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元カレに会わないよう、定時になったらそそくさと職場を後にした。
バスに揺られ帰路につく。
お夕飯、どうしようか。自称座敷童子の顔が頭に浮かぶ。本当に家で作ってるかな。
普通なら身元の不確かな人間を部屋に入れ、なおかつ部屋に残したまま仕事に行くなど考えられない話だろう。
──とは思うのだが。
あの、綺麗だけどどこかのんびりした顔はなんか疑う気になれない。
まあ、何か盗まれていたり、部屋が荒らされていたりしたようなら潔く引っ越そう。仕事も辞表を出して、これを機会に心機一転、新天地でやり直そうか。
そんなことをつらつら考えながらいつもの流れで途中のコンビニに入り、アイスを買った。今日のお夕飯は君に決めた!
「おかえりなさい!」
アパートの部屋にはカギはかかっていなかった。
もしやと思いドアを開けると、自称座敷童子が大歓迎で迎えてくれた。
「・・・まだいたのね」
「お夕飯を作るって伝えてましたよね?さぁ、上がってください」
招き入れられ、いやここ私んち。って思う。
「お夕飯、できたてですよー。あ、お風呂が先が良かったですか?」
甲斐甲斐しく言われちょっと引く。やはりヒモ志望なのだろうか。
「んと、先にご飯頂くよ。私、着替えてくるから。あ、これアイス。冷凍庫入れといて」
袋ごと渡し、まずは洗面所へ。手を洗い、うがいをし、それから着替えるべく寝室に向かう。その時、じっとこちらを見ていた自称座敷童子がうんうん、と頷いたのが見えた。
「?」
なんだろ。まるで手洗いうがいがちゃんとできたね。えらいね。みたいな生温かい表情。お母さんみたいな男だな。
実際には、私の母はそんないかにもな感じではなかった。キャリアウーマンで、国内出張だけではなく海外出張も多く、大体が私は家で一人きりで、怒られたことも褒められたこともほとんどなく過ごした。
友達の語る口やかましいお母さんとはどんな感じなんだろう、と学生の頃は淋しさから思い描いたこともあったが、今では特に何も感じない。生活面でお金の心配がなかったことには本当に感謝しているけれど。
だが、私の大学入学をきっかけに一人暮らしを始めてからは、お互い特に連絡を取り合うこともなくなった。
「お仕事お疲れ様。さ、食べよう」
狭いキッチンの小さなテーブルに2人分の夕食が並んでいた。
メニューは、ご飯、味噌汁、おかずが一品、浅漬。以上だった。
思ったよりシンプル。いや、いいんだけどね。なんかもっと、ヒモの意地にかけて!みたいな豪華メニューを勝手に思い描いていた。
「いただきます」
自称座敷童子が手を合わせ、慌てて私も手を合わせた。
「いただきます」
まずはお味噌汁を一口。具はお豆腐とワカメだ。美味しい。
「はい、どうぞ」
テーブルの真ん中に置かれた大皿に盛り付けられたおかずを自称座敷童子が小皿によそってくれた。まめまめしい、というか、かいがいしい。やはりヒモ志望なのだろうか。
「ありがとう」
お礼を言って、受け取った。
これは、野菜炒め?キャベツとミックスベジタブル。あ、ツナも入ってる。炒めたというにはしっとりした感じがあるから蒸した?ミックスベジタブルの人参とコーンとグリーンピースの彩りがきれいだから子供が喜びそう。そう思って一口食べた。
──優しい味。
「・・・おばあちゃん?」
私は、この味を知っている。
向かいで食べてる自称座敷童子を見ると、してやったりと言わんばかりにムフフ、と笑った。
「咲季さんは僕たちに食べることの楽しさを教えてくれましたよね」
「・・・おばあちゃん」
大好きだった、おばあちゃん。
子供の頃、両親が離婚する直前の夏休み、その間、母方の祖母に預けられていたことがある。
祖母の家は県外のすごい田舎の山の麓、というか、もう山の中にあった。
電気が通っているのが不思議に思えるほど山の中だった。
そこに、ぽい、というように置いて行かれた私に、最初、祖母は困惑していた。
『何を食べさせたらいいのやら』
そんなことを呟いていた。
8歳、いや7歳?記憶がおぼろげだが、小さな私はただ呆然とその場に立っていたことを覚えている。自分の身に起きていることがよくわからなかった。
その日、何を食べさせてもらって眠りについたのかよく覚えていない。──何も食べなかったのかも。意地になって部屋の隅に座り続けていた覚えがある。
「美味しくできたかな?」
「・・・ん、美味しい」
そうだ、食べない私におばあちゃんが何とか食べさせようとミックスベジタブルを使った料理を出してくれた。
おばあちゃんの育てたキャベツと、ツナと、ミックスベジタブルのおかず。あまり味がしないと、おばあちゃんは自分のお皿にたっぷり醤油をかけていたっけ。
他にテーブルに並んだのは、ご飯、味噌汁、香の物。
『いっぱいお食べ』
箸を取った私におばあちゃんは微笑んだ。
あの時。
もう一人子供がいた。
何も感じずにただぼんやりとする私を食卓まで連れて来て、箸を持たせてくれたあの子。
あの子は、どんな子だったかな。おばあちゃんと一緒に暮らしてた子だったっけ?
