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今日のお使いはキノコを籠にいっぱい採ってくること。
大好きなガブリエル様に頼まれた僕は、優しい木漏れ日がカーテンのように何本も射し込む静かな森に来ていた。
鳥のさえずりとこちらを木の陰から不思議そうに見てくるリス達。大きな動物はいないみたいだ。
ふかふかの絨毯のような苔の上をふわふわ行けば、木々の根本には色んなキノコがたくさん生えている。
「キレイな帽子は摘んじゃだめ。毒があるからお腹いたいいたいになるの」
ガブリエル様が教えてくれたこと。小さくつぶやきながら摘んでいく。
あっという間に籠の中は半分ほどうまった。
「ううん~、籠を二つ持って来たら良かった」
ガブリエル様に言われた通りに少し残すように摘んでいっても、この森にはまだまだいっぱいキノコが生えてるのだ。
バターで炒めたの、いっぱい食べたいな。パイもいいね。シチューも。
わくわくしながら摘んでいく。
その時。
「籠ならあるぞ。くれてやろうか」
頭上から若い男の声がした。
視線をキノコからずらすと、尖った焦茶の革靴の先が見えた。
視線を少しずつ上に向けていく。
光沢のある黒いズボンに柔らかそうな黒のシャツ。
しゃがんでるから胸元辺りで首が辛くなって、立ち上がってまた見上げた。
口にぎゅうっと力を入れる。
挨拶はしない。
うっすらと笑んでいる男の格好は明らかにこの森にはそぐわない、ひらひらとした格好だったから。それに腰までもある黒い長い髪も流れるままで結ばれていない。そんな髪型で森に入る者はいない。すぐに枝に巻き付いてしまうから。
すごく、怪しい。
斧も矢も持っていないということは木こりでも猟師でもないということ。
「親はどこにいる?こんな森の奥深くに一人で来たのか?小さな子供が、たった一人で?そんな薄着で?しかも裸足じゃないか。
・・・怪しいな。おまえ、何者だ?」
「怪しくなんかない!僕は天使ちゃんだ!」
怪しい奴に怪しいと言われ、僕は怒った。
へ?
手を腰に当て仁王立ちする僕に、声には出てなかったけど、男の口が間抜けにそう開いた。
怪しいのはそっちなのに失礼な奴だ。
「・・・、天使、ちゃん?天使?その、背中の羽根は、本物?」
───随分、みすぼらしいな。
ぼそりと呟かれた言葉、しっかり聞こえたぞ!
「見ろ!」
羽根を広げ大きく羽ばたかせた。体がふわりと浮き上がる。
「うっ!ぐはっ!可愛っ!・・・天使?いや、空飛ぶ子豚?可愛過ぎるっっ!!」
舞い上がり、ふよふよと浮かぶ体をがしりと掴まれた。
「誰が子豚だ!離せ!」
激しく蹴りを繰り出すが、くそう、届かない。
「・・・うむ。確かにお前は人ではないだろう。人には背中に羽根などついてはいないし、飛ぶこともできない。しかし、お前はまた、天使ではない。
なぜなら天使は、天使というものはお前のように愛らしい存在ではないからだ。
つまり、お前はその姿で周りを魅了する魔物、なのだろう?」
「はあ!?」
「よし、決めた。お前を俺のペットにしてやろう」
「はあっっ!?」
「安心するがいい。俺は小動物、小魔物にとても優しい男だ。俺が大事に大事に愛してやる。・・・そうだ、名前はなんというんだ?」
「天使ちゃんだ!離せっ!僕はガブリエル様の元へ帰るんだっ!」
「天使ちゃんは名前ではないだろう?ガブリエル?大天使の名前と一緒だな・・・」
───ガブリエルとは魔物の親玉か?そいつに働かされているのか?しかし、魔物は大天使と同じ名前は名乗らないはず。魔物にとって天使の名前など忌むべきものだからな。
ぼそぼそと考え込みながら呟いている。
「・・・そうか!なるほど!お前は自分を天使と見せかけ人の精気を吸う魔物なのだな!?
