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ピピ ピピ ピピ ピピ
「うう・・・」
頭が痛い。吐き気がする。
完全に二日酔いだった。
朝の光が瞑ったままの目に染みる。
アラームを消しながら、何故今日は月曜日なんだ、会社は休もう、──いや今日はダメだ、朝礼がある日だった。
立て、立つんだ私。
けど、いくら叱咤しても、泥沼に沈んでいるかのように体が起きてくれない。あんなに飲むんじゃなかった。1杯だけのつもりだったのに。
「はい、お水」
澄んだ、水の匂い。
水にもちゃんと匂いがあるのだ。
目をうっすら開けると、目の前に並々と水が注がれたコップがあった。
あのお山の、お水の匂いだ。
あれだけ動かなかった体が、起き上がり、コップに手を伸ばし、喉を鳴らして水を飲んだ。
「おかわり?待ってて」
おかわりは直ぐに来た。
2杯飲んで、落ち着いて。
ようやく近くにいる存在に気付いた。
ミルクティー色の綺麗なストレートの髪を胸の辺りで切り揃えた、おかっぱ頭の恐ろしく顔の整った、性別不明の人だ。
「・・・どなた?」
「あ、ボクは座敷童子です」
「・・・・・・・・・・・は?」
朝から訳のわからない事態に遭遇したが、なんとか朝礼には間に合った。
うちの会社は毎週月曜日、全体の朝礼があるのだ。まず社長からどうでもいい時節の挨拶があり、その後各課から連絡がある。これがなかなか重要で、メールでは分かりづらいニュアンス的なものをここでメモしておかないと後々厄介なことになる。一般事務の私は幅広くどの課とも接点があるので月曜の朝は絶対に遅刻できないのだ。
「はあ~・・・」
無事に朝礼を終え、自分の机にたどり着いた。
二日酔いは、自称座敷童子の不審者が大量に水と白湯を飲ませてくれたおかげで軽く済んでいるほうだ。というか、いつもならあんな無茶な飲み方はしない。昨夜は特別だった。
結婚を約束していた人に別れを切り出されたのだ。
他に好きな人ができたから、と言われ、すがるほどではないが結婚しようと思うほどには好きだった彼にどう振る舞うのが正解だったのか。
私は一言、「わかった」と言って相手の車から降りた。
そこはスーパーの駐車場だった。駅も近いしバス停も近い。タイミングよく来たバスの行き先も確かめず飛び乗った。
適当な繁華街で降り、適当なバーで少しだけ飲もうと思った。相手の部屋で一緒に夕食を作って食べる、いわゆるおうちデートの予定だったが、それなりにオシャレはして来たつもりだったから。このまま一人のアパートの部屋には帰りたくなかった。
そのバーは、女性の一人客を警戒したのか、バーテンダーがひっきりなしに話しかけてきて、それに適当に相槌を打ちながら、普段なら水割りで飲むお酒をストレートで何杯も立て続けに飲んだ。飲んでも飲んでも喉が乾いているような気がして、結構なピッチで飲んでいたように思う。
──どうやって帰ったのか記憶がない。
酔っぱらってあの自称座敷童子を連れ帰ってしまったのだろうか?逆ナン?、って言い方、古!普段ならそんなことはしないが自分から声をかけた?
そういえば、今朝、「金をくれ」と言われた。冷蔵庫に水とお酒しか入ってなくて朝食を作れなかったと。
買い物をして夕食はちゃんとしたのを出すと言っていたな。
あまりにもくどくどとうるさいので、千円札を一枚テーブルに置いて出てきたのだが。
「・・・たかり?ヒモ?」
帰宅してもまだいるだろうか?千円で今どきどれだけの食材が買えるのかな。料理をしないからわからない。
まあ、持ち逃げされても構わないくらいの金額だし、いなくなっていても全然構わないけど。
なぜうちに来たんだろう。養ってくれる彼女と別れたんだろうか。綺麗な顔をしていたもんね。いつもこんな風に女を渡り歩いているのかも。
いや、そんなことを考えている場合ではない。私は今日から影を薄くしてこの会社で生きていかねばならないのだ。
──なぜなら、別れた彼がこの会社にいるから。
隠していたわけでも無かったが、特に噂になることなく付き合って、一年ほど経った頃に、もう結婚を前提にしたいから周りにも徐々に伝えていきたいと言われ、同じ課のよく昼食を一緒に食べに行く先輩には話してあった。
先輩は「同じ会社だと別れたあとが最低だよね。ま、戸松クンは繭ちゃんに相当入れ込んでるっぽいから大丈夫そうだけど」と豪快に笑っていたけど。
まさに今、最低のことが起きてる。
「はあ~・・・」
まだ一日も経っていないにもかかわらず、別れて悲しいより、元カレと同じ職場が気まずいと思う方が大きい私は、なんというか、恋愛向きではないというか、実はそんなに戸松クンを好きではなかったのかもしれないな。彼に関して、妙にすっきり心の整理がついてしまっている。
「はあ~・・・」
それより、あの綺麗な人、自分のこと座敷童子って名乗ったな。どう見ても私と同じ位の歳に見えたけど。25歳くらい。
童子、って言葉が子供という意味だと知らないのか。
名前を教えたくなかったにしてももう少しマシなこと言えっての。
「うふふ」
パソコンに数字を入力しながら座敷童子と名乗る立派な大人の不審者を思い出し、なぜか頬がほころんだ私だった。
