男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 気落ちした表情をするミランを見つめながら、フェリクスは、今後の流れをまとめて頭に浮かべた。

 明日の就任式で、私は王家から「新・魔法師団団長」として正式に認められる。
 →→私が女性であることをミラン殿下に明かす。
 →→私の髪を切り、ミラン殿下に差し出す。
 →→薔薇を取ってくる。
 →→惚れ薬の材料が揃う。
 →→条件の整った日に惚れ薬を作る。
 →→ミラン殿下は惚れ薬でマルガレーテ嬢の心を手に入れる。めでたしめでたし。
  
 ……そして、私とミラン殿下のつながりはなくなる。
 その後、きっと、ミラン殿下と親しくお会いすることはない。
 もともと、使い込みをバラさない代わりに惚れ薬作りに協力するという、期間限定契約関係だし、私のことを女だと知ったら、マルガレーテ嬢の手前、接し方も変わるはずだ。
 今みたいに、二人っきりになることだって、もうない。

 そのような結論に至ったとき、ほんの一瞬だけ、フェリクスは泣きそうになった。慌てて目を瞬かせる。

 何を動揺しているんだろう。はじめから、そういう約束だったじゃない。

 空虚な気持ちを抱えたまま、フェリクスは、部屋を出て行くミランを見送った。



 ――就任式当日。

「魔物め! 貴様の好き勝手にはさせないぞ!」

「俺達魔法師団の力を見せてやる!」

「みんな、いくぞ! フォーメーションだ!」

 式は滞りなく行われていた。
 ちなみに上記のセリフはフェリクスではなく、他の団員が叫んでいる。フェリクスだと棒読みになるからだ。
 魔法師団が魔物を取り囲み、団員一人一人が格好つけながら魔法を繰り出す。全員でかかれば一瞬で倒せるのに、そうはしない。
 魔物は長い尻尾を持った、トカゲを巨大化させたような外見をしていた。
 よく訓練されているようで、繰り出した魔法に当たるたびに、苦しむふりをしてくれる。見えないバリアの魔法で守られているから痛くないはずなのに、健気なことだ。
 ホール内の盛り上がりは想像以上に凄まじく、つんざくような声援が飛び交っている。
 前方で座っている王族、または王宮関係者は節度を守っているが、招待された貴族婦人たちは、淑女としての振る舞いを完全に投げ捨て、自分のお気に入り団員に声援を送っていた。もちろん貴賓席にいる貿易商の女性も。
 フェリクスは一番最後にとどめを刺す役で、まだ出番がない。
 ちらりとミランの方を見ると、マルガレーテに何か笑いながら話しかけているところだった。昨日のリハーサルでもそうだったが、ミランはマルガレーテの気を引こうと、色々話しかけて必死だった。

「団長! あぶない!」

 えっ。

 魔物の尻尾がフェリクスを薙ぎ払った。
 フェリクスは吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
 とっさに魔力で体を守ったからダメージはないが、打ち合わせにない展開だ。まあ所詮人間とは違う魔物なので、いくら訓練されていても、こういうことはある。

「キャー、フェリクス様ー!」

 予想外の展開に、ホール内がざわめく。
 だが、フェリクスは落ち着いていた。機敏に立ち上がると、

「私は大丈夫だ! 攻撃を続けろ! 陣形を崩すなよ!」

 団員たちに怒鳴った。それを合図に団員たちがパフォーマンスを再開する。

「よくも団長をやったな! 思い知らせてやる!」

 余裕の表情で勝手なアドリブを加えだす。いくら自主練をサボってだらけた師団でも、並み以上の魔力を持つ者たちの集まりだ。魔物一体を捕獲することなんて、造作もない。

「団長、とどめを!」

「ああ」

 フェリクスがとどめの魔法攻撃を放つと、魔物はご丁寧にぐおおとうめき声を上げ、苦しがる振りをしながらどう、と倒れた。
 ホール内に黄色い声援と、拍手が沸き起こる。
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