だから魔物なのに忌むべき名前を口にするのか。
よし。なら何も問題はない。一緒においで。精気なら私が毎日満足するまで分けてやろう。
名前も私がつけてやるぞ」
手足をばたつかせ疲れた僕を横抱きにしてぎゅっと抱きしめてくる男は、本気で僕を連れ去る気らしい。
誘拐、という言葉を知らないのだろうか。
立派な犯罪だよ。
「心配しなくても大丈夫。魔界もとっても住みやすいところだよ」
「魔界っっ!?」
「そう。ここより少し薄暗くて、・・・そうだな、生えてる植物もここのものより黒っぽく、夜の長い素敵なところだ」
───ま、言うならスタイリッシュ、といったところか。
余計な一言がイラッとさせる。
「どこがっ。っていうか、お前は悪魔か!!」
「当たりだよ!聡いな」
嬉しそうだ。
「悪魔は敵だ!殲滅する!」
抱っこされながらも叫んだ。
「そんなに悪魔が嫌いなの?まるで本当に天使みたいだね」
ははは、と鷹揚に笑う。
「離せってば!」
「ここには堕ちた魂を狩りに来たのだが、思いがけず生涯の宝を見つけた。
さあ、いざ帰ろう、“テン”。
我らの家へ」
宝って!いや、テンってまさか、僕の名前?
明らかに天使ちゃんから取っただろ。
ひねりがない!センス悪い!
もう一度、力を振り絞ってじたばたと暴れるが一向に横抱きの腕は緩まない。
「いざ!」
羽音と共に大量の黒い羽根が視界を覆い、ぐるりと一回転したのは覚えてる。
だけど、その後は・・・。
『ガブリエル様っっ!』
浮遊感に包まれ、深い眠気なのか目眩なのか、とにかくそのまま意識を失くしてしまった。
ガブリエル様の名前を呼べたのか、それも定かじゃない。
大好きなガブリエル様に頼まれた僕は、優しい木漏れ日がカーテンのように何本も射し込む静かな森に来ていた。
鳥のさえずりとこちらを木の陰から不思議そうに見てくるリス達。大きな動物はいないみたいだ。
ふかふかの絨毯のような苔の上をふわふわ行けば、木々の根本には色んなキノコがたくさん生えている。
「キレイな帽子は摘んじゃだめ。毒があるからお腹いたいいたいになるの」
ガブリエル様が教えてくれたこと。小さくつぶやきながら摘んでいく。
あっという間に籠の中は半分ほどうまった。
「ううん~、籠を二つ持って来たら良かった」
ガブリエル様に言われた通りに少し残すように摘んでいっても、この森にはまだまだいっぱいキノコが生えてるのだ。
バターで炒めたの、いっぱい食べたいな。パイもいいね。シチューも。
わくわくしながら摘んでいく。
その時。
「籠ならあるぞ。くれてやろうか」
頭上から若い男の声がした。
視線をキノコからずらすと、尖った焦茶の革靴の先が見えた。
視線を少しずつ上に向けていく。
光沢のある黒いズボンに柔らかそうな黒のシャツ。
しゃがんでるから胸元辺りで首が辛くなって、立ち上がってまた見上げた。
口にぎゅうっと力を入れる。
挨拶はしない。
うっすらと笑んでいる男の格好は明らかにこの森にはそぐわない、ひらひらとした格好だったから。それに腰までもある黒い長い髪も流れるままで結ばれていない。そんな髪型で森に入る者はいない。すぐに枝に巻き付いてしまうから。
すごく、怪しい。
斧も矢も持っていないということは木こりでも猟師でもないということ。
「親はどこにいる?こんな森の奥深くに一人で来たのか?小さな子供が、たった一人で?そんな薄着で?しかも裸足じゃないか。
・・・怪しいな。おまえ、何者だ?」
「怪しくなんかない!僕は天使ちゃんだ!」
怪しい奴に怪しいと言われ、僕は怒った。
へ?
