終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

金色の力

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!!!

目の前を、濃い霧が覆っている。
信じられない。
私達を襲ったつららが一瞬で溶けて、水蒸気になった。
それほどの熱。それほどの熱さ。

私達の周りで、まばゆい金色の光がキラキラ光り、ぐるぐる回り、渦を作っている。
この光、見たことがある。
金色の力エル ポデール デ オーロ」だ。
入学式の日にシガル校長に大火傷を負わせた、あのわざだ。

「私は、フアニータ。太陽のフアニータフアニータ デル  ソル。あなたは?」
名乗ったフアニータに向かって数十本ものつららが飛んできた。

「失礼ね」
フアニータは金色の光の渦で迎撃した。
つららは空中に刺さるような形で止まり、みるみる蒸発して消えていった。

「レディーに名乗らせておいて、あなたは名乗らないの?」
フアニータは霧をかき分け、つららが飛んでくる方向に向かって全力でダッシュした。
たぶんそっち。そっちにケダモノがいる。

(果たして、そっちかな?)
ケダモノのテレパシーが聞こえる。
からかうような響き。次の瞬間、

ダダダタン!
フアニータめがけて、つららが真上から落ちてきた。
「金色の力!」
フアニータは右手で金色の光の渦を横回転から縦回転に変え、つららを迎撃した。
(甘い!)
同時に、無防備なフアニータの左腕を襲った無数のつらら。
私の花ミス フローレス!」

左の掌を開いたフアニータ。
掌から無数のヒマワリの花が現れ、つららを食い止めた。
今度は斜め上から降ってくるつらら。
身を翻して避けるフアニータ。

すごい。
どんな角度からつららが襲ってきても対応するフアニータ。
だけど、このままじゃ、勝てない。

フアニータはたぶん、学校で最強の花乙女。
どんな相手でも力ずくでねじ伏せる。

でもその力が有効なのは近距離だけ。たぶん遠距離の攻撃方法を持っていない。
だからこんな風に距離をとって攻撃されると、反撃の手段がない。
反撃できないままだと、フアニータはいつかは力尽きて負けてしまう。

どうしよう。
このまま放っておいたら、フアニータが負けてしまう。
でも私にできることって何?

「ジェニーは隠れてて」
「でもこのままじゃ・・・」
「私を誰だと思ってるの? 私は最強のフアニータよ」
「でも・・・」
「いいから!」

フアニータは唇を噛みしめると、一気に走り出した。
そう。フアニータにはそれしかない。
敵が距離を取るなら、自分からその距離を詰める。
金色の力エル ポデール デ オーロ!」
金色の光の渦が大きくなり、彼女の全身を覆った。フアニータの姿が完全に消えた。

フアニータは、本気だ。
あんな全力を出した姿、見たことない。
でもこの状態は、長くは続けられない。
頑張れ、フアニータ!


それなら私は、自分にできることをやる。
ケダモノに襲われる可能性がなくなった今、アン先生とナターシャさんを上陸用舟艇ランチに運ばなきゃ。

「アン先生、ナターシャさん、大丈夫ですか?」
気を失った2人に呼び掛けた。
上陸用舟艇ランチのAIに呼び掛けて自律型の担架を送り出して貰い、待ちながら何度も呼び掛ける。

「アン先生! ナターシャさん!」

私の呼び掛けに、ナターシャさんはうっすらと目を開けた。
「・・・誰?」
「花乙女候補生のジェニファーです。戦闘を見学に来たんですが・・・」
「戦闘!?」
ナターシャさんは、跳ね上がった。
「ケダモノ・・・ケダモノは、どこ?」
「大丈夫です。雷を打つのとつららを投げるのは学生達が対応してます」
「雷・・・?」

ナターシャさんは、首をひねった。
「何それ? そんなのがいるの?」
「えっ? だってケダモノは2体いるんですよね?」
「そうよ。つららを投げてくるザコなんてどうでもいいのよ。もっと強くてヤバいのがこの街にいるのよ!」
「ええっ!?」
私は言葉を失った。
あのフアニータが本気で戦ってるケダモノが、ザコなの?
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