確か同い年位で、その時からいつも一緒にいたあの子。
「・・・つまり、おばあちゃんを知っているってことは、・・・この料理を知っているってことは、あなたがあの時の子!?」
バスに揺られ帰路につく。
お夕飯、どうしようか。自称座敷童子の顔が頭に浮かぶ。本当に家で作ってるかな。
普通なら身元の不確かな人間を部屋に入れ、なおかつ部屋に残したまま仕事に行くなど考えられない話だろう。
──とは思うのだが。
あの、綺麗だけどどこかのんびりした顔はなんか疑う気になれない。
まあ、何か盗まれていたり、部屋が荒らされていたりしたようなら潔く引っ越そう。仕事も辞表を出して、これを機会に心機一転、新天地でやり直そうか。
そんなことをつらつら考えながらいつもの流れで途中のコンビニに入り、アイスを買った。今日のお夕飯は君に決めた!
「おかえりなさい!」
アパートの部屋にはカギはかかっていなかった。
もしやと思いドアを開けると、自称座敷童子が大歓迎で迎えてくれた。
「・・・まだいたのね」
「お夕飯を作るって伝えてましたよね?さぁ、上がってください」
招き入れられ、いやここ私んち。って思う。
「お夕飯、できたてですよー。あ、お風呂が先が良かったですか?」
甲斐甲斐しく言われちょっと引く。やはりヒモ志望なのだろうか。
「んと、先にご飯頂くよ。私、着替えてくるから。あ、これアイス。冷凍庫入れといて」
袋ごと渡し、まずは洗面所へ。手を洗い、うがいをし、それから着替えるべく寝室に向かう。その時、じっとこちらを見ていた自称座敷童子がうんうん、と頷いたのが見えた。
「?」
なんだろ。まるで手洗いうがいがちゃんとできたね。えらいね。みたいな生温かい表情。お母さんみたいな男だな。
実際には、私の母はそんないかにもな感じではなかった。キャリアウーマンで、国内出張だけではなく海外出張も多く、大体が私は家で一人きりで、怒られたことも褒められたこともほとんどなく過ごした。
友達の語る口やかましいお母さんとはどんな感じなんだろう、と学生の頃は淋しさから思い描いたこともあったが、今では特に何も感じない。生活面でお金の心配がなかったことには本当に感謝しているけれど。
だが、私の大学入学をきっかけに一人暮らしを始めてからは、お互い特に連絡を取り合うこともなくなった。
「お仕事お疲れ様。さ、食べよう」
狭いキッチンの小さなテーブルに2人分の夕食が並んでいた。
メニューは、ご飯、味噌汁、おかずが一品、浅漬。以上だった。
思ったよりシンプル。いや、いいんだけどね。なんかもっと、ヒモの意地にかけて!みたいな豪華メニューを勝手に思い描いていた。
「いただきます」
自称座敷童子が手を合わせ、慌てて私も手を合わせた。
「いただきます」
まずはお味噌汁を一口。具はお豆腐とワカメだ。美味しい。
「はい、どうぞ」
テーブルの真ん中に置かれた大皿に盛り付けられたおかずを自称座敷童子が小皿によそってくれた。まめまめしい、というか、かいがいしい。やはりヒモ志望なのだろうか。
「ありがとう」
お礼を言って、受け取った。
これは、野菜炒め?キャベツとミックスベジタブル。あ、ツナも入ってる。炒めたというにはしっとりした感じがあるから蒸した?ミックスベジタブルの人参とコーンとグリーンピースの彩りがきれいだから子供が喜びそう。そう思って一口食べた。
──優しい味。
「・・・おばあちゃん?」
私は、この味を知っている。
向かいで食べてる自称座敷童子を見ると、してやったりと言わんばかりにムフフ、と笑った。
「咲季さんは僕たちに食べることの楽しさを教えてくれましたよね」
「・・・おばあちゃん」
大好きだった、おばあちゃん。
子供の頃、両親が離婚する直前の夏休み、その間、母方の祖母に預けられていたことがある。
祖母の家は県外のすごい田舎の山の麓、というか、もう山の中にあった。
電気が通っているのが不思議に思えるほど山の中だった。
そこに、ぽい、というように置いて行かれた私に、最初、祖母は困惑していた。
『何を食べさせたらいいのやら』
そんなことを呟いていた。
8歳、いや7歳?記憶がおぼろげだが、小さな私はただ呆然とその場に立っていたことを覚えている。自分の身に起きていることがよくわからなかった。
その日、何を食べさせてもらって眠りについたのかよく覚えていない。──何も食べなかったのかも。意地になって部屋の隅に座り続けていた覚えがある。
「美味しくできたかな?」
「・・・ん、美味しい」
そうだ、食べない私におばあちゃんが何とか食べさせようとミックスベジタブルを使った料理を出してくれた。
おばあちゃんの育てたキャベツと、ツナと、ミックスベジタブルのおかず。あまり味がしないと、おばあちゃんは自分のお皿にたっぷり醤油をかけていたっけ。
他にテーブルに並んだのは、ご飯、味噌汁、香の物。
『いっぱいお食べ』
箸を取った私におばあちゃんは微笑んだ。
あの時。
もう一人子供がいた。
何も感じずにただぼんやりとする私を食卓まで連れて来て、箸を持たせてくれたあの子。
あの子は、どんな子だったかな。おばあちゃんと一緒に暮らしてた子だったっけ?
確か同い年位で、その時からいつも一緒にいたあの子。
「・・・つまり、おばあちゃんを知っているってことは、・・・この料理を知っているってことは、あなたがあの時の子!?」
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