おっさんは異世界で焼肉屋する?ー焼肉GOD

ちょせ

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閑話休題その4 鹿頭

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夜空の風を切りながら飛ぶのは気持ちいいものだが、彼女の心を悩ませているのは怒りと焦燥である
同じように夜空を飛んでいるシャルロットが言った

「姫様、見えてまいりました」

巨大都市ウルグインの夜の空を飛ぶ五匹の飛竜

街を上空から見下ろせば、まばらに明かりが灯っているのがよく見える

これがダイダロスの街であればきっと、もっとたくさんの美しい明かりが灯っているのであろうが、ウルグインの街はまだその域には達していない

「何事もなければ良いがな…」

さすがに夜の空は肌寒い
標高が高いのでなおさらだろう

レオノールは不安を抱えながら目的地に到着をする

ばさり、ばさりと飛竜は地上に降り立つと、するりと降りる


「姫様っ!」


先行して先に降り立った親衛隊がレオノールに駆け寄ってくる

目の前に見えるのは無残にも破壊された店舗の入口だった
その周りにはちらほらと野次馬も集まっている様だ

「遅かったか!」

レオノールは叫ぶと飛竜を親衛隊に預けて、シャルロットら親衛隊と共に焼肉ゴッドに向かって駆け出した

瓦礫を踏みしめながら店内に入っていく

そこには何故だか血まみれの男達が



仲良く酒を飲んでいた







「そ~なのかアンタも大変だなあ、シアの親父さんよ」

頭に鹿の角が付いた被り物をした男が言った

「ばかやろう!手塩にかけて育てた娘が・・・いつか嫁に行くなんて考えたくもねえ!それどころか今の話で想像しちまったじゃねぇか」

そう言って泣き始めるガルバ

「分かって、分かってくれるのか!私の気持ちが!」

グラスをギュッと握りしめ、涙を流している国王

おっさん3人仲良く愚痴を言い合いながら共感している姿は傍から見ればものすごく残念に見える

「ああ分かるよ、分かるとも!うちの娘はまだ幼いが、同じ娘を持つ父親にしかわからねぇ事があるんだ!」

ガルバそう言うと立ち上がり

「おおおおおお!同士よっ!」

国王も立ち上がると、がばっとガルバに抱きついて泣きはじめた

先ほどからもう数回これが繰り返されている

同じ事を繰り返しているようだ


国王に足りないものは
心許せる友人であった

先程、剣をふりあげたものの、カンザキではないと分かって

がっくりと崩れた王をどうしたと慰めたのはガルバと鹿だった

そして酒を飲み愚痴を話すうちにガルバが同じ娘を持つ父親として悩みを話し始めた

王は感動にも似た共感を覚える

若い頃は身分を隠して冒険者をしていた事もあり、街の人々に久々に触れ合っていた
それも思い出して、かつての楽しかった思い出と共に涙腺はまるで壊れた蛇口が如く緩みまくっているのだ


