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マルガレーテが「惚れ薬」を飲んだら (完)
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「よし! どうにかこうにか『惚れ薬』が出来上がったぞ! あとはこれをマルガレーテに口移しで飲ませるだけ……。フェリクス殿、ここまで協力してくれてありがとう!」
「惚れ薬」が入った小瓶を手にしたミラン第三王子は、満面の笑みだった。これで、愛しい婚約者、マルガレーテは自分を好いてくれる。
「『王家に認められた若い女の金の髪』だけがどうしても手に入らなくて、もうだめかと思ったけれど、まさかフェリクス殿、君が女性だったとは……」
小躍りする第三王子を傍で静かに見つめていたフェリクスは、ミランの言葉に頷いた。フェリクスは結局ミランに自分の髪を差し出した。差し出したと言っても、ほんの一掴み分なので、彼女の髪型にさほど変わりはなかった。
数日後、マルガレーテを王宮の人気のない場所に呼び出したミランは、すばやく「惚れ薬」を口にし、彼女に口移しした。
「何をするんですの!」
突然のことにマルガレーテはミランを突き飛ばした。目に怒りがこもっている。
「わたくしに何を飲ませたんですの? なんて乱暴な……ううっ」
マルガレーテは苦しみだした。
「マルガレーテ!」
突き飛ばされたミランはマルガレーテに駆け寄った。彼の心には期待が膨らんでいた。
これで、彼女は僕のことを好きになってくれるはず。
今までさんざんそっけなく、冷たい態度だったけれど、それも今日までさ。
これからは、僕とマルガレーテは、ユリアン兄上たちのように、愛し合う婚約者同士になるんだ……!
「ミラン、殿下……」
「なんだい、マルガレーテ。水臭いな。ミランって呼んでよ」
「ミラン……ミラン……、いやああああああ!」
「えっ?」
マルガレーテは悶え苦しみ、体がどんどん大きくなって、ついには、魔物になってしまった!
「なんてことだ! マルガレーテが巨大な魔物になってしまった!」
ミランは後ずさりし、その場に尻もちをついた。苦しむ巨大魔物……元マルガレーテがミランを押しつぶそうとするかのように、大きな足を振り上げた。
「ミラン殿下!」
物陰から様子を見ていたフェリクスが飛び出し、腰を抜かしているミランを素早く救出した。
「ミラン殿下、しっかりして下さい」
「フェリクス殿、どういうことなんだ? どうしてマルガレーテがあんな魔物になってしまったんだ? 惚れ薬が失敗したのか?」
ミランはなんとか立ち上がり、フェリクスにしがみつきながら問うた。そのはしばみ色の目は戸惑いに揺れている。
対してフェリクスは冷静に、だか若干気まずそうにこう言った。
「いいえ。惚れ薬は成功しているはずです。あの、これは私の憶測ですけれど……『拒絶反応』というやつじゃないでしょうか。マルガレーテ様はミラン殿下を好きになることを、その……どうしても受け入れられなかったのかと」
「なんだってーーーー!?」
フェリクスの言葉を聞いたミランは驚愕の声を上げ、またその場にくずおれた。
「そんなに僕のことが嫌だったのか……」
少なからずミランに心惹かれていたフェリクスは、意気消沈し、俯くミランの肩をそっと抱いた。
その肩が震えている……泣いているのかも知れない。
「ミラン殿下、私が傍にいますから」
「フェ、フェリクス殿?」
ミランが顔を上げる。国王似の端正な顔は、涙と鼻水でびしょびしょに濡れていた。
「国の王子が、そんなお顔ではいけませんよ」
フェリクスは、制服からハンカチを取り出すと、ミランの顔を拭いてあげた。
「あ、ありがとう。君は、優しいね」
ミランは初めて、フェリクスを女性として意識した。彼女の青い瞳を見つめる。
「ぎゃおおおおおおおーーーーん」
――見つめ合う二人をよそに、魔物となったマルガレーテは縦横無尽に暴れまくっていた。
王宮の建物を片っ端から破壊していく彼女が、魔法師団総勢で捕獲されたのは、三時間後のこと――。
惚れ薬の効果が切れて、元の姿に戻ったマルガレーテの証言から、事の次第はすっかりばれ、ミランは王族としての権利をはく奪、王宮から追放されてしまった。もちろんマルガレーテとの婚約は取り消しである。
フェリクスも使い込みの件を黙っていた上に、ミランに加担したとして、魔法師団を解雇されて王宮を追い出された。
「あ~あ、国王も、なにも二人そろって追放しなくてもいいのに……。ごめんよ、フェリクス殿。僕のせいで」
「あんな騒ぎを起こしてしまった以上、仕方ないですよ。王宮を完全に直すのに、魔法を用いても数か月かかるそうですし」
一般人となったミランと、無職になったフェリクスは、王都を二人並んでとぼとぼ、あてもなく歩いていた。
行き交う人々が、二人を見てはなにやらひそひそ笑っている。
子供の集団が、すれ違いざまに指さしてゲラゲラ笑った。
「やーい、追放コンビ~!!」
「変な薬を作って、女をモノにしようとしたんだぜ」
「やだ~、信じられない~」
王子と魔法師団の団長が不祥事で王宮追放されたというニュースは、魔法動画で国民に知れ渡り、今や二人はエルドゥ王国中の笑いものである。
「フェリクス殿、君は女性に戻って、実家に帰ったらどうだ? もう男装している意味もないだろう」
ミランが提案した。確かに、フェリクスはフェリシアに戻ってしまえば、またやり直せる。
だけど……。
「ミラン殿下は行くあてがあるんですか」
「もう殿下じゃないからその呼び方はやめてくれ。……父上からひと月分の宿代はもらったけど、働き口があるかどうか。貴族学校も卒業できずに辞めなければならないし」
「だったら、私は実家に帰らず、もう少し、フェリクスとしてミラン様のお傍にいますよ。一般学校を卒業するまで私が貴方を養います。学校は卒業したほうがいいですからね」
「ほ、本当!?」
ミランの顔がぱっと明るくなった。本心ではその言葉を期待していた、と言わんばかりだ。
まったく、この王子……いや、元王子はしょうがない。
「私が傍にいる、と約束しましたからね」
「ありがとう、フェリクス殿! ずっと一緒だよ!!」
ミランは街中であるにもかかわらず、フェリクスに抱きついて来た。
フェリクスは、フェリシアの心で、体が熱くなるのを感じた。
ずっと一緒に……そうできたらいいな……。
高鳴る胸の鼓動を何とか抑えつつ、フェリクスはそう思いはじめている自分に自分で驚く。
今はフェリクスでも、いずれ、フェリシアとして。
二人の第二の人生(?)はまだ始まったばかり――。
終わり。
※かなり初期の段階でなんとなく考えていた展開です。
マルガレーテが惚れ薬を飲んで拒絶反応を起こすという案をはじめ考えていました。
当初はミランがもっとどうしようもない王子で、恋愛色ももっと薄めのコメディ短編にしようと考えていましたが、色々あって現在の展開になりました(笑)。
「惚れ薬」が入った小瓶を手にしたミラン第三王子は、満面の笑みだった。これで、愛しい婚約者、マルガレーテは自分を好いてくれる。
「『王家に認められた若い女の金の髪』だけがどうしても手に入らなくて、もうだめかと思ったけれど、まさかフェリクス殿、君が女性だったとは……」
小躍りする第三王子を傍で静かに見つめていたフェリクスは、ミランの言葉に頷いた。フェリクスは結局ミランに自分の髪を差し出した。差し出したと言っても、ほんの一掴み分なので、彼女の髪型にさほど変わりはなかった。
数日後、マルガレーテを王宮の人気のない場所に呼び出したミランは、すばやく「惚れ薬」を口にし、彼女に口移しした。
「何をするんですの!」
突然のことにマルガレーテはミランを突き飛ばした。目に怒りがこもっている。
「わたくしに何を飲ませたんですの? なんて乱暴な……ううっ」
マルガレーテは苦しみだした。
「マルガレーテ!」
突き飛ばされたミランはマルガレーテに駆け寄った。彼の心には期待が膨らんでいた。
これで、彼女は僕のことを好きになってくれるはず。
今までさんざんそっけなく、冷たい態度だったけれど、それも今日までさ。
これからは、僕とマルガレーテは、ユリアン兄上たちのように、愛し合う婚約者同士になるんだ……!
「ミラン、殿下……」
「なんだい、マルガレーテ。水臭いな。ミランって呼んでよ」
「ミラン……ミラン……、いやああああああ!」
「えっ?」
マルガレーテは悶え苦しみ、体がどんどん大きくなって、ついには、魔物になってしまった!
