52 / 72
マンネリ化? (完)
しおりを挟む
射貫くようなはしばみ色の瞳に、フェリシアは言葉を発することができないほど、囚われてしまう。
いつもそうだ。
猪突猛進で危なっかしかったり、子供っぽいところがあるくせに、ときに、精悍な男性の顔をする。
私は……今、ミラン殿下の前でどんな顔をしているだろう?
ミランの手を取って立ち上がりながら、フェリシアはふとそんなことを考える。
「何考えているのさ」
見透かしたようにミランがフェリシアを抱き寄せ、キスをした。フェリシアを見上げるその顔には、どことなく余裕な表情がうかがえる。
ん? 余裕? 余裕と言えば。
フェリシアははっとした。
そうだ、悔しいけれど、勝ち抜きバトルを優勝したあの団員に夕ご飯を奢らなくてはならないんだった。
あの団員は見どころがある。魔力量も申し分ないし、魔法の使い方も上手だ。
いずれは次の団長に……。
「こら! やっぱり別のこと考えてるだろフェリシア!」
「えっ」
頬を大きな手のひらで挟まれ、フェリシアは二度目のはっとをした。
「まったく、フェリクスの顔になっていたぞ。魔法師団のことを考えていたのか」
見下ろす先にはこちらも二度目のふくれっ面をしたミランがいた。さっきまでの精悍な顔が台無しだ。
こっちも可愛いけど。
「いいえ。ミラン殿下の瞳の虜になっていました」
「また適当なことを……僕のエスコートが不満か?」
エスコートって、フェリシアの自室……すぐそこまでだけど。
「滅相もございません。光栄の至りです」
今度は、フェリシアからミランにキスをする。再び二人の間に甘いムードが流れ……た、が、
『フェリクス団長、助けて下さい』
王宮の酒場からの魔法通話でそれはあっけなくかき消された。
「なんなんだよ、こんなタイミングで!」
「ミラン殿下、お静かに。通話が聞こえません」
『魔法師団の団員数名が、酔って潰れて帰ってくれません。そのうちの一人は俺が優勝、とか騒いで、もうどーにもなりません! なんとかして下さいフェリクス団長』
俺が優勝……余裕団員だな。
魔法ガチバトルのことは内緒のはずなのに。
大方、優勝が嬉しくて友人の団員と早々に飲みに行った、ということだろう。
こんなことならはやく夕ご飯を奢って優勝を称えてあげるんだった……。
「分かりました、すぐに向かいます。いつもご迷惑をかけて申し訳ない」
『すみません、お休みのところ』
魔法通話を終えたフェリシアは、申し訳ない顔で、ミランに事の次第を告げた。ミランは「そういうことなら仕方がない」と頷いたが、その顔は不満そうだ。それはそうだ。お休みどころか今始まろうとしていたところなのに。
「そんな顔しないで下さい。私もかなりがっかりですが、魔法師団の団長として無視することはできません。それでは行って参ります。すぐ、本当にすぐ戻ってきますから!」
「そんなに気にするんじゃないよ。僕は逃げないからね」
フェリシアのセリフに、ミランは苦笑して答えた。
心の中はミランとの時間を邪魔されて荒れ狂うフェリシアだが、その表情はいつものクールな魔法師団団長のフェリクス・ブライトナーそのものだ。
浮遊魔法で王宮の廊下を急ぐその凛々しい横顔に、夜間警備の女性兵士たちは歓声を上げる。
彼女たちに華麗な流し目を送りながら、当のフェリクスは、
もう! 彼を次の団長に推すかは保留! しばらくは私が団長を続けなくちゃ!
と、心の中で決意するのだった――。
ちなみに「魔法師団マンネリ化」については「料理対決」と「ファッションショー」を足して二で割ったものが採用された。
おしゃれな私服にエプロン姿の団員たちが数名ずつのグループに分かれ、料理を作り(魔法禁止)、ファンの方々に振舞う。
フェリクスは、ミランと余裕団員と組んだ。
真剣に料理したが、フェリクス以外の二人は料理をしたことがほとんどなかったため、最後に鍋が爆発し、三人は消火作業と片付けに追われ、ファンに微笑ましく笑われた。
……結果散々だったが、おおむね好評に終わり、定期的に開催されることになった。
何より歌を歌わなくて済み、とりあえずホッとするフェリクスだった。
マンネリ化? (完)
いつもそうだ。
猪突猛進で危なっかしかったり、子供っぽいところがあるくせに、ときに、精悍な男性の顔をする。
私は……今、ミラン殿下の前でどんな顔をしているだろう?
