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悪魔にも信頼するに値する者がいる。・・・のか?
いや、信じてはダメだ。
悪魔のせいで堕落していった人間達の慟哭を忘れるな。
そう頭ではわかっているのにどうも僕は、イーサンに心を許してしまったみたいだ。
温泉の効果も相まってか、眠くなって隣りで浸かるイーサンにすり寄ってしまった。
イーサンはそんな僕をお湯の中で横抱きにする。
ふわふわ、ふわふわ。
なんて気持ちいいんだろう。
「テン、そろそろ上がろうな」
遠くで聞こえる優しい声に、いやいやとむずかる。
子供か!と心の中で自分にツッコミを入れるが、もう目を開けられない。ぺったりとイーサンの胸に頬をくっつける。
いいのだ。今の僕は天使ちゃんだ。過去の自分を思い出してからどうも理屈っぽくなっているが、甘えても全然おかしくない存在なのだ。
天使ちゃん最高だ。
過去の僕は、ずっと、こうやって誰かに寄りかかりたかった。
魔獣だったり悪魔だったり、その時々の目の前の敵を倒してきた。神の創りあげた人界を愛していたし、そこで暮らす人々を愛していたからだ。
だけどいつもあと少しで間に合わず、人々は哀しみの中で死んでいくのだ。
自分には誰も救えないという、果てのない無力感。
疲弊していたと今ではよくわかる。あの頃の自分はもうぎりぎりで、頭も心も空っぽのまま闘っていた。
いや、悲しみが溢れて、溢れて。
いっそ、悪魔も人間も自分も、この世界ごと滅ぼしてしまおうかと、そうしたらもう誰の悲しむ姿を見ずにすむのにと。
そうだ・・・。
羽根を交換したことをきっかけに、僕は死んだんじゃなくて。そうじゃなくて。
“堕天”
堕ちたのか・・・。
目が覚めると、・・・薄暗い、だけど多分、朝だった。
体感は朝だし、カーテンは開けられているから夜中ではない、はず。魔界には日が差さないというのは本当のことだったか。
大きなベッドには、僕とイーサン。
──ということは、ここはイーサンの部屋か。
寝てしまった僕をベッドに寝かせてくれたんだな。柔らかい布でできたパジャマもちゃんと着せられてる。
「ありがと、イーサン」
寝顔にそっとお礼を言うとイーサンの口もとがにっこりした。少しずつまぶたが開いていく。漆黒の瞳。
──その美しさに見惚れた。
「おはよう、テン。私こそありがとう」
「・・・」
「テン?どうした?」
「な、なんでも!」
なんという色気!イーサンの美しさに息が止まってた!なんて言えるはずがない。さすが悪魔。人を惑わす為に美しい者が多いというが、ガブリエルという超絶美形を毎日見ている自分ですら一瞬心を奪われた。
イーサンは平民と言ってたが、過去に対峙した高位の悪魔よりずっと美形なのだが。
背中に冷や汗が流れるのを感じていると、起き上がったイーサンに抱き上げられた。
パッと軽く手を振り部屋の灯りを灯す。
そのままカーテンの開けられた窓辺に進み、僕が外をよく見えるように抱え直し。
「今日はとてもいい天気だぞ」
と、のたまった。
外は曇天。
この暗がりでいい天気なんかーい。
「昼食は湖のほとりで食べよう」
ピクニック?おどろおどろしいな。雨が降っていないだけいいのか?常に白々と明るい天界とは真反対の天候は不思議だ。
「すごく楽しそうなお誘いだけど、僕帰らないと。何も言わずにお泊りまでしちゃって、ガブリエル、様が心配してるよ」
「まだそんなことを言ってるのか。テンのように小さな子を働かせるのは悪いやつなのだ。もう帰らなくても私が匿ってあげよう。そんなに気にするほどそのガブリエルとかいう親方は怖いのか?」
「ガブリエル様はすごく優しいよ。毎日僕にお仕事をくれるんだよ」
「う!いい子!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、少し苦しい。
イーサンの中でのガブリエルは小さな子供達を働かせる悪の総元締めって感じなのかな。
どう言えば僕は帰れるんだろ。誰か教えてほしい。
結局、一度ガブリエルの元に帰る、と説得出来たのは朝食の終わった頃だった。
ガブリエルは悪いやつじゃないということを一生懸命説明してわかってもらったのだ。
だが、内容よりもガブリエルの名を出すことで周りの従者や侍女達が怯えて仕事に差し障るから話を切り上げた、というのが正しい気がする。
ミーナはトングで掴んだパンを何度も落とすし、紅茶を入れてくれていた侍女は、あちち、って言ってた。溢してしまったのだろう。
「わかったよ。だが私もテンと一緒にガブリエルとやらに会おう。そしてもう二度とテンに関わらないように話そう」
「それはダメ!絶対ダメ!イーサン秒殺されちゃうって!」
ガブリエルは優しそうな顔してるけど、大天使だからめちゃくちゃ強いぞ。剣の一振りで悪魔の軍団を殲滅したこともある。容赦ないからあいつ。
「む。テン、私だってそこそこ戦えるぞ」
はっきり言ってそんなレベルではない。
うん、二人を合わせちゃダメだな。
「テン、心配せずに私に任せておけ。必ずお前を悪の組織から救ってみせる!」
悪魔の正義感。
なんか腑に落ちないし、めんどくさいな。
