55 / 66
55 酒
しおりを挟む
村に着いたのは、もう遅い時間だった。出歩いている人は誰もおらず、村には静寂が広がっている。
ウルスとクニーへの報告は明日にして、2人は静かに自宅へと戻った。
「帰ってきたね」
「ああ」
ルーカスはアレスを抱き上げながら居間に上がろうとした時に、それに気がついた。慌ててアレスをその場に降ろし、使い古しの布を取りに走る。
「あ、そういえばすぐにルーカスを走って追っていったから、かたづけてなかった……」
布を片手に急いで戻ってきたルーカスは、自分の体でアレスの目線から汚れを隠し、拭き取った。
「よし、これで大丈夫だ」
言いながら振り返ったルーカスにアレスも「うん」と頷き返す。
「じゃあ、もう遅いし寝よ――」
アレスが話していると、ゴゴゴゴゴっと何かの音が部屋中に響き渡った。驚いて言葉を切ったアレスに、ルーカスが恥ずかしそうに腹を摩った。
「すまない。俺の腹の音だ」
アレスは声を出して笑いながら、厨へと降りた。きっと、帰ってきたときに言っていた夜ご飯を食べてきたというのは嘘だったのだろう。家に帰ってきて安心してお腹が空いたに違いない。
干し肉を保管している籠からいくつか取り出してお盆にのせていく。ついでに木の実ものせて居間の机へと持っていった。
「食べよう!」
「ああ、アレスも一緒にいいのか? 先に寝ていてもいいんだぞ」
確かにアレスは夕飯をちゃんと食べていたのでそこまでお腹は減っていない。それでも――
「ルーカスがいないとぐっすり眠れないよ」
「――そうか」
嬉しそうに返事をして机の前に座ったルーカスの膝の上に座る。アレスはルーカスに寄りかかりながら一緒に夜食を食べた。
******
次の日。朝早くからルーカスは村の外へ狩りに出かけた。
「ただいま」
「おかえり! うわ、おっきい猪!」
すぐに帰ってきたルーカスは、巨大な猪を担いでいる。アレスは準備していた小さな籠を手に持った。中には美味しい果実がぎゅうぎゅうに詰まっている。
「よし、行こうか」
「うん」
ルーカスが猪を持っていないほうの手を差し出してきたので、アレスは籠を反対の手で持ち直してルーカスの手を取った。
家の扉を叩いて開くと、丁度クニーとウルスが居間に座っていた。
「あ、よかった! 仲直りできたんだね!」
アレスとルーカスがつないでる手を見て、クニーが笑顔で話しかけてくる。
「うん。2人には昨日助けてもらって、本当にありがとう」
「いやいや、別に俺たちは別にそんなにしてないよ。なあクニー」
「うん、そうだよ」
クニーとウルスがお互いに見つめあって照れくさそうに笑う。その仕草が2人はとても似ていた。
「ウルス、昨夜はアレスを連れてきてくれてありがとう。クニーも。お礼に食料を持ってきたから受け取ってくれないか」
「え、いいの?」
「お、悪いな。今日は狩りに行かなくて済むな」
ルーカスはウルスに猪を、アレスはクニーに籠にはいった果実をそれぞれ渡した。
「折角なら一緒に食べようよ」
「ああ、確かにそうだな」
「え、でもお礼に持ってきたものなのに――」
「いいから、いいから! さあ、上がって」
クニーが籠を片手にアレスの手を引っ張ってくる。アレスは一度ルーカスを振り返り、居間へと上がった。
朝から豪華な食事が机の上に並ぶ。
ルーカスの取ってきた巨大な猪と果実。それから干し肉と野菜も出してもらい、机の上いっぱいにご馳走が広がっている。
「じゃあ、2人の仲直り記念の宴だね」
「お、いいな。じゃあ酒も飲むか。朝から飲む酒は格別だぞ。2人もどうだ?」
ウルスが大きな樽を持ってきて、机の横にドンッと音を立てながら置いた。
「いや、俺はいい」
ルーカスが断っているのを聞いて、そういえば家でルーカスがお酒を飲んでいるのを見たことがない事に気がついた。そもそも、アレスはお酒を飲んだことがないので、そういう話になったことはない。
ルーカスが飲めるのならば、今後は交換するか、もしかしたら自分で作ることができるのだろうか。作れるのならば作り方を習わなければとアレスは思考を巡らせる。
「なんでだ? 飲めないわけじゃないだろ? 獣族なんて酒好きしかいないだろうに」
「いや、ちょっと」
断りを入れているルーカスがアレスを見てきたので、アレスは首を傾げた。ルーカスがお酒を飲まないこととアレスが関係するのだろうか。
「その、心配で――」
「アレスがか? どういうことだ?」
「ああ、僕分かったよ! 酔って手を出さないか心配なんでしょ!」
クニーが元気よく声を上げたので、アレスはルーカスを見た。ルーカスは気まずそうに後頭部へ手をあて「ああ」と肯定した。
獣族がお酒が好きというのも初めて知った。ずっとアレスに手を出してしまわないように飲むのを控えていたのか。ルーカスが飲めずにいることに申し訳なく思う気持ちと、理性がしっかりしていなければアレスに手を出してしまうほど求めてもらっており、気恥ずかしいが嬉しいという気持ちが入り混じる。
