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イーサンに抱っこされ、転移で昨日の森に降り立った。
そこで、美しかった森のあまりの変わり様に、二人、無言で目を見張った。
優しい木漏れ日を作ってくれていた木々は真っ黒に炭化し醜く折れ曲がり、裸足で歩いても大丈夫なほど育った柔らかな黄緑の苔の絨毯も、掘り返されたように無惨に荒らされていた。
「たった一晩で何が起きたのだ・・・」
呆然とイーサンが呟く。
その言葉に頷きながらも僕は嫌な予感がひしひしとした。
辺り一面、まるで雷の集中攻撃にあったかのようなのだ。
雷とは”神鳴り”。
神の怒りを顕現させた攻撃は大天使以上の天使たちはみんな使えるが、脳裏には大激怒したガブリエルの鬼の様な顔があった。
──ああ、なぜもっと真剣に帰ろうとしなかったんだ。昨夜の僕ううぅっ。
「こっちだ」
イーサンが反省してる僕を抱えたまま悪魔の象徴でもある漆黒の羽根を背中に出す。
あれ?よく見えないけど、この大きさは六枚羽根じゃないかな。平民の持つ羽根じゃないよね?
ぽかんとしていると、ほんの一度大きく羽根を羽ばたかせ、びゅーんとすごい距離を移動した。
そしてあっという間に着いたのが、ところどころ崩れた石造りの、元は美しかっただろう大きなお城。
あれ?中からざわざわと声がするから人がいる!早く避難させないと!
そう思って、焦った僕の耳にひときわ大きく怒声が響いた。
「まだ見つからないのか!!」
こ、この声は──
イーサンの腕からふよふよと浮かび上がり、崩れた壁からそっと中を覗くと。
やっぱりガブリエルがいた。
荒れてなければ謁見の間といった造りの部屋の奥、何段か登った上に置かれた背もたれの高い、見るからに王様の椅子。
そこに六枚羽根を大きく広げ、偉そうにしてる美丈夫。
優しげなミルクティー色の髪が緩く波打ち、顔周りを縁取っていて普段なら優美な印象なのだが。
今は憤怒といった表情で、報告をする兵士を睨みつけている。
こ、こわ。
想像の百倍怖い。
兵士も白い顔でがたがた震えている。
あ、壁際に何人か立っているけど、一人は王冠を胸のあたりに抱えてうつむいている。──って、王様だよね。ガブリエルってば王冠外させたの?ひどい!ひど過ぎる!
純白のローブを纏っているけど。
───ガブリエル、魔王かな?
「あれは、大天使か!まさか、王の森と王城を無惨に荒らしたのはあの者か?」
僕の隣に来たイーサンが驚いて言う。
あの森は“王の森”だったのか。どおりで美しく安全な森だと思った。あの森に降ろしたガブリエルは、本当に僕に対して過保護だな。
「テン、気を付けろ。天使に見つかったらひどい目に合わされるぞ」
「・・・」
悪魔側の意見はとても新鮮だ。
そんなことより今はガブリエルだ。なんとかして慈悲深いいつもの彼に戻ってもらわないと。
でも、あんなに怒っているガブリエルを見たのは初めてだからな。ただいま~、なんて言ったら命取られそう。
「震えてるのか、テン。怖いものを見せてしまったな。魔界へ帰ろう」
「震えてなんて、ないもん」
帰ってどうする。
でも、抱き寄せていいこいいこと頭を撫でてくれるイーサンにぎゅっとしがみつく。
そうだ。あんなガブリエルに悪魔のイーサンを会わせちゃダメだ。さっき見た木のように立ったまま炭にされちゃう。
「──しかしながら大天使様、夜通し国中を捜索いたしましたが、言われたような子豚のように愛らしい子供は見つかりません」
誰が子豚か!
「人の子ではない。天使ちゃん、だ。そう声をかければ返事をするはず。──いや、もしや、声を出せないような状況というのもあり得る。むむむ!一刻の猶予もならん!川も海もさらえ!山奥にも捜索隊を出せ!」
「あ、あの、天使のように可愛い子豚なら見つかったのですが・・ぐは」
後ろから子豚を抱っこした兵士が口をはさむが。
みなまで言わせず軽い手の一振りで兵士を壁に叩きつけた。
ちなみに可愛い子豚は無事だ。ガブリエルの力によってふよふよと宙に浮かびガブリエルのもとにたどり着いた。
──・・・やっぱり魔王かな。
めちゃくちゃ捜されてるから、ここはもう、勇気を出して出て行くしかないだろう。
「イーサン、ここでお別れだ。僕はペットにはならない。望んで行ったわけじゃないけど、一宿一飯の恩義だ。イーサンのことは、悪魔だけど見逃してやる」
「テン?どうした?天使のように物騒なことを言って」
天使とは。
思わず天使を語る、という逃避をしそうになった。
めんどくさくなって、しっしっとガブリエルから目をそらさずイーサンに向かって手を振る。
「ところであの大天使、天使ちゃんと言ってなかったか?もしや、あの大天使がお前の言うガブリエルで悪の親玉か?」
「え、と・・・」
あ、確かにあそこに子豚を抱っこして座ってるね、悪の親玉(魔王)が。
「そうか、テンを探しているのか」
「う、うん。そうみたい」
「よし。待っていろ。私が話を付けてくる」
は?
