男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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「マルガレーテが、ずっと、元気がないんだ。きっと、恋人のことを思っているんだと思う。このままじゃ、体を壊してしまう」

 ミランの声は、妙に冷静だった。

「君に直球で言われて、目が覚めたよ。本当は、心のどこかで思ってた。確かに、マルガレーテが、可哀想だ。……僕の、ひとり相撲だったよ」

 うなだれるミランの背中は、とても小さく見えて、本当に、ただの少年のようだった。

「ミラン殿下……」

 フェリクスは、ミランに何と言っていいか分からなかった。「惚れ薬」を使わないでとは言ったが、婚約を解消すると言いだすとは思わなかった。
 成人の儀で発表してしまっているのに、そんな簡単に解消できるのだろうか。

「そこで、フェリクス殿。マルガレーテと婚約を解消するために『惚れ薬』を作ってもらいたい」

「は?」

 意味が繋がっていない文章の前に、フェリクスは間が抜けた声を出した。

「頼む! フェリクス殿!」

 そんなフェリクスに、ミランは強い力で取りすがった。お互い濡れた衣服を脱いでいる状態なので、あんまりくっつかないでほしい。

「君を僕の友人と見込んで、頼む! 惚れ薬を作って、君が僕に飲ませてくれ! そして、僕にマルガレーテを忘れさせてくれ!」

「ど、どういうことですか、殿下」

「惚れ薬は、口移しした者のことを、移された者が好きになるんだろう? フェリクス殿、君が僕に惚れ薬を飲ませてくれれば、僕は君を好きになる……マルガレーテのことを、忘れられる!」

 フェリクスはミランが言っていることを頭の中で整理した。

 惚れ薬を作る→惚れ薬をフェリクスがミランに口移しする→ミランはフェリクスのことが好きになる→ミランはマルガレーテへの想いを忘れられる→めでたしめでたし。

 そんな馬鹿な。

「ちょ、ちょっと待って下さい! 嫌ですよ、そんな……」

 フェリクスは全力で逆らった。なんてこった。眩暈がする。マルガレーテのことを諦めたと思ったら、まさかの提案だ。どうしてそういう発想になるのか、理解に苦しむ。

「男同士で嫌なのは分かる。だけどここは犬にでも噛まれたと思って、僕を助けてくれないか。お願いだよ、フェリクス殿!」

「落ち着いて下さい、ミラン殿下」

「僕が突然男にはしったと分かればやむを得ず、婚約解消もできるだろう。僕もマルガレーテのことを忘れられる……一石二鳥だ!!」

「滅茶苦茶ですよ! もう! 落ち着いて!!」

 フェリクスはミランの肩を掴んで怒鳴った。ミランははっとしたように一瞬黙り、我に返り「やっぱりダメだよね……」とがくっとこうべを垂れた。再びゆるゆると顔をあげると、困ったような顔でフェリクスを見つめてくる。フェリクスはその目を見て、助けを求められているように感じて、どきりとした。
 まったく、この王子は、しょうがない。

「私が、ミラン殿下の心の傷が癒えるまで……傍にいますから」

「フェリクス殿!」

 ミランはぶつかるようにフェリクスに抱きついてきた。

「ありがとう、フェリクス殿! ありが……うわーー!?」

 と、思ったら、すごい速さで後ろに飛びすさった。

「あ、あれ!? なんだか、フェリクス殿が、柔らかい……」 
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