終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

薔薇と突撃槍

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ガブリエラを覆う薔薇のツル。
あちこちに花が咲いているけど、それより数が多い棘。
それぞれの棘は長くて、全て空を向いている。
「分かるでしょ? これが私の薔薇で作った避雷針。あなたの雷は全部私の薔薇の棘に落ちるから、後は地面に散らすの。
 だから私を何度攻撃しても」
ガブリエラは突撃槍ランスを前に構えた。
「無駄なのよ」

雷で焼け野原になった風景。
煙の中から姿を現した人影。
ケダモノの姿。

(自分でネタばらしとはずいぶん余裕だな。地球人)
黄色い縞模様の、スーツのような服。
青白い顔色。茶色の長髪の若い男。
まるで人間みたいだけど、左腕が異常に長い。たぶん、彼の身長の倍くらいの長さ。
右腕は彼の背中に回されていてどうなっているか見えない。でも左腕の長さから考えて、こちらもたぶん異常に長い。
それが、この上なく不気味だ。

(調子に乗るなよ)
シカゴで出会ったケダモノと同じ。
私の心に直接語りかけてくる声。
(雷を避けられるだけでは、ワシを倒すにはまだ遠い。果たして)
ケダモノは、左足を前に出した。
(このスピードに付いて来れるかな?)

ケダモノより速く、ガブリエラは突撃槍を脇に、ケダモノに向かって走り出した。

(甘い!)
ケダモノが指を天に向けた。
刹那、ガブリエラは突撃槍を手放した。
突撃槍は雷の直撃を受け、高く跳ね上がった。

がっしゃん!

地面に転がった突撃槍が白い煙を上げている。
ダメだ。下手に武器を持つと雷がそれを狙い撃ちにされてる。

ガブリエラは突撃槍をあきらめ、素手でケダモノに向かって走った。
彼女の開いた両手の、全ての指から勢い良く薔薇のツルが飛び出し、ケダモノに襲いかかった。

(こんなもの!)
ケダモノは異常に長い左腕を、鞭のようにしならせて振り回した。
その左手の指でガブリエラの薔薇のツルを全て掴んだ。

ギリッ!!

ケダモノは足を踏ん張ると掴んだツルを力ずくで自分の方に引き寄せた。
ガブリエラは両足で踏ん張ったもののケダモノの力に抗えず、少しずつケダモノに引き寄せられていく。

ガオン!

予備動作なしで薔薇のツルに雷が落ちた。
間一髪、ガブリエラは薔薇を手放して電撃を免れた。

「なかなか手強いわね」
ガブリエラとケダモノは再び向かい合った。


「ね、フアニータ」
私は黙ってガブリエラを見守っているフアニータに、こっそりと話しかけた。
「ガブリエラを助けてあげられない?」
フアニータは、私をちらりと見て言った。
「私はやぁよ」
「でも!」
「聞いて、ジェニー」

フアニータは周りの様子を伺いながら私に小声で言った。
「オークランドに現れたケダモノは2体。組織ラ アヘンシアからもう一体の行方について情報は来てない。とすれば、そいつは健在と考えていい。
 私達にいつ襲いかかって来てもおかしくない」
「・・・」
「そんな状態で私まであの長腕マノス ラルゴスに神経を集中するのは危険。わかった?」
「・・・わかった」

すごい。
何も考えていないようで、フアニータは色々気考えてる。というか、もし私が頼りになる戦力ならフアニータもガブリエラを助けられたはず。情けないな、私。

「来た!」
フアニータの声。

バシンッ!
私の目の前、フアニータの左の掌から、まばゆい金色の光が溢れている。
その手が掴んでいるのは、

なんで真夏のオークランドにいきなりつららが飛んでくるの? というか、今フアニータが掴んでくれなかったら、これは私の心臓に突き刺さってた。

「ぼーっとしてんじゃないよ、おばさんセニョーラ!」
まだ10才の女の子に叱られて、しゅんとなった私、情けない。
「次が来るから! どっか隠れてて!」

フアニータの言葉が終わらないうちに空から無数のつららが降ってきて、私たちの周りに突き刺さった。
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