ミランの手を取って立ち上がりながら、フェリシアはふとそんなことを考える。
「何考えているのさ」
見透かしたようにミランがフェリシアを抱き寄せ、キスをした。フェリシアを見上げるその顔には、どことなく余裕な表情がうかがえる。
ん? 余裕? 余裕と言えば。
フェリシアははっとした。
そうだ、悔しいけれど、勝ち抜きバトルを優勝したあの団員に夕ご飯を奢らなくてはならないんだった。
あの団員は見どころがある。魔力量も申し分ないし、魔法の使い方も上手だ。
いずれは次の団長に……。
「こら! やっぱり別のこと考えてるだろフェリシア!」
「えっ」
頬を大きな手のひらで挟まれ、フェリシアは二度目のはっとをした。
「まったく、フェリクスの顔になっていたぞ。魔法師団のことを考えていたのか」
見下ろす先にはこちらも二度目のふくれっ面をしたミランがいた。さっきまでの精悍な顔が台無しだ。
こっちも可愛いけど。
「いいえ。ミラン殿下の瞳の虜になっていました」
「また適当なことを……僕のエスコートが不満か?」
エスコートって、フェリシアの自室……すぐそこまでだけど。
「滅相もございません。光栄の至りです」
今度は、フェリシアからミランにキスをする。再び二人の間に甘いムードが流れ……た、が、
『フェリクス団長、助けて下さい』
王宮の酒場からの魔法通話でそれはあっけなくかき消された。
「なんなんだよ、こんなタイミングで!」
「ミラン殿下、お静かに。通話が聞こえません」
『魔法師団の団員数名が、酔って潰れて帰ってくれません。そのうちの一人は俺が優勝、とか騒いで、もうどーにもなりません! なんとかして下さいフェリクス団長』
俺が優勝……余裕団員だな。
魔法ガチバトルのことは内緒のはずなのに。
大方、優勝が嬉しくて友人の団員と早々に飲みに行った、ということだろう。
こんなことならはやく夕ご飯を奢って優勝を称えてあげるんだった……。
「分かりました、すぐに向かいます。いつもご迷惑をかけて申し訳ない」
『すみません、お休みのところ』
魔法通話を終えたフェリシアは、申し訳ない顔で、ミランに事の次第を告げた。ミランは「そういうことなら仕方がない」と頷いたが、その顔は不満そうだ。それはそうだ。お休みどころか今始まろうとしていたところなのに。
「そんな顔しないで下さい。私もかなりがっかりですが、魔法師団の団長として無視することはできません。それでは行って参ります。すぐ、本当にすぐ戻ってきますから!」
「そんなに気にするんじゃないよ。僕は逃げないからね」
フェリシアのセリフに、ミランは苦笑して答えた。
心の中はミランとの時間を邪魔されて荒れ狂うフェリシアだが、その表情はいつものクールな魔法師団団長のフェリクス・ブライトナーそのものだ。
浮遊魔法で王宮の廊下を急ぐその凛々しい横顔に、夜間警備の女性兵士たちは歓声を上げる。
彼女たちに華麗な流し目を送りながら、当のフェリクスは、
もう! 彼を次の団長に推すかは保留! しばらくは私が団長を続けなくちゃ!
と、心の中で決意するのだった――。
ちなみに「魔法師団マンネリ化」については「料理対決」と「ファッションショー」を足して二で割ったものが採用された。
おしゃれな私服にエプロン姿の団員たちが数名ずつのグループに分かれ、料理を作り(魔法禁止)、ファンの方々に振舞う。
フェリクスは、ミランと余裕団員と組んだ。
真剣に料理したが、フェリクス以外の二人は料理をしたことがほとんどなかったため、最後に鍋が爆発し、三人は消火作業と片付けに追われ、ファンに微笑ましく笑われた。
……結果散々だったが、おおむね好評に終わり、定期的に開催されることになった。
何より歌を歌わなくて済み、とりあえずホッとするフェリクスだった。
マンネリ化? (完)
0
あなたにおすすめの小説
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる