クズな同期と悪いコト

凪澤依花

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0 おわりのはじまり

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 十年の恋の幕引きはたった十文字だった。

「果帆といるの疲れた」

 この一言で、わたし達の十年間は終わった。


 
『あとどのくらいで着きそう?』
 
 駅の階段を昇ってくる人の塊とスマホの画面を交互に見ながら、果帆はそわそわした気持ちで約束の十時になっても現れない恋人で婚約者でもある飯塚衛を待っていた。そわそわしているのはもうすぐ恋人に会えるという浮かれた気持ちからではなく、この後の予定に遅刻しそうだからだ。
 果帆達は今日、自分達の結婚式の打ち合わせの為に式場のある表参道で待ち合わせをしていた。

 寒さのせいか待っている時間がやたらと長く感じる。
 今年一番の寒波がやってくるという天気予報通り、時折吹く風が痛いほどに冷たい。外に出てまだ十分も経っていないというのに、スマホを持つ指先の感覚が分からなくなるほど身体は冷え切ってしまっている。寒さを紛らわせたくて、果帆はその場で小さく足踏みをした。

 どうしたんだろ、遅いなぁ。

 駅に着いてすぐ送ったメッセージに既読が付かない。それだけならば、移動中だろうと気にしないけれど、朝から送っている『おはよう』や『今から家出るね』といったいくつかのメッセージにも未だになんの反応もなかった。さすがに何かあったのではと、約束に遅れてしまうという焦りより心配と不安が大きくなってきたタイミングで握りしめていたスマホが揺れた。

「衛?」

 メッセージアプリから見慣れたアイコンの呼び出し画面に変わってすぐ、待ち構えていたように電話に出た。

「衛、聞こえてる?」
「ん」

「今、どこ?」
 連絡がついて安堵すると同時に、約束の時間が迫っていることを思い出して気が急いだ。

 焦りからいつもより早口になっている果帆と正反対に相づちとも返事とも取れないぼんやりとした声が返ってくる。待ち合わせの時間をすでに二十分以上過ぎているというのに、急ぐ様子もなくどこか心ここにあらずといった空気が電話の向こうから漂っていた。

「どうしたの、電車遅れてる?」
「いや……」

 もしかして、寝坊したのだろうか。気だるげでかすれた声は、寝起きの声にも似ていた。頻繁ではないが、朝に弱い衛が待ち合わせに寝坊をして遅れることはたまにある。
 

「体調、悪いの?」
「や、そういうんじゃないけど……」

 それならどうして連絡もくれないのかと言いたいが、今は問い詰めている時間はない。
 プランナーとの約束の時間まであと五分。式場は駅前とはいえ、今からでは走っても間に合うかどうか──。

「衛はもう間に合わないよね。わたし、先に行っておくから急いで……」

「……ごめん、いけない」

 えっ、と喉の奥から間の抜けた声が出た。

「都合悪くなったの? それなら、早く連絡しないと……」

 体調不良なら仕方ないが、式場の人にとっても当日のキャンセルなんて大迷惑だろう。

 とりあえず担当者に連絡しなくてはと、慌てて鞄の中を探って手帳を取り出した。

「リスケ、いつにして貰う?」

「そうじゃなくて……ごめん」

 衛の様子から只事ではないことを察して、手帳をめくっていた手を止める。


「結婚、やめたい」

「え?」
 

「ごめん、しばらくひとりになりたい」
「待って、なに……」
 
 呼び止める間もなく通話が切られ、この連絡を最後に衛とは連絡が取れなくなった。

 これが、結婚式を三ヶ月後に控えた冬の日の出来事だった。

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