男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる 両思い編

コーヒーブレイク

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ミランの災難 5 (完)

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「フェリクス殿」

 夕方。魔法師団の仕事を終えたフェリクスが、団長室に戻ろうとしていると、後ろから声を掛けられた。

「ミラン殿下……あれ? その恰好は……」

 声を掛けたのはミランだった。振り返ったフェリクスは、ミランが貴族学校の制服を着ていたので、ちょっと驚いた。

「お疲れさま、フェリクス殿。僕もちょうど学校から帰って来たところだ」

「ミラン殿下、今日、学校へ行かれたのですか。歯の治療は?」

「したよ。治療は完璧で、すぐに終わったから、昼から学校へ向かった」

 ミランの右頬の腫れは完全に引いていた。フェリクスはミランに近づいた。

「それはよかったですね。医者の腕が良かったのかな」

 ミランの顔を確かめながら、フェリクスは微笑んだ。ミランはそのフェリクスの言葉に対し、腕を組んで仏頂面をした。

「腕はいいんだけど、僕が口を開けて苦しんでいるっていうのに、終始二人でイチャイチャ……いや、こっちの話だよ。さすが王宮に勤めているだけのことはある。見た目と言動はあれだが、彼女は優秀な歯科医だな」


 ♦♦♦

 フェリクスはミランを団長室に迎え入れると、着替えてから、紅茶を淹れる準備を始めた。

「夕飯前ですから、ちょっとしたお菓子にしましょう。マシュマロがありますよ」

 甘いものが苦手なフェリクスだが、ミランのために甘いお菓子は常時用意していた。だが、小さなボウルに入れたマシュマロをテーブルに置くと、ミランの顔は曇った。

「フェリシア殿、僕は、今日の治療でもう懲りた。甘いものはもう懲り懲りだ。麻酔注射は痛いし、歯はガリガリ容赦なく削られるし、魔道具の音は耳に響くし」

 ミランは治療を思い出したくもない、というように遠い目をした。フェリクスはそんなミランを見て、少し可哀想に思った。

「あんなに甘いものが好きだったのに」

「また歯の治療を受けるぐらいなら、もう食べない」

 ミランは続いて出された紅茶をありがとうと受け取り、一口すすろうとした。が、口にする瞬間、眉を顰め、ぴたりと制止し、フェリクスに向かってこう言った。

「この紅茶、甘くないよね?」

「神経質すぎですよ、ミラン殿下。ほんと極端なんだから」

 魔法師団の制服から部屋着に着替えたフェリクスは、ソファに腰かけながら、苦笑した。ミランは意地になって反論する。

「君は虫歯がないから僕の気持ちが分からないんだっ」

「おかげさまで、虫歯はゼロです」

 フェリクスは澄ましてそう答えると、マシュマロをひとつつまみ、自分の口に放り込んだ。そして立ち上がって、ムキになっているミランにそのままキスをした。マシュマロを口移しする。

 顔を離すと、ミランが不服そうな顔でフェリクスを見つめていた。

「何、どうしたのフェリシア、君からなんて。酒でも飲んでるの?」言いながらマシュマロを口の中で転がす。

「飲んでませんよ。いいじゃないですか、たまには。ミラン殿下、甘いものだって、食べ過ぎないで、ちゃんと歯磨きすれば、大丈夫ですよ」

「だけど……」

「じゃあ、私が甘くても虫歯にならないお菓子を作って差し上げます。実家にいたころ、母が虫歯になった兄のために作っていたのを思い出しました。虫歯にはならない、植物から抽出される甘味料があるんですよ。使うのは少量なので、カロリーも抑えられ、太りません」

 フェリクスのその言葉を聞いて、ミランの顔がぱっと明るくなりかけた。しかし、その顔は、すぐに疑念に満ちたものになった。

「『君にお菓子なんて作れるのか』という顔をしていらっしゃいますね。失礼しちゃいますね」

 ミランの表情を正確に読み取ったフェリクスがわざと口を尖らせた。ミランは慌てて弁解するように言った。

「だって、君が料理してるところなんて見たことないし……魔法師団の仕事が忙しいから仕方ないけど」

「実家にいたころは、自分で料理ぐらいしてましたよ。お菓子だって、兄のために、母と一緒に作ってました。お任せ下さいミラン殿下、このフェリクス・ブライトナーに」

「今はフェリシアだろう?」

「そうでした」

 フェリクスが言い終わる前に、今度はミランから身を乗り出して、彼女に、キスをした。


♦♦♦


 一週間後。

 虫歯にならないパンケーキは出来上がった。

 王宮内のキッチンを借りたフェリクスだったが、何せ二年以上まともに料理していなかったので、勘がすぐには戻らず、失敗しまくった。
 王宮のキッチンが、実家のボロいキッチンではなく、最新式の魔道具キッチンだったこともフェリクスを手間取らせた。

「作り方は覚えてるから理論的にできると思ったのに、おかしいなあ」

 首をひねりながら、失敗したパンケーキの山は団員たちに食べてもらおうとフェリクスは考えた。虫歯にならないし、太らないから、どんなに食べたって、大丈夫なはずだ。うん。適当に見た目を飾って形を整えれば大丈夫! 彼らは魔力があるんだから、お腹を壊したって、大丈夫!

 たった一つの成功作を大事に大事に丁寧にラッピングして、オレンジ色のリボンをかける。でき上がったそれを、フェリクスは額に滴る汗を拭いながら、満足げに眺めた。

 ミラン殿下、喜んでくれるかな。

 その顔は、いつもの凛々しい魔法師団団長ではなく、愛しい男性を想う一人の女性の顔だった。


 ミランの災難・終わり 
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