【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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「え、ありがとう! 一緒に食べようよ」

 樹は、有難く受け取ると袋を開けた。チャック付きで持ち歩きが簡単なタイプだ。早速、一粒取り出して口へと入れる。

「んー、おいしー!」

 樹は、目を閉じて甘さを味わう。開けっぱなしの袋を迅へと差し出すと、迅もチョコを手で取り口へと入れた。

「甘くておいしいね、ありがとう!」
「――ああ、何か疲れてないか?」
「うーん、そうかも……最近ちょっと忙しくて、そろそろ前期試験もあるしね……」
「そうか」
「試験が終わったら夏休みだから、頑張らないとねー! 夏休みは旅行とか行きたいね!」
「――ああ、そうだな」

 心配そうにこちらを見てくる迅に笑顔を見せながら、樹はもう一粒チョコを食べた。
 中帝大学は2学期制のため、授業は前期と後期に分かれており、それぞれ学期の最後に試験がある。前期試験が再来週から始まるため、提出するレポートを仕上げたり、テスト勉強をしたりと忙しい。今回提出する期末レポートも評定に加算される大切なものだ。ただ、試験が終わると、2カ月近く夏休みがあるため、それをはげみに頑張れる。

「あと最近、生徒の成績が良くなくて、そっちもどうにかしたいんだよねー」
「――生徒?」
「うん。あれ? 言ってなかったっけ? 僕、家庭教師のアルバイトしてるんだけど」
「――え、家庭教師」

 驚いた様子の迅に、樹はいままで言ったことがなかったのだと気がついた。アルバイトをしていることは伝えていたはずだが、何のアルバイトなのかを説明したことはなかったのだ。

「そうなの。アルバイトは、月曜と土曜に家庭教師をしてて、他にも大学で募集している単発のやつとかもしてるよー」
「――そうだったのか」

 暫く険しい顔で考え込んだ迅は、樹へと質問してきた。

「家庭教師というのは、その、誰に教えているんだ? 年齢とか種族とか聞いてもいいか?」
「ん? えっと、中学2年生の男の子で、ナマケモノ族の子だよ。本人も勉強頑張ってるんだけど、なかなか成果が出なくてね……」
「そうか」

 樹の返答を聞いた迅は、納得したような表情で一度頷いた。

「僕も、教え方を色々と考えているんだけど、教えるのって難しいねー」
「そうか、が、がんばれ……」
「ふふっ、ありがとう」

 迅から励ましの言葉をもらった樹は、お礼を言った。もちろん家庭教師先の生徒の成績も大切だが、今は自分の試験も大切だ。そろそろ休憩を切り上げてレポートを書きに行かなくてはならない。スマホで時間を確認した樹は、立ち上がった。

「そろそろ、図書館行こうか」
「ああ、そうだな」

 中央ひろばの奥に大学図書館があるため、2人は歩いて向かった。図書館は、理系棟と文系棟の間にあり、両方の学生と教員が利用するため、4階建ての大きな建物だ。各階も広く、自習室や演習室もあり、それぞれの学部専門の資料も所蔵している。
 今の時期は多くの学生が利用しているようで、1、2階はそこそこ混んでいたが、3階は空いていたため設置されていたテーブル席に2人で座り、ノートパソコンでレポートを書き始めた。話し声のしないシンとした空間に、2人のキーボードを打つカタカタという音が響く。

 迅が一緒にいるため、樹は荷物を置いたまま資料を探しに席を立った。必要な論文の載っている学術雑誌を席まで運び、読んでいく。Webで公開されているものはそのままノートパソコンで読み、確認しながらレポートを仕上げていった。

「終わったー」

 読み直し、参考文献まで確認した樹は、そのままWebで提出まで済ませる。迅に小声で報告しながら、樹は座った状態で伸びをして固まった体を伸ばした。

「お疲れ」

 向かい側の迅もノートパソコンでレポートをしていたようだが、樹の言葉に顔を上げて声をかけてくれた。樹はノートパソコンを閉じて、そのうえに突っ伏す。頭をフル回転させたので、脳が疲れ切っている。目を閉じて休んでいたが、向かい側の迅が荷物を片付けている音が聞こえてきたため、樹も体を起こしてノートパソコンをバッグへとしまった。

 帰りの準備をしながらスマホでなんとなく時間を確認した樹は、目を見開いた。表示されていた時間は、20時45分だ。集中していたので、これほど時間が経っていたことに気がつかなかった。

「迅くん、ごめん。こんなに時間が経ってるなんて思わなかった――」
「ああ、大丈夫だ」

 席を立ちながら小声で謝った樹に、迅は軽く返してくれたが、申し訳なさがつのる。夕飯もしっかりと食べていないのに、こんな時間まで待たせてしまった。席まで持ってきていた参考文献を抱えた樹は、迅に「先に降りてて」と声をかけ、早足に資料を元の場所まで戻しに行く。戻している途中で閉館時刻の音楽まで鳴り始めてしまった。音楽を聞いて帰ろうとしている人達がエレベーターに向かっているのが見えたため、樹は階段を駆け下りた。
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