男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

文字の大きさ
42 / 94

42

しおりを挟む
「ええ。ありがたいことに、休みを頂戴しました。しかし、体がなまっては魔法師団として失格ですので、朝の自主練……訓練はしたいと思います」

 フェリクスのその言葉に、ミランは目を輝かせた。

「じゃあ、いっしょにまた訓練できるの? 今日も一人で正直味気なかった」

「はい、喜んで。もしかしたら、他の団員も参加するかもしれないので、剣で相手してやってください」

「望むところだよ……と、そろそろ学校の時間だ。じゃあ、フェリクス殿、また……」

「あの、ミラン殿下」

 立ち去ろうとするミランをとっさに引き留めた。フェリクスは、ずっと心に引っかかっていたことを、ミランに言いたかった。

「ん? どうしたの」

「結局、歌、歌えなくて、すみませんでした。ミラン殿下が、一緒に練習してくれたのに」

 最後の方は意図ぜず、消え入りそうな声になってしまった。
 魔物のアクシデントで、結局、フェリクスは「軍歌・エルドゥ王国と共に」を披露することはなかったのだ。

「君のせいじゃないじゃないか」

「結論から言えば、そうですけど……」

 あんなに練習したのに。
 学校に通いながら、ミラン殿下が秘密の練習場所を教えてくれてまで、協力してくれたのに。
 フェリクスはそのことが、今の今まで心残りだった。
 うなだれるフェリクスを前に、部屋のドアに手をかけていたミランは、二回ほど瞬きして、彼女を見つめた。
 そして素早くフェリクスの元に戻ると、彼女の両手を取って、励ますようにこう言った。

「フェリクス殿。色々な意見があるだろうけど、僕は結果より過程を重視する考えなんだ。君の歌声を披露できなくて残念だけど、やれるだけのことはやった、それでいいじゃないか。……っていうのは、魔法師団的にはダメかな?」

 はしばみ色の大きな瞳に見つめられて、フェリクスは自分の胸の鼓動が急に速くなったのを感じた。

「……ダメじゃないです」

 俯いたまま、そう答えるのが精いっぱいだった。
 顔が熱くなっているのに、気づかれないだろうか。
 グローブをしているけれど、手から、その熱さがミランに伝わってしまわないだろうか。
 フェリクスは気が気でなかった。
 一方ミランはなんともないように手を離すと、そんなフェリクスの心中お構いなしに、こんなことを言った。

「僕の方が年下なのに偉ぶってごめんね。とにかく、休暇はいいことだよ。街で美味しいものでもたらふく食べたら? フェリクス殿、君はちょっと軽すぎるよ」

「えっ」

 フェリクスは驚いて顔を上げた。軽すぎ?

「君が魔力切れで倒れたとき、僕がとっさに受け止めたんだよ。気絶してるのに案外軽かったから、びっくりしたよ。ちゃんと食べてる?」

「た、食べてますよ、人並みに」

 そうだったんだ。まったく記憶ないけど、まさかミラン殿下が……。

「そのまま、持ち上げて、担架に乗せたら、貴族女性たちのつんざくような黄色い声がホール内に轟いて……」

 意味が分からない、とでも言うように首を傾げるミランを見つめながら、フェリクス「ははは……」と笑って誤魔化すしかなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...