【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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52 ゼリー

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 迅は、余韻に浸りながら樹を抱きしめていたが、樹がコンコンと渇いた咳をしたことで現実に引き戻される。樹はまだ万全ばんぜんの状態ではないのだ。
 慌てて体を離した迅は、ドラッグストアで買ったものが入っているビニール袋を探す。クローゼットの近くに落ちているのを見つけた迅は急いで駆け寄り、袋の中を漁った。薬関係は一通り買ってきたはずだ。1つずつ手に取って効能を確認していく。
 鼻水、熱、のど、せき止め、なぜか胃薬まで入っていた。

『のどの痛みと発熱』の薬と『せき止め』の薬は一体どちらがいいのだろうか。両方を手に取った迅は、ペットボトルの水も一緒に持ち、座っている樹の元へ戻った。

「のどは痛いのか?」
「ん? うん、ちょっとだけ」
「それなら、こっちか――」

 迅は『のどの痛みと発熱』と書かれていた方の箱を開けて中身を取り出す。箱の裏面の説明を読むと、食後に1回2錠と書かれていた。
 迅は、「食後……」と呟きながら、先ほど漁った袋の場所に戻ると、袋を持ち、中を確認しながら樹の元へ戻った。

「ゼリーをいくつか買ってるが、食べれそうか?」

 ローテーブルの上に買っていたゼリーを順番に置いていく。プラスチックの容器に入ったカップ型のゼリーは、桃味とみかん味、ナタデココの3種類。それと、飲むように食べることのできるパウチ型のゼリー。こちらはマスカット味とリンゴ味の2種類だ。樹の方へ向けて全てを並べ終えた迅は、樹の様子を確認する。

「えーこんなにいっぱい買ってきてくれたの? ありがとう!」
「ああ、冷凍庫にはアイスも入っているから、そっちが良ければ持ってくるが――」
「え、アイスも!?」

 驚いた様子の樹に対し、迅は得意げに頷いた。

「これだけあれば、食べれそうなものはあるだろう」
「うん、本当にありがとう!」

 テーブルの上のゼリーを見た樹は、リンゴ味のパウチゼリーを手に取る。

「じゃあ、これを食べさせてもらうね」
「ああ」
「迅くんは何か食べる? 何か食べれそうなものあったかな……?」

 ローテーブルに手をつき、立ち上がろうとした樹を迅は慌てて止めた。

「大丈夫だ、ゼリーを食べるから! 樹は座っててくれ!」
「う、うん」

 自分の分の食事は買っていない。完全に忘れていた。確かに樹を看病するのなら、自分の分の食事も用意しておくべきだったと反省した迅は、ふと思った。

 前回食事をとったのはいつだっただろうか――
 
 食事が久しぶりな気がして思い返すと、樹の家に来る前にとった朝食が最後だ。今の時刻は朝の5時近いため、一日近く食べていなかったことになる。
 樹に断ってキッチンの引き出しからスプーンをとってきた迅は、カップの桃味のゼリーを食べ始めた。一口食べた瞬間に、忘れていた空腹を思い出したようで、脳と胃が同時に空腹を訴えてくる。迅は夢中で食べ進めた。すぐに食べ終えた迅は、無意識に次のゼリーにも手を伸ばす――黙々と食べ続け、異様に喉も渇いていたため、ペットボトルの水もゴクゴクと飲み干した。

 空になったペットボトルをテーブルにトンと置き、一息ついた迅の目の前には、空の容器が転がっていた。樹のために買ってきたはずのゼリーは、ほとんどが迅の腹に納まってしまったのだ――

「…………」
「お腹減ってたんだねー」
「…………樹の分のゼリーを追加で買ってくる」
「え、待って、僕はこれ一個で十分だよ!」

 樹は手に持っていたパウチゼリーを見せながら、立ち上がった迅を慌てて止めた。

 迅の食べる勢いがあまりにも凄かったので驚いて見ていた樹は、手に持っていたゼリーをようやく食べ終えて、もらった薬を飲んだ。
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