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最終章

眠りにつく

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「何? 地震?」
 地響きとともに短い縦揺れがあったあと、激しい横揺れが私たちを襲った。地面がまるで波打っているみたい。

(我は眠る。この場はから、早く離れろ。一緒に眠ることになるぞ)
「ええ!?」

 カリファーさんの言葉に仰天する。逃げる前にシオンお姉様たちを助けなきゃ!

「ユノ、ミランダ様、アーキス!」

 エメルがシオンお姉様を抱えてこっちへ走ってくるところだった。お姉様は力なくぐったりしている。

「シオン様は大丈夫だ。早くここを離れよう」

 そう言うエメルの顔色もかなり悪い。魔法力を大分吸い取られてしまったようだ。

 シオンお姉様のドレスからシロが飛び出て、当然のように青野君の頭の上に乗った。

 揺れが激しくなる。

 私は青野君に手を引かれ、美羅ちゃんは三つ子さんの一人に背負われている。とにかく無我夢中で宿に向かって走った。
 しばらくすると、地響きはピタリと収まった。
 あとには葉のこすれ合う音と、鳥のさえずりがあるだけ。
 まるで何事もなかったかのようだ。
 全速力で走ったので、皆一斉に座り込む。ここから港町までどれくらいか考えると、気が遠くなる。

「俺、先に行って、宿のスネークを出してもらうよ」
 青野君がそう言って走り出しかけたとき、一台のスネークがこっちに向かって走ってきた。

 スネークは私たちの前に音もなく停車した。乗降口が開く。
「早く乗れ。宿まで戻るぞ」
 聞き覚えのある、運転士さんの声。

「宿に皆を降ろして、すぐに引き返したんだが、どうも同じところをぐるぐる回っちまってな。奇妙な森だ」
 金髪の運転手さんはスネークを揺らさないように極力配慮しながら、できる限り宿に急いでくれているようだった。そっか、あのあと私たちを心配して、戻ってきてくれたんだね。カリファーさんは私たち以外を近づけさせないために、森を操作してたみたいだ。

 シオンお姉様も、美羅ちゃんも、気を失っているけれど体は温かく、魔法力が徐々に戻れば、大丈夫そうだ。
 どっちかっていうと、エメルの方が辛そう。
(ゆの、しおんはだいじょうぶだよ。えめるがくちづけで、まほうりょくをしおんにわたしたから)
「えっ。そうなの」
「うわ、びっくりした。どうした、結乃」
「あ、ううん、ごめん青野君」
 青野君の頭の上に乗っているシロが言った言葉にびっくりした。
 それだけシオンお姉様は衰弱していたってことだよね。口から直接魔法力を注がなきゃいけないほど。

 スネークが宿に到着した。時刻は夕方になっていた。
 エメルはスネークを降りるときに、運転席に座る運転士さんに向かって、
「どうもありがとうございました」
 と頭を深く下げた。
 運転士さんは「まだこれから仕事なんだ。さっさと降りな」と前を向いたまま言っただけだった。

 美羅ちゃんとエメルは青野君と三つ子さんたちに任せて、私はシオンお姉様の様子を見守ることになった。
 シオンお姉様は宿に部屋を取っていなかったので、急遽私の部屋に運んでもらった。
 額にタオルを乗せたり、汗を拭いたりして看病していると、ほどなくしてシオンお姉様は目を覚ました。

「ユノ……?」

 目を覚ましたお姉様ははっと我に返ると、がばと跳ね起きて、私の腕を掴んだ。
「ユノ、エメル魔導師は? どうなったの? 彼、多くの魔法力を私に分け与えてくれて」
 こんなに取り乱すお姉様を初めて見た。
「落ち着いて下さい、お姉様。エメルは隣の部屋にいます。青野君たちが看病してるから、大丈夫……」
 言い終わる前にお姉様はベッドから飛び降り、隣の部屋へかけて行った。 
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