手を腰に当て仁王立ちする僕に、声には出てなかったけど、男の口が間抜けにそう開いた。
怪しいのはそっちなのに失礼な奴だ。
「・・・、天使、ちゃん?天使?その、背中の羽根は、本物?」
───随分、みすぼらしいな。
ぼそりと呟かれた言葉、しっかり聞こえたぞ!
「見ろ!」
羽根を広げ大きく羽ばたかせた。体がふわりと浮き上がる。
「うっ!ぐはっ!可愛っ!・・・天使?いや、空飛ぶ子豚?可愛過ぎるっっ!!」
舞い上がり、ふよふよと浮かぶ体をがしりと掴まれた。
「誰が子豚だ!離せ!」
激しく蹴りを繰り出すが、くそう、届かない。
「・・・うむ。確かにお前は人ではないだろう。人には背中に羽根などついてはいないし、飛ぶこともできない。しかし、お前はまた、天使ではない。
なぜなら天使は、天使というものはお前のように愛らしい存在ではないからだ。
つまり、お前はその姿で周りを魅了する魔物、なのだろう?」
「はあ!?」
「よし、決めた。お前を俺のペットにしてやろう」
「はあっっ!?」
「安心するがいい。俺は小動物、小魔物にとても優しい男だ。俺が大事に大事に愛してやる。・・・そうだ、名前はなんというんだ?」
「天使ちゃんだ!離せっ!僕はガブリエル様の元へ帰るんだっ!」
「天使ちゃんは名前ではないだろう?ガブリエル?大天使の名前と一緒だな・・・」
───ガブリエルとは魔物の親玉か?そいつに働かされているのか?しかし、魔物は大天使と同じ名前は名乗らないはず。魔物にとって天使の名前など忌むべきものだからな。
ぼそぼそと考え込みながら呟いている。
「・・・そうか!なるほど!お前は自分を天使と見せかけ人の精気を吸う魔物なのだな!?
だから魔物なのに忌むべき名前を口にするのか。
よし。なら何も問題はない。一緒においで。精気なら私が毎日満足するまで分けてやろう。
名前も私がつけてやるぞ」
手足をばたつかせ疲れた僕を横抱きにしてぎゅっと抱きしめてくる男は、本気で僕を連れ去る気らしい。
誘拐、という言葉を知らないのだろうか。
立派な犯罪だよ。
「心配しなくても大丈夫。魔界もとっても住みやすいところだよ」
「魔界っっ!?」
「そう。ここより少し薄暗くて、・・・そうだな、生えてる植物もここのものより黒っぽく、夜の長い素敵なところだ」
───ま、言うならスタイリッシュ、といったところか。
余計な一言がイラッとさせる。
「どこがっ。っていうか、お前は悪魔か!!」
「当たりだよ!聡いな」
嬉しそうだ。
「悪魔は敵だ!殲滅する!」
抱っこされながらも叫んだ。
「そんなに悪魔が嫌いなの?まるで本当に天使みたいだね」
ははは、と鷹揚に笑う。
「離せってば!」
「ここには堕ちた魂を狩りに来たのだが、思いがけず生涯の宝を見つけた。
さあ、いざ帰ろう、“テン”。
我らの家へ」
宝って!いや、テンってまさか、僕の名前?
明らかに天使ちゃんから取っただろ。
ひねりがない!センス悪い!
もう一度、力を振り絞ってじたばたと暴れるが一向に横抱きの腕は緩まない。
「いざ!」
羽音と共に大量の黒い羽根が視界を覆い、ぐるりと一回転したのは覚えてる。
だけど、その後は・・・。
『ガブリエル様っっ!』
浮遊感に包まれ、深い眠気なのか目眩なのか、とにかくそのまま意識を失くしてしまった。
ガブリエル様の名前を呼べたのか、それも定かじゃない。
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