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ふくしゅう
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巻き毛の少女が涙でかすむ。
(なかないで)
頭の中に穏やかで、柔らかい声がひびいた。この少女の声だと私は漠然と感じた。
どうして私が、こんな目に……。
(ほんとう、ひどいわよね。それじゃあ、わたしをあけてごらんなさい)
私は声のとおり、プラスチックの長方形のケースを開けた。留め具などはついておらず、わずかに力を入れるだけで蓋は中身が入った本体と別れた。
中には角が丸いカードのセットが入っていた。私はふいに我に返り、顎から垂れていた涙を手の甲でぬぐった。
トランプ……?
すべてのカードを、慎重にケースをひっくり返すようにして表にして取り出した。
経年を感じさせる、古びたトランプがひとそろい、そこにはあった。扇状に開いて、ダイヤの4を何となく手に取った。表も裏もまったく普通の、デパートで売っているようなトランプで、入っていたケースとは大違いだった。余計な絵だとか、装飾などは何もない。
(よくみて)
また少女の優しい声が頭に響いた。私は4という数字と、赤いダイヤ型が4つ描かれた1枚のトランプを凝視した。すると、カードの表面が一瞬ぼやけ、そうかと思うと次にはそこに、なんと妹の姿が映っていた。
まぎれもない、さっき私を落ちている紙くずみたいに扱ったあの妹が、自室のベッドにうつ伏せになって、雑誌を読んでいる。私は妹を斜め上、部屋の上部の角から見下ろしている格好で、妹の顔は見えない。だがまぎれもなく妹だ。足を交互に曲げたり伸ばしたりして、呑気に雑誌をめくっている。そして妹はふいに雑誌を片手に持ったまま、足をだらしなく組んで、仰向けになった。私は妹に自分が気付かれるんじゃないかと思って瞬間息を飲んだが、妹は変わらず雑誌を読み続けていた。
妹に私の存在は見えていないのだろうか、そう思った途端、私の体の中の何かが暴れだし、手先がバウンドするほど震えた。なぜ1枚のトランプに、今自室にいるはずの妹が映っているのか、それはどうでもいいことだった。
「あんた、もう人生終わりだね」
「死ね」
何度も何度も何度も同じ妹の言葉が頭に響いた。
私を、馬鹿に、している。
いつもいつもいつも。
(さあ)
いつもいつもいつも。
(やりかえしてやりなさい)
私は手近にあったボールペンを右手に取る。キャップを外す。おおきく、ふりあげる。左手で、勉強机に置いた、妹が映るトランプを抑える。今は朱色の4、という数字が左上と右下にかすかにみとめられるだけで、一見、トランプとは思えない。まるでカードに妹の部屋へと続く穴が空いているようだ。私という巨人が、妹の部屋を穴から見下ろしている……私は気持ちが高ぶるのを感じた。なんという支配感!
「あんた、もう人生終わりだね」
「死ね」
私はトランプに映る妹めがけて、腕を振り下ろした。ボールペンは本来なら固い音をたてて、勉強机に置いたトランプにはじかれるはずだ。だが、ボールペンはトランプを突き抜けたように見え、手には柔らかい感触が一瞬だけ、あった。柔らかい何かを感じた瞬間、私はボールペンを放り出していた。なぜなら、その一瞬と同時に、すさまじい悲鳴が耳をつんざいたからだ。ボールペンは、宙を舞って床に落ちた。
(なかないで)
頭の中に穏やかで、柔らかい声がひびいた。この少女の声だと私は漠然と感じた。
どうして私が、こんな目に……。
(ほんとう、ひどいわよね。それじゃあ、わたしをあけてごらんなさい)
私は声のとおり、プラスチックの長方形のケースを開けた。留め具などはついておらず、わずかに力を入れるだけで蓋は中身が入った本体と別れた。
中には角が丸いカードのセットが入っていた。私はふいに我に返り、顎から垂れていた涙を手の甲でぬぐった。
トランプ……?
すべてのカードを、慎重にケースをひっくり返すようにして表にして取り出した。
経年を感じさせる、古びたトランプがひとそろい、そこにはあった。扇状に開いて、ダイヤの4を何となく手に取った。表も裏もまったく普通の、デパートで売っているようなトランプで、入っていたケースとは大違いだった。余計な絵だとか、装飾などは何もない。
(よくみて)
また少女の優しい声が頭に響いた。私は4という数字と、赤いダイヤ型が4つ描かれた1枚のトランプを凝視した。すると、カードの表面が一瞬ぼやけ、そうかと思うと次にはそこに、なんと妹の姿が映っていた。
まぎれもない、さっき私を落ちている紙くずみたいに扱ったあの妹が、自室のベッドにうつ伏せになって、雑誌を読んでいる。私は妹を斜め上、部屋の上部の角から見下ろしている格好で、妹の顔は見えない。だがまぎれもなく妹だ。足を交互に曲げたり伸ばしたりして、呑気に雑誌をめくっている。そして妹はふいに雑誌を片手に持ったまま、足をだらしなく組んで、仰向けになった。私は妹に自分が気付かれるんじゃないかと思って瞬間息を飲んだが、妹は変わらず雑誌を読み続けていた。
妹に私の存在は見えていないのだろうか、そう思った途端、私の体の中の何かが暴れだし、手先がバウンドするほど震えた。なぜ1枚のトランプに、今自室にいるはずの妹が映っているのか、それはどうでもいいことだった。
「あんた、もう人生終わりだね」
「死ね」
何度も何度も何度も同じ妹の言葉が頭に響いた。
私を、馬鹿に、している。
いつもいつもいつも。
(さあ)
いつもいつもいつも。
(やりかえしてやりなさい)
私は手近にあったボールペンを右手に取る。キャップを外す。おおきく、ふりあげる。左手で、勉強机に置いた、妹が映るトランプを抑える。今は朱色の4、という数字が左上と右下にかすかにみとめられるだけで、一見、トランプとは思えない。まるでカードに妹の部屋へと続く穴が空いているようだ。私という巨人が、妹の部屋を穴から見下ろしている……私は気持ちが高ぶるのを感じた。なんという支配感!
「あんた、もう人生終わりだね」
「死ね」
私はトランプに映る妹めがけて、腕を振り下ろした。ボールペンは本来なら固い音をたてて、勉強机に置いたトランプにはじかれるはずだ。だが、ボールペンはトランプを突き抜けたように見え、手には柔らかい感触が一瞬だけ、あった。柔らかい何かを感じた瞬間、私はボールペンを放り出していた。なぜなら、その一瞬と同時に、すさまじい悲鳴が耳をつんざいたからだ。ボールペンは、宙を舞って床に落ちた。
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