【完結】片翼のアレス

結城れい

文字の大きさ
30 / 66

30 新しい家

しおりを挟む
 ポカンと口を空けていた3人は次の瞬間笑い始めた。

「食べるなんて、そんな奴いるわけ無いでしょ」
「なんだ、君たちもつがいで他の奴に手を出されないか心配してんのか?」
「ああ、そういうこと? 確かにアレスは小さくて美人だからな」

 今度はアレス達がポカンと口を空ける番だった。

「い、いや、俺たちは番ではなくて……」
「そ、そうです」

 ルーカスの否定にアレスも慌てて頷く。どうやらこの村には鳥人族を食べる種族は存在しておらず、その存在も知られていないようだ。
 ルーカスがニヤニヤと笑っていた3人に、真面目に返す。

「本当に食べる奴はいるんです。俺以外のガル村の獣狼族も、現に雪山で獣鬣犬達に襲われた時もアレスを非常食として認識して、置いていけと言われたんだ」

 ルーカスの話を聞いているうちに、3人の顔が真剣なものへと変わっていった。

「本当に? 食べちゃうの?」

 クニーは震えながら、隣のウルスにしがみついた。ウルスはそんなクニーを抱きしめる。

「種族によるかもしれないが、兎人族は多分……」
「そんな……」

 ルーカスの返答にクニーは顔を曇らせた。

「そうなのか、まずいな。今まで被害はなかったから楽観視していたが、獣鬣犬は早めにこの近くから追い払わないと」
「ああ。近々、駆逐隊を募って追い払いに行くか」
「そうだな」
「――俺も行きます」

 ルーカスがアレスの翼のなくなった背中を見つめながら力強く言った。

「ああ、頼む。急いで村の外に出る時は警戒するように知らせを出そう。門の内側にも書いた札を立てておいてくれ」
「分かった」

 ティグリスの話にウルスが頷いていると、集会所の入り口で音がなり、誰かが入ってきた。

「準備できましたよ」

 そう言って近づいてきたのは、診療所まで案内してくれた人族の女だった。

「ミレーヌか、丁度よかった。ルーカスとアレスはこの村には住むってことでいいんだよな?」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」

 ティグリスの言葉に、2人揃って頭を下げる。

「空き家があるからそこを使ってくれ。2人は一緒の家でいいか?」

 アレスは「はい」と返事をしながら、ルーカスを見る。ルーカスも一緒に頷いていた。

「家に服と食料を届けてもらったから、村に慣れるまでの間はそれで生活できるだろう。場所はミレーヌに案内してもらえ」
「ありがとうございます」

 お礼を言った2人は集会所を出てミレーヌの後について行った。

「私、まだ自己紹介してなかったわよね、ごめんなさいね。犬人族のミレーヌよ。よろしくね」
「よろしくお願いします。オレはアレスで、こっちがルーカスです。すぐに診療所に連れて行ってもらって助かりました」
「いいのよ。ビックリしちゃって慌てたわ――ああ、ここよ」

 広場から伸びている小道の1つを進んで行った先に、木でできた小ぶりな家があった。

「気に入らなければ改築とかもしていいらしいわ。それじゃ私はこれで」

 手を振って小道を戻って行くミレーヌにお礼を言って、2人は家の中に入って行った。


 入り口はルーカスには少し小さく、屈まなければ入れなかったが中は思ったよりも広かった。入ってすぐの場所にはくりやがあり、横には大きな水瓶も設置してある。
 その奥は少し床が高くなっており、ひと部屋分のスペースがある。暖炉や低い机があり、居間のようだ。机の傍らには服や食料が山になり置かれている。居間の奥には扉があり、開いた扉の先には布団が見える。あちらは寝室のようだ。
 早速暖炉に火をつけようと思いルーカスの腕から降りようとしたアレスは、止められてしまった。

「俺がやるから、アレスはしばらく安静にしていてくれ。足の裏も怪我しているんだろ?」
「そんなに痛く無いよ」
「駄目だ」

 真剣な顔で制止され暖炉の側に降ろされたので、アレスはルーカスの言葉に甘えてじっとしておく。
 ルーカスがボロボロの服を脱ぎ捨てて、新しく用意された服を着ているのを見たアレスは気づいたことがあった。ルーカスの毛は艶がなくなりパサパサになっているし、体も少し小さくなってしまっているように見える。
 アレスの翼片方だけでは、完全に回復できなかったのだろう。置いてもらっている食料の中には大きめの肉の塊もあった。早くルーカスに食べて元に戻って欲しくて、アレスはルーカスに声をかけた。

「ねえねえ、お腹減ってない? ご飯にしようよ」

 着替え終わったルーカスへとそう声をかけると、「そうだな」と返事をしたルーカスがいくつかの肉の塊と果実を持って近づいてきた。

「部屋がもう少し温まったらアレスも着替えよう」
「うん」

 隣に座ったルーカスから果実を受けとり口に運ぶ。横を見るとルーカスも大きな口で肉を頬張っているのが見えたので、アレスはホッとした。

「こんな家に住めるなんて、この村に来てよかったね」
「ああ、そうだな」

 ルーカスと一緒の村に住みたいと思っていた夢がこんな形で叶うなんて。しかも同じ村というだけではなく、同じ家に住んでいる。

――まるでつがいのようだ

 集会所で番同士だと勘違いされたことで、変なことを考えてしまいアレスは慌てて頭を振った。

「どうした? どこか痛いとこでもあるのか?」
「え、ううん、違う。大丈夫」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

ハコ入りオメガの結婚

朝顔
BL
オメガの諒は、ひとり車に揺られてある男の元へ向かった。 大昔に家同士の間で交わされた結婚の約束があって、諒の代になって向こうから求婚の連絡がきた。 結婚に了承する意思を伝えるために、直接相手に会いに行くことになった。 この結婚は傾いていた会社にとって大きな利益になる話だった。 家のために諒は自分が結婚しなければと決めたが、それには大きな問題があった。 重い気持ちでいた諒の前に現れたのは、見たことがないほど美しい男だった。 冷遇されるどころか、事情を知っても温かく接してくれて、あるきっかけで二人の距離は近いものとなり……。 一途な美人攻め×ハコ入り美人受け オメガバースの設定をお借りして、独自要素を入れています。 洋風、和風でタイプの違う美人をイメージしています。 特に大きな事件はなく、二人の気持ちが近づいて、結ばれて幸せになる、という流れのお話です。 全十四話で完結しました。 番外編二話追加。 他サイトでも同時投稿しています。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...