「いいなあお前らは子供の話しやがって、結婚してんしよー俺なんて相手すら居ねぇのに」

鹿は鹿で愚痴を吐露してはいるが、二人の初めて会ったとは思えない友情を見せられて悔しいだけなのだ


「鹿さんにもいずれわかる時が来る!そして分からないのが幸せだと気づくのだ!そうだ、良い人が居らぬか探してみようではないか!」

「そうだぞ鹿ぁ探してもらえ、でもなあ……今は自由気ままなお前が羨ましいよ」

「そんなもんかー。でも俺なんかが良いって人がいるもんかねぇ」


三人は仲良く酒を飲んでいたその時だった
外でばさりばさりと羽音が聞こえたかと思うと




「お父様!」


レオノールがそこに駆けつけてきた

その後ろでは駆けつけた親衛隊が野次馬を入れないように散らして、壊れた入口の片付けを始めた

「レオノール!な、何故ここに!」

王は泣きはらした目を見開いて驚く

「何故ここにではありません!全くもう、お迎えにまいりましたので帰りますよ、お父様」

レオノールはおでこに手を当て頭を下に向けて言った

「例の娘さんかい?いやあ、えらい美人だ。そりゃ親父は心配だわなあ」

鹿が言った

「いや、これは三女でなぁ。今心配しておるのは長女と次女なのだ」


「なっ!?あなた様は何故そんな血まみれで・・・」


鹿の体はさきほどのガレキの下敷きになった折に節々を切ってしまい、血が流れている

よく見ればガルバも頬から血を流しているし、唯一何ともなさそうな王ですら手は真っ赤に染まっている

「シャルロット、救護箱を持ってきてくれる?お願い」

「はい姫様」

親衛隊のシャルロットが鹿の身体に付いたを血をぬぐい、包帯を巻いたりしている

回復魔法などもあるのだが、あれは誰でも使えるものではない

一度は応急処置をして、回復師のいる病院で治療してもらうのが一般的だ

「この度はうちの父が御迷惑をお掛けしました」

レオノールが申し訳なさそうに頭を下げる

「いいってことよ、楽しかったしな」

「そうそう」

ガルバと鹿はにこやかに笑って言った

「この入口も明日には修理にこさせます。貴方方の治療費もお支払いしますし、父がこちらで頂いたお酒の料金もお支払い致しますのでご容赦下さい」

レオノールはそう言って国王を引きずって帰ろうとするが

「まてレオノール。こちらの鹿さんはな、とても良い御仁であるのだが、女性との出会いがまるで無いという。お前、誰か心当たりがないか?」

唐突に王は思い出したように言い出した
娘に引きずられていながらそんな発言をするとはかなりシュールな光景である

「は、はあ」

「そう言った事を、お前良くしておるではないか」

レオノールの趣味はカップルの量産である

王宮では出会いは少ない。それを見かねたレオノールが女中に男性を紹介したりとか、貴族の男女をくっつけたりしていたのだ

まあ、シアを結婚させようとアレコレしていた時の副産物ではあるのだが、カップルとなった者達からの、嬉しそうな笑顔が癖になったと言うのもある

レオノールはシャルロットに治療されている鹿を見て、ふと思った

そう言えばシャルロットは次々と縁談が失敗していたわね・・・良い娘なんだけど…

「そうですね、鹿さんそちらのシャルロットはいかがでしょうか?」

「え?」

鹿はそう言われてシャルロットを見る

とても美しいその顔に見惚れてしまう
シャルロットも顔を赤くして鹿から目を逸らしてしまっ た

「いやいや、こんな美人さん俺には勿体ねえよ。第一このシャルロットさんが俺なんか嫌に決まっているだろ」

鹿は笑いながら手をひらひらさせた

「シャルロット、貴方はどう思ってる?嫌かしら?」

「はい、姫様。むしろ私などで良ければ喜んでお受けしたいと思います。このお方であれば…ぜひに」

顔を真っ赤にしたシャルロットがそう言った

シャルロット、即決である。これには理由があるのだがそれに思い当たる者はだれもいない

「決まりね!お父様、鹿さんにはシャルロットを貰って頂きましょう」

「おお!シャルロット、良かったではないか!よし、結婚式は盛大にしてやろう!鹿さん、すまないがシャルロットをよろしく頼む」

「え?」

鹿が理解できないと言った具合の声を出す

「あ、ありがとうございます!姫様、王様!」

シャルロットは立ち上がって頭を下げる

鹿は立ち上がったシャルロットを見て違和感を覚える

何かがおかしい。なんの茶番であろうか?しかしいい具合に酒に酔っている鹿にはそれがわからない

「鹿様、これから末永くよろしくお願い致します」

シャルロットの美しい笑顔が鹿の判断をさらに鈍らせる

「あ、はい」

ん?何かあったのか今?

鹿は女性に相手にされるなど思ってはいなかったので、本当に何の話か分かってはいない

「なあガルバ、何かあったのか?」

「さあ?」

ガルバも同じくその話を良く聞いていなかった

「ではシャルロット、式の日取りを決めてまた参りましょう」

「はい!」

「はははめでたいのう!これは良い縁談となった!鹿さん、ガルバ殿、また会おう!」

そう言って国王は娘にズルズルと引きずられながら去っていった


まるで嵐が過ぎ去った様に焼肉ゴッドの店内は静けさを取り戻す

まだ親衛隊の数名が入口まわりを片付けているのだが、間もなく終わりそうである

ガルバが先程のシャルロットを思い出すように言った

「さっきのシャルロットさん、デカかったなあ」

シャルロットの身長は208cmある
対して鹿は165cm

「へぇ、俺顔しか見てなかったからよくわからなかったよ美人な人だなあってよ」

「あはは惚れたか?」

「バカ言うなよ、あんな美人に惚れたってろくな事になんねえよ」

「そうだな、酒飲み直すか」

「そうしようそうしよう。酒を飲もうぜ。おっさん居なくなっちまったのは寂しいけどなあ」

鹿は気づいていない。


今しがた自分の結婚相手が決まった事に







鹿の結婚式まであと3日
身長差43cmの夫婦が誕生するのだった


鹿はもう、どこにも逃げられない


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