ばさりと大きく羽音を響かせ、崩れた壁からイーサンが中へ入って行った。
僕の脳裏に炭化した木立ちが鮮明に浮かび上がった。
そこで、美しかった森のあまりの変わり様に、二人、無言で目を見張った。
優しい木漏れ日を作ってくれていた木々は真っ黒に炭化し醜く折れ曲がり、裸足で歩いても大丈夫なほど育った柔らかな黄緑の苔の絨毯も、掘り返されたように無惨に荒らされていた。
「たった一晩で何が起きたのだ・・・」
呆然とイーサンが呟く。
その言葉に頷きながらも僕は嫌な予感がひしひしとした。
辺り一面、まるで雷の集中攻撃にあったかのようなのだ。
雷とは”神鳴り”。
神の怒りを顕現させた攻撃は大天使以上の天使たちはみんな使えるが、脳裏には大激怒したガブリエルの鬼の様な顔があった。
──ああ、なぜもっと真剣に帰ろうとしなかったんだ。昨夜の僕ううぅっ。
「こっちだ」
イーサンが反省してる僕を抱えたまま悪魔の象徴でもある漆黒の羽根を背中に出す。
あれ?よく見えないけど、この大きさは六枚羽根じゃないかな。平民の持つ羽根じゃないよね?
ぽかんとしていると、ほんの一度大きく羽根を羽ばたかせ、びゅーんとすごい距離を移動した。
そしてあっという間に着いたのが、ところどころ崩れた石造りの、元は美しかっただろう大きなお城。
あれ?中からざわざわと声がするから人がいる!早く避難させないと!
そう思って、焦った僕の耳にひときわ大きく怒声が響いた。
「まだ見つからないのか!!」
こ、この声は──
イーサンの腕からふよふよと浮かび上がり、崩れた壁からそっと中を覗くと。
やっぱりガブリエルがいた。
荒れてなければ謁見の間といった造りの部屋の奥、何段か登った上に置かれた背もたれの高い、見るからに王様の椅子。
そこに六枚羽根を大きく広げ、偉そうにしてる美丈夫。
優しげなミルクティー色の髪が緩く波打ち、顔周りを縁取っていて普段なら優美な印象なのだが。
今は憤怒といった表情で、報告をする兵士を睨みつけている。
こ、こわ。
想像の百倍怖い。
兵士も白い顔でがたがた震えている。
あ、壁際に何人か立っているけど、一人は王冠を胸のあたりに抱えてうつむいている。──って、王様だよね。ガブリエルってば王冠外させたの?ひどい!ひど過ぎる!
純白のローブを纏っているけど。
───ガブリエル、魔王かな?
「あれは、大天使か!まさか、王の森と王城を無惨に荒らしたのはあの者か?」
僕の隣に来たイーサンが驚いて言う。
あの森は“王の森”だったのか。どおりで美しく安全な森だと思った。あの森に降ろしたガブリエルは、本当に僕に対して過保護だな。
「テン、気を付けろ。天使に見つかったらひどい目に合わされるぞ」
「・・・」
悪魔側の意見はとても新鮮だ。
そんなことより今はガブリエルだ。なんとかして慈悲深いいつもの彼に戻ってもらわないと。
でも、あんなに怒っているガブリエルを見たのは初めてだからな。ただいま~、なんて言ったら命取られそう。
「震えてるのか、テン。怖いものを見せてしまったな。魔界へ帰ろう」
「震えてなんて、ないもん」
帰ってどうする。
でも、抱き寄せていいこいいこと頭を撫でてくれるイーサンにぎゅっとしがみつく。
そうだ。あんなガブリエルに悪魔のイーサンを会わせちゃダメだ。さっき見た木のように立ったまま炭にされちゃう。
「──しかしながら大天使様、夜通し国中を捜索いたしましたが、言われたような子豚のように愛らしい子供は見つかりません」
誰が子豚か!
「人の子ではない。天使ちゃん、だ。そう声をかければ返事をするはず。──いや、もしや、声を出せないような状況というのもあり得る。むむむ!一刻の猶予もならん!川も海もさらえ!山奥にも捜索隊を出せ!」
「あ、あの、天使のように可愛い子豚なら見つかったのですが・・ぐは」
後ろから子豚を抱っこした兵士が口をはさむが。
みなまで言わせず軽い手の一振りで兵士を壁に叩きつけた。
ちなみに可愛い子豚は無事だ。ガブリエルの力によってふよふよと宙に浮かびガブリエルのもとにたどり着いた。
──・・・やっぱり魔王かな。
めちゃくちゃ捜されてるから、ここはもう、勇気を出して出て行くしかないだろう。
「イーサン、ここでお別れだ。僕はペットにはならない。望んで行ったわけじゃないけど、一宿一飯の恩義だ。イーサンのことは、悪魔だけど見逃してやる」
「テン?どうした?天使のように物騒なことを言って」
天使とは。
思わず天使を語る、という逃避をしそうになった。
めんどくさくなって、しっしっとガブリエルから目をそらさずイーサンに向かって手を振る。
「ところであの大天使、天使ちゃんと言ってなかったか?もしや、あの大天使がお前の言うガブリエルで悪の親玉か?」
「え、と・・・」
あ、確かにあそこに子豚を抱っこして座ってるね、悪の親玉(魔王)が。
「そうか、テンを探しているのか」
「う、うん。そうみたい」
「よし。待っていろ。私が話を付けてくる」
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ばさりと大きく羽音を響かせ、崩れた壁からイーサンが中へ入って行った。
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