《完結》天使ちゃん

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 「くくっ、くくくっ」

 僕を抱っこし、食堂に向かいながらもヤツは笑いが止まらないらしい。
 悪魔は笑い上戸なのか?
 不愉快だ。

 食堂に着くと、「テンの椅子は不要だ」と主人の隣に子供用の小さな椅子を置こうと近寄って来た従者に言う。
 つまり。
 どうやら抱っこのまま食べることになったらしい。
 そうか、僕をペットにしたいんだったっけ。
 しかも。

 「テン、あーん」

 自分の食事は二の次で、横抱きにした僕の口にばかり食べ物を運ぶ。
 テーブルには子供用のフォークとスプーンも置いてあるが僕に使わせる気はないらしい。

 「美味しいか?テン」

 「緑の野菜を食べれるなんてえらいな、テン」

 そして、口のまわりが汚れると、嬉しそうにナプキンで拭ってくれる。

 ───悪魔なのに優しい。

 あまりにかいがいしく世話をされるので、天使には人界で言うような親と呼ぶ存在はいないのだが、(全ての天使は神の子なのだ)いたらこんなふうなのかと胸がくすぐったい気持ちになる。
 だからか、勧められるまま食べ過ぎてしまった。

 「うう・・・」

 お腹が重い。

 「テン?もう食べないのか?デザートもあるぞ?」

 ぐぐっ。食べたい。
 目の端にアイスクリームやコンポート、シュークリームが映る。

 「恐れながら旦那様、テン様はいささか食べ過ぎてしまわれたご様子。旦那様が食べ終わるまで私めが抱っこしていましょう。旦那様の食べ終わる頃にはテン様のお腹も落ち着かれ、ご一緒にデザートを楽しめるかと」

 側に控えて給仕をしてくれていた痩せぎすで背中がいやに真っ直ぐ伸びたおばあさんが申し出てきた。

 「ああ、ミーナ。それもそうだな。じゃあ頼む」

 え、僕、一人で座れる!

 「テン様、失礼します」

 断る間もなくあっという間におばあさんの腕の中。
 あ、魔界だからおばあさんも悪魔か。というか普通に厳しそうな顔が怖い。

 「ふぇ・・・。せ、殲滅~・・・」

 人見知りで泣きそうになんてなっていないんだから。

 「テン様、初めまして。ミーナと申します。旦那様同様、誠心誠意お世話させて頂きます」

 「あう・・・。僕、天使ちゃんです。ごはん終わったら帰ります」

 「まあ、そうですか。背中の天使の羽根、とても良い出来ですね。明日のディナーはテン様の好物を作らせましょうね」

 ん?

 「テン、うちのシェフは腕がいいぞ。なんでも頼むといい」

 「・・・えと、帰らないと。きのこ、籠いっぱい採ってくるって約束したもの。ガブリエル様と」

 「ひっ!」

 ミーナが硬直して僕の体は下へ落ちた。

 「テン!!」

 悪魔の焦る声がしたが、僕は大丈夫。
 素敵な羽根があるから。
 ふよふよと下からゆっくり浮上していくとミーナがほっとした顔で受け止めた。

 「申し訳ありません!テン様!」

 「僕、大丈夫よ~。僕こそごめんね」

 悪魔にとって、ガブリエルの名前は禁忌なんだろうな。

 そういえば。
 僕を連れてきた悪魔の顔をじっと見る。

 「まだお前の名前を聞いてない。もうすぐ帰るけど、名前を教えるなら呼んでやってもいい」

 「テン・・・」

 ぷいっと顔を背けてるから熱くなった頬は見られていないよね?

 「そうだったな。名乗っていなかったとは・・・。自分で自分に呆れるな」
 
 ───いや、テンが可愛過ぎるからだな。自分のことなど後回しにしてしまうな。

 ぎゃー!聞こえてるから!そのつぶやき!
なんなの?悪魔って羞恥心ってないの?
 恥ずかしさで血反吐吐ける!
 ぐはっ。

 「テン、改めて自己紹介をさせてくれ。私はベリエルの配下、の配下、の配下ぐらい、のイーサンだ」

 何回配下って言ったかな。・・・下っ端ってこと?

 「今は雇われ領主のようなことをしながら、時々人界に行って人の魂を狩ってるんだ」

 悪魔、改めイーサンの話によると、もともと貴族でもなんでもない自分だが、上司がほぼ全員行方不明なので、
(なんで!?と問えば、そもそも悪魔は自分の欲を満たすために存在しているわけだから、仕事なんてしないし家があっても好きな場所で暮らすものらしい)
 それで、人界を見習いながら、真面目に領地の魔獣を狩ったり、広大な荒れ地の緑化計画に取り組んでいるうちに、この土地と屋敷を与えられたのだそうだ。
 真面目な奴が確実に出世する魔界。階級的には下っ端のままらしいが。

 「明日は領内を案内するよ。湖のほとりに咲く花が見頃だ。最近ぐるりと一周できる遊歩道を作ったんだ」
 
 ・・・観光地?
 
 「え、と。イーサンはあまり悪魔らしくないんだな」

 そう言うと、イーサンはそんなことはない、と笑った。

 「やりたいことしかしていない」

 キラン、と僕に向ける目が光る。
 ・・・そうだな。僕も強引にここに連れて来られたっけ。
 イーサンは僕をミーナから受け取り優しく横抱きにした。

 「もうデザートは食べれるか?」

 僕はこくりと頷き、デザートを全種類一口ずつ頂いたのだった。 
 もちろんまたも食べさせてもらったのだが。
 

 

 
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