「なんてことだ! マルガレーテが巨大な魔物になってしまった!」
ミランは後ずさりし、その場に尻もちをついた。苦しむ巨大魔物……元マルガレーテがミランを押しつぶそうとするかのように、大きな足を振り上げた。
「ミラン殿下!」
物陰から様子を見ていたフェリクスが飛び出し、腰を抜かしているミランを素早く救出した。
「ミラン殿下、しっかりして下さい」
「フェリクス殿、どういうことなんだ? どうしてマルガレーテがあんな魔物になってしまったんだ? 惚れ薬が失敗したのか?」
ミランはなんとか立ち上がり、フェリクスにしがみつきながら問うた。そのはしばみ色の目は戸惑いに揺れている。
対してフェリクスは冷静に、だか若干気まずそうにこう言った。
「いいえ。惚れ薬は成功しているはずです。あの、これは私の憶測ですけれど……『拒絶反応』というやつじゃないでしょうか。マルガレーテ様はミラン殿下を好きになることを、その……どうしても受け入れられなかったのかと」
「なんだってーーーー!?」
フェリクスの言葉を聞いたミランは驚愕の声を上げ、またその場にくずおれた。
「そんなに僕のことが嫌だったのか……」
少なからずミランに心惹かれていたフェリクスは、意気消沈し、俯くミランの肩をそっと抱いた。
その肩が震えている……泣いているのかも知れない。
「ミラン殿下、私が傍にいますから」
「フェ、フェリクス殿?」
ミランが顔を上げる。国王似の端正な顔は、涙と鼻水でびしょびしょに濡れていた。
「国の王子が、そんなお顔ではいけませんよ」
フェリクスは、制服からハンカチを取り出すと、ミランの顔を拭いてあげた。
「あ、ありがとう。君は、優しいね」
ミランは初めて、フェリクスを女性として意識した。彼女の青い瞳を見つめる。
「ぎゃおおおおおおおーーーーん」
――見つめ合う二人をよそに、魔物となったマルガレーテは縦横無尽に暴れまくっていた。
王宮の建物を片っ端から破壊していく彼女が、魔法師団総勢で捕獲されたのは、三時間後のこと――。
惚れ薬の効果が切れて、元の姿に戻ったマルガレーテの証言から、事の次第はすっかりばれ、ミランは王族としての権利をはく奪、王宮から追放されてしまった。もちろんマルガレーテとの婚約は取り消しである。
フェリクスも使い込みの件を黙っていた上に、ミランに加担したとして、魔法師団を解雇されて王宮を追い出された。
「あ~あ、国王も、なにも二人そろって追放しなくてもいいのに……。ごめんよ、フェリクス殿。僕のせいで」
「あんな騒ぎを起こしてしまった以上、仕方ないですよ。王宮を完全に直すのに、魔法を用いても数か月かかるそうですし」
一般人となったミランと、無職になったフェリクスは、王都を二人並んでとぼとぼ、あてもなく歩いていた。
行き交う人々が、二人を見てはなにやらひそひそ笑っている。
子供の集団が、すれ違いざまに指さしてゲラゲラ笑った。
「やーい、追放コンビ~!!」
「変な薬を作って、女をモノにしようとしたんだぜ」
「やだ~、信じられない~」
王子と魔法師団の団長が不祥事で王宮追放されたというニュースは、魔法動画で国民に知れ渡り、今や二人はエルドゥ王国中の笑いものである。
「フェリクス殿、君は女性に戻って、実家に帰ったらどうだ? もう男装している意味もないだろう」
ミランが提案した。確かに、フェリクスはフェリシアに戻ってしまえば、またやり直せる。
だけど……。
「ミラン殿下は行くあてがあるんですか」
「もう殿下じゃないからその呼び方はやめてくれ。……父上からひと月分の宿代はもらったけど、働き口があるかどうか。貴族学校も卒業できずに辞めなければならないし」
「だったら、私は実家に帰らず、もう少し、フェリクスとしてミラン様のお傍にいますよ。一般学校を卒業するまで私が貴方を養います。学校は卒業したほうがいいですからね」
「ほ、本当!?」
ミランの顔がぱっと明るくなった。本心ではその言葉を期待していた、と言わんばかりだ。
まったく、この王子……いや、元王子はしょうがない。
「私が傍にいる、と約束しましたからね」
「ありがとう、フェリクス殿! ずっと一緒だよ!!」
ミランは街中であるにもかかわらず、フェリクスに抱きついて来た。
フェリクスは、フェリシアの心で、体が熱くなるのを感じた。
ずっと一緒に……そうできたらいいな……。
高鳴る胸の鼓動を何とか抑えつつ、フェリクスはそう思いはじめている自分に自分で驚く。
今はフェリクスでも、いずれ、フェリシアとして。
二人の第二の人生(?)はまだ始まったばかり――。
終わり。
※かなり初期の段階でなんとなく考えていた展開です。
マルガレーテが惚れ薬を飲んで拒絶反応を起こすという案をはじめ考えていました。
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