いや、信じてはダメだ。
悪魔のせいで堕落していった人間達の慟哭を忘れるな。
そう頭ではわかっているのにどうも僕は、イーサンに心を許してしまったみたいだ。
温泉の効果も相まってか、眠くなって隣りで浸かるイーサンにすり寄ってしまった。
イーサンはそんな僕をお湯の中で横抱きにする。
ふわふわ、ふわふわ。
なんて気持ちいいんだろう。
「テン、そろそろ上がろうな」
遠くで聞こえる優しい声に、いやいやとむずかる。
子供か!と心の中で自分にツッコミを入れるが、もう目を開けられない。ぺったりとイーサンの胸に頬をくっつける。
いいのだ。今の僕は天使ちゃんだ。過去の自分を思い出してからどうも理屈っぽくなっているが、甘えても全然おかしくない存在なのだ。
天使ちゃん最高だ。
過去の僕は、ずっと、こうやって誰かに寄りかかりたかった。
魔獣だったり悪魔だったり、その時々の目の前の敵を倒してきた。神の創りあげた人界を愛していたし、そこで暮らす人々を愛していたからだ。
だけどいつもあと少しで間に合わず、人々は哀しみの中で死んでいくのだ。
自分には誰も救えないという、果てのない無力感。
疲弊していたと今ではよくわかる。あの頃の自分はもうぎりぎりで、頭も心も空っぽのまま闘っていた。
いや、悲しみが溢れて、溢れて。
いっそ、悪魔も人間も自分も、この世界ごと滅ぼしてしまおうかと、そうしたらもう誰の悲しむ姿を見ずにすむのにと。
そうだ・・・。
羽根を交換したことをきっかけに、僕は死んだんじゃなくて。そうじゃなくて。
“堕天”
堕ちたのか・・・。
目が覚めると、・・・薄暗い、だけど多分、朝だった。
体感は朝だし、カーテンは開けられているから夜中ではない、はず。魔界には日が差さないというのは本当のことだったか。
大きなベッドには、僕とイーサン。
──ということは、ここはイーサンの部屋か。
寝てしまった僕をベッドに寝かせてくれたんだな。柔らかい布でできたパジャマもちゃんと着せられてる。
「ありがと、イーサン」
寝顔にそっとお礼を言うとイーサンの口もとがにっこりした。少しずつまぶたが開いていく。漆黒の瞳。
──その美しさに見惚れた。
「おはよう、テン。私こそありがとう」
「・・・」
「テン?どうした?」
「な、なんでも!」
なんという色気!イーサンの美しさに息が止まってた!なんて言えるはずがない。さすが悪魔。人を惑わす為に美しい者が多いというが、ガブリエルという超絶美形を毎日見ている自分ですら一瞬心を奪われた。
イーサンは平民と言ってたが、過去に対峙した高位の悪魔よりずっと美形なのだが。
背中に冷や汗が流れるのを感じていると、起き上がったイーサンに抱き上げられた。
パッと軽く手を振り部屋の灯りを灯す。
そのままカーテンの開けられた窓辺に進み、僕が外をよく見えるように抱え直し。
「今日はとてもいい天気だぞ」
と、のたまった。
外は曇天。
この暗がりでいい天気なんかーい。
「昼食は湖のほとりで食べよう」
ピクニック?おどろおどろしいな。雨が降っていないだけいいのか?常に白々と明るい天界とは真反対の天候は不思議だ。
「すごく楽しそうなお誘いだけど、僕帰らないと。何も言わずにお泊りまでしちゃって、ガブリエル、様が心配してるよ」
「まだそんなことを言ってるのか。テンのように小さな子を働かせるのは悪いやつなのだ。もう帰らなくても私が匿ってあげよう。そんなに気にするほどそのガブリエルとかいう親方は怖いのか?」
「ガブリエル様はすごく優しいよ。毎日僕にお仕事をくれるんだよ」
「う!いい子!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、少し苦しい。
イーサンの中でのガブリエルは小さな子供達を働かせる悪の総元締めって感じなのかな。
どう言えば僕は帰れるんだろ。誰か教えてほしい。
結局、一度ガブリエルの元に帰る、と説得出来たのは朝食の終わった頃だった。
ガブリエルは悪いやつじゃないということを一生懸命説明してわかってもらったのだ。
だが、内容よりもガブリエルの名を出すことで周りの従者や侍女達が怯えて仕事に差し障るから話を切り上げた、というのが正しい気がする。
ミーナはトングで掴んだパンを何度も落とすし、紅茶を入れてくれていた侍女は、あちち、って言ってた。溢してしまったのだろう。
「わかったよ。だが私もテンと一緒にガブリエルとやらに会おう。そしてもう二度とテンに関わらないように話そう」
「それはダメ!絶対ダメ!イーサン秒殺されちゃうって!」
ガブリエルは優しそうな顔してるけど、大天使だからめちゃくちゃ強いぞ。剣の一振りで悪魔の軍団を殲滅したこともある。容赦ないからあいつ。
「む。テン、私だってそこそこ戦えるぞ」
はっきり言ってそんなレベルではない。
うん、二人を合わせちゃダメだな。
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悪魔の正義感。
なんか腑に落ちないし、めんどくさいな。
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