。
記憶の中に禍々しく嗤う女の姿が浮かぶ。再びこの世界に戻ったオレを消したがっている存在。
きっと、白夜が案内しようとしていた、大神様が住まわれていた奥の宮で手ぐすね引いて待っているのだろう。
北の黒丸神社の宮司の奥方が。式神も蛇だったから間違いないだろう。
「蛇のあやかしの深景(みかげ)」
「黒丸の奥方か?」
オレの呟きにすかさず風雅が返した。
オレは大きく頷いた。
「──奥方が。そうだったのか・・・。オレはずっと黒丸の叶翔(かなと)を疑っていたんだが」
「何故かはわからないけど、オレを死ぬより苦しい目に合わせたのは奥方の深景だよ」
そんな言葉が聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか。
腕に抱きしめた存在は徐々に小さくなっていき、
「ましろ?」
可愛い声に呼ばれて腕の中を見ると、大きな黒曜石の瞳がこちらを見ている。
「・・・白夜兄さま」
「・・・ましろだろ?」
腕の中、5、6歳位の小さな白夜がくんくんと鼻をひくつかせた。匂い?匂いで判断?そういえば、人の姿でここに来た頃、お蝶ちゃんがやっぱり匂いでオレをお母様だと断言してたな。
意識してなかったけど、今度色々な人(あやかし)をくんくんしてみようと思う。
「──おとなになってるけど、なにがあった?ないたのか?イヤなこと、あったのか?」
──君が子供になっちゃったのだよ。
でも、白夜にしたら自分が小さくなったんじゃなくて、オレが大人になってしまったという認識なんだろうな。
どうやら記憶はないようだ。破魔の能力で魔に染まっていた時が消えてしまった、ということか?・・・にしてもだいぶ小さくなっているなあ。
「・・・白夜兄さま」
「なにがあったか、ちゃんとオレにいうんだ。オレがなんとかしてやるから」
「──うん、ありがとう。白夜兄さま、大好き」
「ああん?」
つい口に出た、オレの“大好き”に反応したのか。風雅が凄んでくる。
「なんだ、あのガラのわるいおとこは。ましろ、ああいうやからには、きをつけるんだぞ」
白夜が聞えよがしに嫌味を言う。
「おうおう、俺ぁ、真白の旦那よぉ」
「は?みのほどしらずがなにいってる」
幼児の語彙力!
そういえば、記憶の中の白夜はなかなかの毒舌だったな。
「風雅、子供相手にやめて」
「こんな生意気なクソガキがいてたまるか!大体、お前もお前だ!なんだ、大好きって!お前が大好きなのは俺だけだろう?」
「そ、それは!」
白夜へのそれは、子供の頃の口ぐせのようなものなのだ。しかし、そんな痴話喧嘩じみたこと、今ここでする話ではない!と激しく思う。・・が、頷かなければ風雅がいつまでもオラオラ系になって、それはそれで非常にめんどくさそうだ。
「大好きには色々種類があるの!──ええと、小さくなった白夜兄さまは覚えていないのかもしれませんが、風雅はオレの、お、お、夫です」
「おおおっと、か」
どもるオレを白夜が鼻で笑う。
「ましろ、どういうことなのかきちんとはなせ」
「は、はい・・・」
真白と白夜の関係性だが、白夜が圧倒的強者過ぎる。
「お母様、お待ち下さい」
ずずいっ、とお蝶ちゃんが白夜の前に進み出た。なんだお前は、と言いたげにお蝶ちゃんを見上げる白夜をお蝶ちゃんが睨みつける。
「何を偉そうにっ。・・・このっ、愚かもんがーーーっ!!」
べしいっ、と避ける間もなくお蝶ちゃんの見事な平手打ちが白夜を襲った。いや相手、子供!
「何偉そうにしてんのよ!お前のせいでお母様は死んだのよ?お前のクソ独占欲のせいで!」
「・・・しんだ?ましろが?」
「許さない!お前がっ!お前のせいでっ!」
仁王立ちするお蝶ちゃんの目からは、涙がぼろぼろと、溢れてはこぼれていく。強く握られた痛々しいほど白い両手。
「お蝶ちゃん、・・・」
「お母様の能力は優し過ぎます!私なら、こんな奴ギッタギタにして殺してやるのに!子供になったからって容赦しないんだから!」
「・・・お蝶ちゃん」
大事な、自分の命よりも大事な娘を抱きしめる。
「御山で、いつも母様の側にいてくれたのは白夜兄さまだったんだ。──・・・白夜兄さまは、利用されてしまったんだよ」
お蝶ちゃんには誰も恨んで欲しくない。
「・・・お母様」
ぎゅうぎゅうとオレにしがみつきながら、イヤイヤと頭を振るお蝶ちゃんの背中を撫でた。
白夜は地面に座り込んだまま、呆然としている。いきなり責められて何がなんだかわからないんだろう。
それに、これで終わりではないのだ。白夜の耳から抜け出た式神。風雅が「シキ」と叫んだ時はなんのことだかわからなかったが今ならわかる。
──式神。高位のあやかしに使役する下位の眷属たち。
今、風雅が手に持ち、足でも踏んづけている者がそうだ。細くて真っ黒でうねうねと、・・・は今はしてないな、破魔の力の余波で弱っているのかも。
記憶の中に禍々しく嗤う女の姿が浮かぶ。再びこの世界に戻ったオレを消したがっている存在。
きっと、白夜が案内しようとしていた、大神様が住まわれていた奥の宮で手ぐすね引いて待っているのだろう。
北の黒丸神社の宮司の奥方が。式神も蛇だったから間違いないだろう。
「蛇のあやかしの深景(みかげ)」
「黒丸の奥方か?」
オレの呟きにすかさず風雅が返した。
オレは大きく頷いた。
「──奥方が。そうだったのか・・・。オレはずっと黒丸の叶翔(かなと)を疑っていたんだが」
「何故かはわからないけど、オレを死ぬより苦しい目に合わせたのは奥方の深景だよ」
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