「うう・・・」
頭が痛い。吐き気がする。
完全に二日酔いだった。
朝の光が瞑ったままの目に染みる。
アラームを消しながら、何故今日は月曜日なんだ、会社は休もう、──いや今日はダメだ、朝礼がある日だった。
立て、立つんだ私。
けど、いくら叱咤しても、泥沼に沈んでいるかのように体が起きてくれない。あんなに飲むんじゃなかった。1杯だけのつもりだったのに。
「はい、お水」
澄んだ、水の匂い。
水にもちゃんと匂いがあるのだ。
目をうっすら開けると、目の前に並々と水が注がれたコップがあった。
あのお山の、お水の匂いだ。
あれだけ動かなかった体が、起き上がり、コップに手を伸ばし、喉を鳴らして水を飲んだ。
「おかわり?待ってて」
おかわりは直ぐに来た。
2杯飲んで、落ち着いて。
ようやく近くにいる存在に気付いた。
ミルクティー色の綺麗なストレートの髪を胸の辺りで切り揃えた、おかっぱ頭の恐ろしく顔の整った、性別不明の人だ。
「・・・どなた?」
「あ、ボクは座敷童子です」
「・・・・・・・・・・・は?」
朝から訳のわからない事態に遭遇したが、なんとか朝礼には間に合った。
うちの会社は毎週月曜日、全体の朝礼があるのだ。まず社長からどうでもいい時節の挨拶があり、その後各課から連絡がある。これがなかなか重要で、メールでは分かりづらいニュアンス的なものをここでメモしておかないと後々厄介なことになる。一般事務の私は幅広くどの課とも接点があるので月曜の朝は絶対に遅刻できないのだ。
「はあ~・・・」
無事に朝礼を終え、自分の机にたどり着いた。
二日酔いは、自称座敷童子の不審者が大量に水と白湯を飲ませてくれたおかげで軽く済んでいるほうだ。というか、いつもならあんな無茶な飲み方はしない。昨夜は特別だった。
結婚を約束していた人に別れを切り出されたのだ。
他に好きな人ができたから、と言われ、すがるほどではないが結婚しようと思うほどには好きだった彼にどう振る舞うのが正解だったのか。
私は一言、「わかった」と言って相手の車から降りた。
そこはスーパーの駐車場だった。駅も近いしバス停も近い。タイミングよく来たバスの行き先も確かめず飛び乗った。
適当な繁華街で降り、適当なバーで少しだけ飲もうと思った。相手の部屋で一緒に夕食を作って食べる、いわゆるおうちデートの予定だったが、それなりにオシャレはして来たつもりだったから。このまま一人のアパートの部屋には帰りたくなかった。
そのバーは、女性の一人客を警戒したのか、バーテンダーがひっきりなしに話しかけてきて、それに適当に相槌を打ちながら、普段なら水割りで飲むお酒をストレートで何杯も立て続けに飲んだ。飲んでも飲んでも喉が乾いているような気がして、結構なピッチで飲んでいたように思う。
──どうやって帰ったのか記憶がない。
酔っぱらってあの自称座敷童子を連れ帰ってしまったのだろうか?逆ナン?、って言い方、古!普段ならそんなことはしないが自分から声をかけた?
そういえば、今朝、「金をくれ」と言われた。冷蔵庫に水とお酒しか入ってなくて朝食を作れなかったと。
買い物をして夕食はちゃんとしたのを出すと言っていたな。
あまりにもくどくどとうるさいので、千円札を一枚テーブルに置いて出てきたのだが。
「・・・たかり?ヒモ?」
帰宅してもまだいるだろうか?千円で今どきどれだけの食材が買えるのかな。料理をしないからわからない。
まあ、持ち逃げされても構わないくらいの金額だし、いなくなっていても全然構わないけど。
なぜうちに来たんだろう。養ってくれる彼女と別れたんだろうか。綺麗な顔をしていたもんね。いつもこんな風に女を渡り歩いているのかも。
いや、そんなことを考えている場合ではない。私は今日から影を薄くしてこの会社で生きていかねばならないのだ。
──なぜなら、別れた彼がこの会社にいるから。
隠していたわけでも無かったが、特に噂になることなく付き合って、一年ほど経った頃に、もう結婚を前提にしたいから周りにも徐々に伝えていきたいと言われ、同じ課のよく昼食を一緒に食べに行く先輩には話してあった。
先輩は「同じ会社だと別れたあとが最低だよね。ま、戸松クンは繭ちゃんに相当入れ込んでるっぽいから大丈夫そうだけど」と豪快に笑っていたけど。
まさに今、最低のことが起きてる。
「はあ~・・・」
まだ一日も経っていないにもかかわらず、別れて悲しいより、元カレと同じ職場が気まずいと思う方が大きい私は、なんというか、恋愛向きではないというか、実はそんなに戸松クンを好きではなかったのかもしれないな。彼に関して、妙にすっきり心の整理がついてしまっている。
「はあ~・・・」
それより、あの綺麗な人、自分のこと座敷童子って名乗ったな。どう見ても私と同じ位の歳に見えたけど。25歳くらい。
童子、って言葉が子供という意味だと知らないのか。
名前を教えたくなかったにしてももう少しマシなこと言えっての。
「うふふ」
パソコンに数字を入力しながら座敷童子と名乗る立派な大人の不審者を思い出し、なぜか頬がほころんだ私だった。
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