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最終章

よく頑張ったな

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 俺はぐんぐん上昇し、結乃の隣に並んだ。
 眼下に見える魔物は……どう見ても巨大カリフラワーだ。

「青野君、この魔物さんは、カリファーさんて言うの。二百年に一度お昼寝から目覚めて、魔法力を食べて、また眠る。魔法力のお返しに、ミール国を二百年守ってくれるの」

 結乃が一生懸命説明してくれる。
 髪はほつれ、汗をかき、叫び続けて疲れ切った表情だ。

「もうカリファーさんはお腹いっぱいになったけど、背中が痒くてしょうがないんだって。痒いのを何とかしてくれたら、シオン様とエメルを解放してくれるって」

「結乃、よく頑張ったな」
 俺は我慢できずに結乃に語りかけた。
「へっ?」
「こんな高いところで一人……、怖かっただろう?」
 今すぐ、抱きしめてやりたい。
「そんなこと……実はちょっと怖かったけど、頑張ったよ。マルコに貰った魔法力でカリファーさんと会話できるようになったんだ」
「それで魔物を説得したのか。すごい、すごいよ結乃。俺なんて弓はぶっ壊れるし、魔法力ゼロだし」
「そんなことないよ。青野君がここに来てくれて、すごく嬉しい。やだ、泣けてきちゃった」
「馬鹿だな、泣くなよ。あ、やばい、俺も」
 鼻の奥がツンとしてきた……。

「おい、馬鹿二人! さっさとやれ! もたないぞ」

 地上から小野寺が怒鳴った。あ、そうだった。結乃まで馬鹿呼ばわりなんて、相当キレてるな。 

「わー! ごめんなさい、カリファーさん、い、今やります! 痒いところ教えて下さい!」
 結乃が突然叫んだ。魔物に何か言われたのか?
「もたもたしてないで早く痒みを止めろって! 早くしないとシオンお姉様たちからもっと魔法力を搾り取るって」

 魔物がまた光り出した。まずい、つい二人の世界に入っちゃったぜ。
 俺は矢筒から矢を取り、弓を構えた。
「結乃、魔物はどこが痒いって言ってるんだ?」
「そこから見て、真っすぐだって。ちょっとぽこっとしているあたり」
 何がちょっとぽこっとだ。もともとぼこぼこじゃねーか、カリフラワーが!
 俺はとりあえず言われた通りに矢を放った。

 矢は真っすぐに飛び、カリフラワーに突き刺さる。
「全然違うって。もっと右だって」
 刺さった矢が押し出され、はじかれる。
「まかせろ!」
 二本目を放つ。
「もっと左」
 三本目。
「惜しい! もう少し上」


 二十本目。これでラストだ。外したら落ちた矢を拾い集めてやり直しだ。
 ヒーローとしては、ここで決めないと! いや、決めさせてください、お願いします!

「さっきのより、もう少しだけ斜め左下だって」
 
「よし、ここだ!」

 矢がカリフラワーに刺さり、沈んでいく。どうだ?

「そこだって! 青野君、やったよ」
「よっしゃ!」
 思わずガッツポーズする。しかし、喜びもつかのま、結乃のつるが外れ、結乃が落下した。

「結乃!」

 そんな――!!

 気がついたら俺も落下していた。小野寺、力尽きちまったのか?

 このままじゃ地面に叩きつけられる、結乃を助けないと、そう思っていたら落下がぴたりと止まった。

 結乃と俺は、地面から二メートルぐらいのところに浮いていた。そのままゆっくりと、地上に降ろされる。
 目の前にいた小野寺が、両手を突き出したままよろけてその場に崩れ落ちる。
「美羅ちゃん!」
 結乃が小野寺に駆け寄る。小野寺は三つ子たちに支えられていた。
「小野寺、魔法で助けてくれたのか」
 小野寺は薄目を開けると、せわしく呼吸しながら言った。
「言っただろ、私を信じろと。空中で、のろけだしたときは、さ、殺意を覚えたが」
「ごめんなさい、美羅ちゃん」
「まったくもう、結乃だから許す。私のことはいいからエメル達のところへ行ってやれ」

 そうだ、エメルとシオン様はどうなったんだ?

 二人を助けに向かおうとした矢先、地響きがした。
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