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ミランの災難
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ある日の早朝。
魔法師団訓練場にいち早く到着した魔法師団団長、フェリクス・ブライトナーは、自分より早く来ている人物がいるのに気がついて「そんな練習熱心な団員が魔法師団にいたなんて……!」と内心感動しながらいつものクールさでその人物に近づいた。
しかし、その人物は魔法師団の団員ではなく。
「! ミラン殿下? どうしたんですか、こんなに早く訓練場にいらっしゃるなんて」
魔法師団のマネージャーを務めて三か月目の、エルドゥ王国第三王子、ミランだった。
そして今ではフェリクスの恋人でもある。
フェリクスに背を向けて立っていたやや小柄な王子は、フェリクスの呼びかけにくるりと振り返った。
その顔を見たフェリクスは青い目を見開いた。右頬が腫れあがり、国王譲りの端正な顔が台無しになっていた。
「やあ。おふぁよう、フェリクスどの……い、いたたたたた」
片手を上げて、フェリクスに挨拶しようとしたミランは、突然右頬を押さえて痛がり出した。
「おはようございます。ミラン殿下。そのお顔はどうしたんです、まさか、誰かに殴られたんですか」
エルドゥ王国王宮内で、王子の顔を殴る人間なんてそうそういないと思うが、フェリクスは気色ばんだ。
「ひがうよ(違うよ)ふぇりしあ、ひゃが(歯が)ひゃがいたいんだ(歯が痛いんだ)」
切羽詰まったのか、今は二人きりだから問題ないと思ったのか、ミランはフェリクスを本名である「フェリシア」で呼んだ。
まあもう魔法師団の団員全員、フェリクスが女性であり、本名がフェリシアであることを知っているため、自主訓練中に呼び名に気をつける必要性はないのだか、自主訓練といっても、公私混同はしない、とフェリクスもミランも決めていた。
「歯? もしかして、虫歯ですか」
「うん。きょうおきたら、ひゅうに、いたみらして(今日起きたら、急に、痛みだして)」
フェリクスは虫歯になったことがないのでよく分からないが、実家の兄が朝起きた途端「歯が痛い痛い」とのたうちまわって騒いでいたことが過去あったので、虫歯とは、ある日突然痛み出す……そういうものなのかも知れない、と彼女は納得した。
「ふぇりしあどの、なっとくひてないで、ちょっと口の中を見てよ……いたたた」
今にも泣き出しそうな顔でミランはフェリクスの前で口を開けた。
「分かりました。ではちょっと中を拝見……」
フェリクスは屈んでミランの口の中を覗いた。「ああ、これは完全に虫歯ですね。右の奥。今まで痛まなかったのが不思議なくらい、大きな穴が空いてますよ」
フェリクスはミランから顔を離すと、冷静に言った。そして、こう提案した。
「ミラン殿下、今からすぐに、王宮内で治療して貰ったらどうです」
王宮内にはたしか、歯を治療する施設があったはずだ。
だがそれを聞いたミランの顔は曇った。
「それなんらが……、この虫歯、君のまほうで、なんとかならなひか。ほら、君は、治癒魔法がとくひ、だろう」
すがるようにフェリクスに訴えかける。それを聞いたフェリクスは合点がいった。
ミランは最初からフェリクスに治癒魔法で歯の治療をしてもらおうとしていたのだ。だから、訓練場に一番乗りして、いつも訓練場に一番に現われるフェリクスを待っていたのだ。
ミランはとても成人男性とは思えないうるんだ目でフェリクスを見上げていた。その顔は腫れた右頬で歪んでいたが、フェリクスは愛しい恋人の望みを叶えてあげたい、という衝動にかられた。胸がきゅんとなる。
しかし、フェリクスは心を鬼にして、無情な言葉を吐かなければならなかった。
「ミラン殿下。それは無理です。治癒魔法で虫歯は治せません。治療してもらって下さい」
魔法師団訓練場にいち早く到着した魔法師団団長、フェリクス・ブライトナーは、自分より早く来ている人物がいるのに気がついて「そんな練習熱心な団員が魔法師団にいたなんて……!」と内心感動しながらいつものクールさでその人物に近づいた。
しかし、その人物は魔法師団の団員ではなく。
「! ミラン殿下? どうしたんですか、こんなに早く訓練場にいらっしゃるなんて」
魔法師団のマネージャーを務めて三か月目の、エルドゥ王国第三王子、ミランだった。
そして今ではフェリクスの恋人でもある。
フェリクスに背を向けて立っていたやや小柄な王子は、フェリクスの呼びかけにくるりと振り返った。
その顔を見たフェリクスは青い目を見開いた。右頬が腫れあがり、国王譲りの端正な顔が台無しになっていた。
「やあ。おふぁよう、フェリクスどの……い、いたたたたた」
片手を上げて、フェリクスに挨拶しようとしたミランは、突然右頬を押さえて痛がり出した。
「おはようございます。ミラン殿下。そのお顔はどうしたんです、まさか、誰かに殴られたんですか」
エルドゥ王国王宮内で、王子の顔を殴る人間なんてそうそういないと思うが、フェリクスは気色ばんだ。
「ひがうよ(違うよ)ふぇりしあ、ひゃが(歯が)ひゃがいたいんだ(歯が痛いんだ)」
切羽詰まったのか、今は二人きりだから問題ないと思ったのか、ミランはフェリクスを本名である「フェリシア」で呼んだ。
まあもう魔法師団の団員全員、フェリクスが女性であり、本名がフェリシアであることを知っているため、自主訓練中に呼び名に気をつける必要性はないのだか、自主訓練といっても、公私混同はしない、とフェリクスもミランも決めていた。
「歯? もしかして、虫歯ですか」
「うん。きょうおきたら、ひゅうに、いたみらして(今日起きたら、急に、痛みだして)」
フェリクスは虫歯になったことがないのでよく分からないが、実家の兄が朝起きた途端「歯が痛い痛い」とのたうちまわって騒いでいたことが過去あったので、虫歯とは、ある日突然痛み出す……そういうものなのかも知れない、と彼女は納得した。
「ふぇりしあどの、なっとくひてないで、ちょっと口の中を見てよ……いたたた」
今にも泣き出しそうな顔でミランはフェリクスの前で口を開けた。
「分かりました。ではちょっと中を拝見……」
フェリクスは屈んでミランの口の中を覗いた。「ああ、これは完全に虫歯ですね。右の奥。今まで痛まなかったのが不思議なくらい、大きな穴が空いてますよ」
フェリクスはミランから顔を離すと、冷静に言った。そして、こう提案した。
「ミラン殿下、今からすぐに、王宮内で治療して貰ったらどうです」
王宮内にはたしか、歯を治療する施設があったはずだ。
だがそれを聞いたミランの顔は曇った。
「それなんらが……、この虫歯、君のまほうで、なんとかならなひか。ほら、君は、治癒魔法がとくひ、だろう」
すがるようにフェリクスに訴えかける。それを聞いたフェリクスは合点がいった。
ミランは最初からフェリクスに治癒魔法で歯の治療をしてもらおうとしていたのだ。だから、訓練場に一番乗りして、いつも訓練場に一番に現われるフェリクスを待っていたのだ。
ミランはとても成人男性とは思えないうるんだ目でフェリクスを見上げていた。その顔は腫れた右頬で歪んでいたが、フェリクスは愛しい恋人の望みを叶えてあげたい、という衝動にかられた。胸がきゅんとなる。
しかし、フェリクスは心を鬼にして、無情な言葉を吐かなければならなかった。
「ミラン殿下。それは無理です。治癒魔法で虫歯は治せません。治療してもらって下さい」
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