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41 番
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驚いているアレスの前に回ってきたルーカスは、その場に膝をついて座り口を開いた。
「アレス。君が好きだ。俺と番になってくれ」
「――えっ」
そう言って、ルーカスが握りしめた手を差し出してきたので、アレスは反射的に手のひらを上にした状態で両手を差し出した。
ルーカスが閉じていた手を開くと、震えるアレスの手のひらに何かが落ちてきた。
顔を両手に近づけて確認してみると、それは細くて長く黒色の髪の毛のようなものだった。
「俺のヒゲの中で1番長いやつだ」
「……ヒゲ」
「ああ、俺は羽がないし、代わりになるものを探したがなくて……」
アレスはルーカスの顔から生えているヒゲを見つめた。鼻の横からいくつものヒゲが横に伸びている。このヒゲの中で1番長いものを探して抜いたのだろうか。次の瞬間、アレスは緊張が解けてしまい、笑いが込み上げてきて、少し笑ってしまった。
不安そうに返事を待つルーカスを見て、アレスも真剣に返事を返す。
「オレもルーカスが好きだよ。番になって。このヒゲは一生大事にするよ――」
言っている途中でアレスの目には何故か涙が滲んできた。手のひらにあるヒゲをそっと握りしめる。
アレスの返事を聞いて、抱きしめてきたルーカスの体にアレスも腕を回して力一杯しがみついた。
しばらく抱き合っていたが、一度体を離して見つめ合い、軽い口づけを交わす。お互いに初めての口づけだった。
胡座をかいたルーカスの膝の上に座って、アレスは泉を見ながら話す。
「オレも今夜ここで、ルーカスに番の申し込みをしようとしてたんだ」
「そうだったのか」
「うん、クニーに満月の夜にこの泉で言うと結ばれるって聞いてて」
「――え、俺もクニーに聞いたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ」
「ふふふ、明日お礼に行かないとね」
「そうだな」
背後から優しく抱きしめられて、アレスの顔には満面の笑みが広がった。
******
翌朝、アレスとルーカスは揃ってクニーの家を訪ねた。
2人とも昨日は一日中緊張していたし、夜も遅かったため、泉から帰った後はすぐに寝てしまった。
クニーの家につき、入り口を叩いて扉を開けると、居間にウルスが座っていた。
「ウルス、アレスと番になれた」
「おお、そうか! おめでとう!」
ルーカスの報告に、ウルスが笑顔で祝福してくれる。
「まぁ、上がってけよ」
「ああ」
誘われるままに居間に上がり、2人でウルスの向かい側に腰掛ける。お茶を出してもらったので、飲んだところでアレスはウルスに尋ねた。
「ウルス、クニーは? 出かけているの?」
「あ―、クニーは寝室にいるんだが……」
ウルスが気まずそうに返事を返したところで、寝室の扉が開きヨロヨロのクニーが出てきた。
「おめでとう2人とも。聞こえてたよ。番になれたんだってね!」
「うん、クニー色々ありがとう。大丈夫?」
「ウルスが昨日しつこくて……。そうそう、2人とも性行為する前にはちゃんと準備が必要だからね!」
「――え」
「今度、アレスには僕が詳しく教えるから、ルーカスにはウルスが教えてあげて!」
「ああ、頼む」
隣で真剣に頷いたルーカスを見て、アレスは顔が赤くなるのを止められなかった。
――性行為
番になったものが行う行為だ。番になることばかり考えていて、その先のことについては何も考えていなかった。
アレスの後ろにルーカスのモノを入れる。知識として知ってはいるが、今まで実際にやったことはない。アレスの目線は自然とルーカスの下半身へと向いた。
直接見たことはないが、きっと体格通りに大きいものだろう。ちゃんと入るのだろうか。
じっと見つめながら考え込んだアレスに、ルーカスが控えめに声をかけてきた。
「――ア、アレス」
「え、あ、ごめん。入るかなって、あ、いや……」
心の声が漏れてしまってアレスは慌てたが、クニーが「そうなんだよ!」と声をかけてきた。
「入るようになるまでが大変なんだから! ね、ウルス」
「――あ、ああ。まぁ根気強く頑張れば、いつかは出来るさ」
鼻息荒くクニーが言ってくるので、アレスは少しだけ怖くなってしまった。でも、クニーとウルスができているなら、いつかアレスとルーカスもできるはずだ――
******
クニーの家を出た後、相談していたペッツァにも番の報告をしにいく。ルーカスは村長のティグリスにも相談していたようで、そちらにも報告をした。
報告すると皆一様に喜んでくれて、アレスは恥ずかしくなったが、嬉しかった。
ルーカスと手を繋ぎ、一緒に歩いていく。たまにこちらを見てくるルーカスと目を合わせながら、2人の家へと帰った。きっとこれが幸せというのだろう。
