《完結》天使ちゃん

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 「カ、カミ様・・っ」

 ・・・・・・。
 また噛んだ。
 可哀想な子を見る周りの視線が痛い。痛いよ。

 “フォッフォッフォッ。流石のわしも神ではない”

 ただ一人(一匹か?)はとても嬉しそうだけど。
 ガブリエルをそっと床に横たえ、僕は、カメ様に向かって膝をつき頭を床に擦り付けるほど下げ、両手の平を上に掲げた。

 「どうかお許しください。知らなかったとはいえガブリエルがカメ様の住処を荒らしてしまったのは僕のせいなんです。だから、どうか、どうか咎は僕一人に!」

 “フォッフォ、お前のような小僧を捻り潰したところでわしの眠りを妨げた罪が贖えるとでも思うのか?”

 「ど、どうか。なんでもいたします。僕以外はどうぞお許しください」

 「テンっ・・!」

 そばでイーサンが首を振るが胸を押さえて苦しそうだ。カメ様の威圧に反応しているのか。

 “よかろう、小僧。お前の命で罪を贖うがいい。──そして、その後でゆっくりとこの国を滅ぼしてやろう”

 「な!何故です?」

 “フォッフォ、憂さ晴らしよ。そもそもこの国の人間共には、永い眠りにつかされた礼をするつもりじゃった。念入りにな”

 「そんな・・・」 

 
 人々も自分たちも標的なのかとざわついている。
 太古の力に抗う術はない。できることといえば、イーサンがしたように、軌道をわずかに反らすぐらい。
 けど、僕にはそんな力はないし、ガブリエルは未だ意識がない。
 ──そうなるとイーサンにやってもらうしかないけど、今や膝をついて苦しがってる。

 「イーサン、大丈夫?」

 「・・・テン、お前の自己犠牲の、清浄なオーラが、く、苦しい~・・・・・」

 原因、僕かい。
 忘れてたけどイーサンは悪魔だった。

 僕は立ち上がり、カメ様の大きな頭の前までふよふよと浮き上がると、両手を広げ結界を張った。

 “フォッフォッフォ。この場で一番弱き者がわしの前に立つか”

 ぐあ、と口が開く。

 「テン!!」

 視界が地竜の喉から放たれた赤い閃光でいっぱいになった。

 ああどうか僕の張った微弱な結界で、少しでもこの場にいる人々が逃げる時間を取れますように。

 「テン!!!!」

 最期に聞く声が、イーサンのものだというのに安心し、塵に還るのを覚悟した。
 予想していた痛みはなく、何故か背中を強い力で押されたような気がした。
 
 背後で、「おお!」「黄金の羽根?」等の人々のどよめきと、イーサンの「テン」と僕を呼ぶ声がする。
 何が起きたのか。
 わからないまま、何度も赤い閃光が走るのを目にした後、世界が真っ白になった。
 
 目をやられてしまったのか。消滅してしまったのか。
 世界は未だ真っ白で、カメ様も、イーサンも、ガブリエルも見えない。
 僕だけがぺたりと座り込んで呆然としている。
 だけど、不安はない。ここはとても穏やかな世界だ。
 
 “久しいのう、ミカエルよ。わしの大事な愛し子よ。太古の竜は消滅したぞ”

 姿は見えないまま、白い世界に懐かしい声が響いた。
 ───ああ。

 「主よ、ありがとうございます。来てくださったのですね。──それに、堕天した私を愛し子と」

 “もちろんだ。ほれ、カミ様と2回呼んでくれたじゃろ。ちゃんとそなたの声はわしに届いてるんじゃよ。ほほ”

 ああ、あれですね。
 カメ様をカミ様と噛んだ、例の。ええ、2回も。
 そういえば神はこういう性格だったと思い出した。

 ”それにそなたの羽根が黒く染まってしまったのはわしのせいじゃ。誰より人を愛するそなたに悲しい思いばかりさせてしもうた。怠惰や快楽を求めて堕ちたわけではない。そなたは天使だよ”

 「ですが・・・、私には以前のような力はありません。今だって主の御力があればこそ」

 “ふむ。力が欲しいか?力があればまたそなたは人々のために奔走するのだろうな。それを止めようとは思わないが、──だがどうじゃろう。ミカエルに戻る前に少し休んでもいいのではないかな。”

 「休む?休んでいる天使などいません」

 “・・・ガブリエルを見習うといい”

 ガブリエル?毎日文官として忙しそうだが。

 “天使にも欲望があるということだ”

 「はあ・・・」

 “今しばし、テンとしてこの世にあることを命ずる。わしの大事な愛し子よ、失くした笑顔を取り戻すのじゃ”

 笑顔?
 そういえば、もうずっと笑っていない、ような気がする。
 慌てて、に、と口を思い切り横一文字にするが、神に“ほほほ”と可笑しそうに笑われてしまった。

 “急がずとも良い。心から幸せだと笑顔になることが出来れば、それだけで人を導くことができるじゃろう”

 「──はい。主よ。ありがとうございます」

 “おお、そうじゃ。いずれそなたがミカエルに返り咲くにはな、やはり羽根が必要なのだよ。そなたの羽根は、今はあの悪魔の背にある。ほれ、イーサンとかいう”

 へ?

 “そなたの羽根が黒く染まったその時、そなたから羽根を引き離した者がいたのよ”

 「それが、イーサン?」

 “いやいや、誰とは言わぬが、その者はそなたが悪魔に堕ちるのを止めたい一心だったのじゃろうて。
 その時離れた羽根は界を渡り、力を切望していた者の元に降り立ったのじゃ”

 なるほど。荒れていく魔界をまとめ上げる為に、イーサンは力を欲していた。
 
 “まあ、もともとはそなたの羽根じゃ。戻れと念じれば、直ぐにそなたのもとに来るじゃろう”

 「はい」

 とは言ってみたものの、羽根の機能が不思議過ぎて理解が追いつかない。
 



  


 
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