【完結】片翼のアレス

結城れい

文字の大きさ
41 / 66

41 番

しおりを挟む
 驚いているアレスの前に回ってきたルーカスは、その場に膝をついて座り口を開いた。

「アレス。君が好きだ。俺とつがいになってくれ」
「――えっ」

 そう言って、ルーカスが握りしめた手を差し出してきたので、アレスは反射的に手のひらを上にした状態で両手を差し出した。
 ルーカスが閉じていた手を開くと、震えるアレスの手のひらに何かが落ちてきた。

 顔を両手に近づけて確認してみると、それは細くて長く黒色の髪の毛のようなものだった。

「俺のヒゲの中で1番長いやつだ」
「……ヒゲ」
「ああ、俺は羽がないし、代わりになるものを探したがなくて……」

 アレスはルーカスの顔から生えているヒゲを見つめた。鼻の横からいくつものヒゲが横に伸びている。このヒゲの中で1番長いものを探して抜いたのだろうか。次の瞬間、アレスは緊張が解けてしまい、笑いが込み上げてきて、少し笑ってしまった。
 不安そうに返事を待つルーカスを見て、アレスも真剣に返事を返す。

「オレもルーカスが好きだよ。つがいになって。このヒゲは一生大事にするよ――」

 言っている途中でアレスの目には何故か涙がにじんできた。手のひらにあるヒゲをそっと握りしめる。

 アレスの返事を聞いて、抱きしめてきたルーカスの体にアレスも腕を回して力一杯しがみついた。
 しばらく抱き合っていたが、一度体を離して見つめ合い、軽い口づけを交わす。お互いに初めての口づけだった。


 胡座をかいたルーカスの膝の上に座って、アレスは泉を見ながら話す。

「オレも今夜ここで、ルーカスに番の申し込みをしようとしてたんだ」
「そうだったのか」
「うん、クニーに満月の夜にこの泉で言うと結ばれるって聞いてて」
「――え、俺もクニーに聞いたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ」
「ふふふ、明日お礼に行かないとね」
「そうだな」

 背後から優しく抱きしめられて、アレスの顔には満面の笑みが広がった。


******


 翌朝、アレスとルーカスは揃ってクニーの家を訪ねた。
 2人とも昨日は一日中緊張していたし、夜も遅かったため、泉から帰った後はすぐに寝てしまった。

 クニーの家につき、入り口を叩いて扉を開けると、居間にウルスが座っていた。

「ウルス、アレスと番になれた」
「おお、そうか! おめでとう!」

 ルーカスの報告に、ウルスが笑顔で祝福してくれる。

「まぁ、上がってけよ」
「ああ」

 誘われるままに居間に上がり、2人でウルスの向かい側に腰掛ける。お茶を出してもらったので、飲んだところでアレスはウルスに尋ねた。

「ウルス、クニーは? 出かけているの?」
「あ―、クニーは寝室にいるんだが……」

 ウルスが気まずそうに返事を返したところで、寝室の扉が開きヨロヨロのクニーが出てきた。

「おめでとう2人とも。聞こえてたよ。番になれたんだってね!」
「うん、クニー色々ありがとう。大丈夫?」
「ウルスが昨日しつこくて……。そうそう、2人とも性行為する前にはちゃんと準備が必要だからね!」
「――え」
「今度、アレスには僕が詳しく教えるから、ルーカスにはウルスが教えてあげて!」
「ああ、頼む」

 隣で真剣に頷いたルーカスを見て、アレスは顔が赤くなるのを止められなかった。

――性行為

 番になったものが行う行為だ。番になることばかり考えていて、その先のことについては何も考えていなかった。
 アレスの後ろにルーカスのモノを入れる。知識として知ってはいるが、今まで実際にやったことはない。アレスの目線は自然とルーカスの下半身へと向いた。
 直接見たことはないが、きっと体格通りに大きいものだろう。ちゃんと入るのだろうか。

 じっと見つめながら考え込んだアレスに、ルーカスが控えめに声をかけてきた。

「――ア、アレス」
「え、あ、ごめん。入るかなって、あ、いや……」

 心の声が漏れてしまってアレスは慌てたが、クニーが「そうなんだよ!」と声をかけてきた。

「入るようになるまでが大変なんだから! ね、ウルス」
「――あ、ああ。まぁ根気強く頑張れば、いつかは出来るさ」

 鼻息荒くクニーが言ってくるので、アレスは少しだけ怖くなってしまった。でも、クニーとウルスができているなら、いつかアレスとルーカスもできるはずだ――


******


 クニーの家を出た後、相談していたペッツァにも番の報告をしにいく。ルーカスは村長のティグリスにも相談していたようで、そちらにも報告をした。
 報告すると皆一様に喜んでくれて、アレスは恥ずかしくなったが、嬉しかった。

 ルーカスと手を繋ぎ、一緒に歩いていく。たまにこちらを見てくるルーカスと目を合わせながら、2人の家へと帰った。きっとこれが幸せというのだろう。
 相談事のできる村の友達、任せられた作業、愛する番、そしてその番と一緒に住む家。アレスは幸せを噛み締めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ
BL
幼い頃に事故で両親を亡くした遥斗(はると)は、現在バイトと大学を両立しながら一人暮らしをしている。 人と接する事が苦手で引っ込み思案ながらも、尊敬するマスターの下で懸命に働いていたある日、二ヶ月前から店に来るようになったイケメンのお兄さんから告白された。 戸惑っている間に気付けば恋人になっていて、その日から彼-鷹臣(たかおみ)に甘く愛されるようになり━。 イケメンスパダリ社長(攻)×天涯孤独の純朴青年(受) ※印は性的描写あり

転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...