相談事のできる村の友達、任せられた作業、愛する番、そしてその番と一緒に住む家。アレスは幸せを噛み締めた。
「アレス。君が好きだ。俺と番になってくれ」
「――えっ」
そう言って、ルーカスが握りしめた手を差し出してきたので、アレスは反射的に手のひらを上にした状態で両手を差し出した。
ルーカスが閉じていた手を開くと、震えるアレスの手のひらに何かが落ちてきた。
顔を両手に近づけて確認してみると、それは細くて長く黒色の髪の毛のようなものだった。
「俺のヒゲの中で1番長いやつだ」
「……ヒゲ」
「ああ、俺は羽がないし、代わりになるものを探したがなくて……」
アレスはルーカスの顔から生えているヒゲを見つめた。鼻の横からいくつものヒゲが横に伸びている。このヒゲの中で1番長いものを探して抜いたのだろうか。次の瞬間、アレスは緊張が解けてしまい、笑いが込み上げてきて、少し笑ってしまった。
不安そうに返事を待つルーカスを見て、アレスも真剣に返事を返す。
「オレもルーカスが好きだよ。番になって。このヒゲは一生大事にするよ――」
言っている途中でアレスの目には何故か涙が滲んできた。手のひらにあるヒゲをそっと握りしめる。
アレスの返事を聞いて、抱きしめてきたルーカスの体にアレスも腕を回して力一杯しがみついた。
しばらく抱き合っていたが、一度体を離して見つめ合い、軽い口づけを交わす。お互いに初めての口づけだった。
胡座をかいたルーカスの膝の上に座って、アレスは泉を見ながら話す。
「オレも今夜ここで、ルーカスに番の申し込みをしようとしてたんだ」
「そうだったのか」
「うん、クニーに満月の夜にこの泉で言うと結ばれるって聞いてて」
「――え、俺もクニーに聞いたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ」
「ふふふ、明日お礼に行かないとね」
「そうだな」
背後から優しく抱きしめられて、アレスの顔には満面の笑みが広がった。
******
翌朝、アレスとルーカスは揃ってクニーの家を訪ねた。
2人とも昨日は一日中緊張していたし、夜も遅かったため、泉から帰った後はすぐに寝てしまった。
クニーの家につき、入り口を叩いて扉を開けると、居間にウルスが座っていた。
「ウルス、アレスと番になれた」
「おお、そうか! おめでとう!」
ルーカスの報告に、ウルスが笑顔で祝福してくれる。
「まぁ、上がってけよ」
「ああ」
誘われるままに居間に上がり、2人でウルスの向かい側に腰掛ける。お茶を出してもらったので、飲んだところでアレスはウルスに尋ねた。
「ウルス、クニーは? 出かけているの?」
「あ―、クニーは寝室にいるんだが……」
ウルスが気まずそうに返事を返したところで、寝室の扉が開きヨロヨロのクニーが出てきた。
「おめでとう2人とも。聞こえてたよ。番になれたんだってね!」
「うん、クニー色々ありがとう。大丈夫?」
「ウルスが昨日しつこくて……。そうそう、2人とも性行為する前にはちゃんと準備が必要だからね!」
「――え」
「今度、アレスには僕が詳しく教えるから、ルーカスにはウルスが教えてあげて!」
「ああ、頼む」
隣で真剣に頷いたルーカスを見て、アレスは顔が赤くなるのを止められなかった。
――性行為
番になったものが行う行為だ。番になることばかり考えていて、その先のことについては何も考えていなかった。
アレスの後ろにルーカスのモノを入れる。知識として知ってはいるが、今まで実際にやったことはない。アレスの目線は自然とルーカスの下半身へと向いた。
直接見たことはないが、きっと体格通りに大きいものだろう。ちゃんと入るのだろうか。
じっと見つめながら考え込んだアレスに、ルーカスが控えめに声をかけてきた。
「――ア、アレス」
「え、あ、ごめん。入るかなって、あ、いや……」
心の声が漏れてしまってアレスは慌てたが、クニーが「そうなんだよ!」と声をかけてきた。
「入るようになるまでが大変なんだから! ね、ウルス」
「――あ、ああ。まぁ根気強く頑張れば、いつかは出来るさ」
鼻息荒くクニーが言ってくるので、アレスは少しだけ怖くなってしまった。でも、クニーとウルスができているなら、いつかアレスとルーカスもできるはずだ――
******
クニーの家を出た後、相談していたペッツァにも番の報告をしにいく。ルーカスは村長のティグリスにも相談していたようで、そちらにも報告をした。
報告すると皆一様に喜んでくれて、アレスは恥ずかしくなったが、嬉しかった。
ルーカスと手を繋ぎ、一緒に歩いていく。たまにこちらを見てくるルーカスと目を合わせながら、2人の家へと帰った。きっとこれが幸せというのだろう。
相談事のできる村の友達、任せられた作業、愛する番、そしてその番と一緒に住む家。アレスは幸せを噛み締めた。
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