ウルスとクニーへの報告は明日にして、2人は静かに自宅へと戻った。
「帰ってきたね」
「ああ」
ルーカスはアレスを抱き上げながら居間に上がろうとした時に、それに気がついた。慌ててアレスをその場に降ろし、使い古しの布を取りに走る。
「あ、そういえばすぐにルーカスを走って追っていったから、かたづけてなかった……」
布を片手に急いで戻ってきたルーカスは、自分の体でアレスの目線から汚れを隠し、拭き取った。
「よし、これで大丈夫だ」
言いながら振り返ったルーカスにアレスも「うん」と頷き返す。
「じゃあ、もう遅いし寝よ――」
アレスが話していると、ゴゴゴゴゴっと何かの音が部屋中に響き渡った。驚いて言葉を切ったアレスに、ルーカスが恥ずかしそうに腹を摩った。
「すまない。俺の腹の音だ」
アレスは声を出して笑いながら、厨へと降りた。きっと、帰ってきたときに言っていた夜ご飯を食べてきたというのは嘘だったのだろう。家に帰ってきて安心してお腹が空いたに違いない。
干し肉を保管している籠からいくつか取り出してお盆にのせていく。ついでに木の実ものせて居間の机へと持っていった。
「食べよう!」
「ああ、アレスも一緒にいいのか? 先に寝ていてもいいんだぞ」
確かにアレスは夕飯をちゃんと食べていたのでそこまでお腹は減っていない。それでも――
「ルーカスがいないとぐっすり眠れないよ」
「――そうか」
嬉しそうに返事をして机の前に座ったルーカスの膝の上に座る。アレスはルーカスに寄りかかりながら一緒に夜食を食べた。
******
次の日。朝早くからルーカスは村の外へ狩りに出かけた。
「ただいま」
「おかえり! うわ、おっきい猪!」
すぐに帰ってきたルーカスは、巨大な猪を担いでいる。アレスは準備していた小さな籠を手に持った。中には美味しい果実がぎゅうぎゅうに詰まっている。
「よし、行こうか」
「うん」
ルーカスが猪を持っていないほうの手を差し出してきたので、アレスは籠を反対の手で持ち直してルーカスの手を取った。
家の扉を叩いて開くと、丁度クニーとウルスが居間に座っていた。
「あ、よかった! 仲直りできたんだね!」
アレスとルーカスがつないでる手を見て、クニーが笑顔で話しかけてくる。
「うん。2人には昨日助けてもらって、本当にありがとう」
「いやいや、別に俺たちは別にそんなにしてないよ。なあクニー」
「うん、そうだよ」
クニーとウルスがお互いに見つめあって照れくさそうに笑う。その仕草が2人はとても似ていた。
「ウルス、昨夜はアレスを連れてきてくれてありがとう。クニーも。お礼に食料を持ってきたから受け取ってくれないか」
「え、いいの?」
「お、悪いな。今日は狩りに行かなくて済むな」
ルーカスはウルスに猪を、アレスはクニーに籠にはいった果実をそれぞれ渡した。
「折角なら一緒に食べようよ」
「ああ、確かにそうだな」
「え、でもお礼に持ってきたものなのに――」
「いいから、いいから! さあ、上がって」
クニーが籠を片手にアレスの手を引っ張ってくる。アレスは一度ルーカスを振り返り、居間へと上がった。
朝から豪華な食事が机の上に並ぶ。
ルーカスの取ってきた巨大な猪と果実。それから干し肉と野菜も出してもらい、机の上いっぱいにご馳走が広がっている。
「じゃあ、2人の仲直り記念の宴だね」
「お、いいな。じゃあ酒も飲むか。朝から飲む酒は格別だぞ。2人もどうだ?」
ウルスが大きな樽を持ってきて、机の横にドンッと音を立てながら置いた。
「いや、俺はいい」
ルーカスが断っているのを聞いて、そういえば家でルーカスがお酒を飲んでいるのを見たことがない事に気がついた。そもそも、アレスはお酒を飲んだことがないので、そういう話になったことはない。
ルーカスが飲めるのならば、今後は交換するか、もしかしたら自分で作ることができるのだろうか。作れるのならば作り方を習わなければとアレスは思考を巡らせる。
「なんでだ? 飲めないわけじゃないだろ? 獣族なんて酒好きしかいないだろうに」
「いや、ちょっと」
断りを入れているルーカスがアレスを見てきたので、アレスは首を傾げた。ルーカスがお酒を飲まないこととアレスが関係するのだろうか。
「その、心配で――」
「アレスがか? どういうことだ?」
「ああ、僕分かったよ! 酔って手を出さないか心配なんでしょ!」
クニーが元気よく声を上げたので、アレスはルーカスを見た。ルーカスは気まずそうに後頭部へ手をあて「ああ」と肯定した。
獣族がお酒が好きというのも初めて知った。ずっとアレスに手を出してしまわないように飲むのを控えていたのか。ルーカスが飲めずにいることに申し訳なく思う気持ちと、理性がしっかりしていなければアレスに手を出してしまうほど求めてもらっており、気恥ずかしいが嬉しいという気持ちが入り混じる。
95
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる