男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 マルガレーテと婚約解消したあと、ほどなくして謹慎処分を解かれたミランは、以前と同じように当たり前に、団長室をちょくちょく訪れていた。貴族学校から帰ったあとが多く、他愛もないことをちょっと話しては去って行く。
 ただ部屋に入る際に、きちんとノックをするようになった。
 たまに団長室を訪れている他の団員とも親しくなり、冗談だろうけど、剣の腕が確かで、顔がいいので魔力がなくても魔法師団に入りませんか、と勧誘を受ける始末である。

「今日は、君に重大な話があるんだよ、フェリクス殿」

「なんですか? まさか、本当に魔法師団に入るんじゃ……」

 フェリクスはミランの正面に腰かけて、お茶請けのわさびせんべいを広げながら聞いた。
 今日はめずらしくフェリクスとミランの休みが重なった日だった。特に予定がないので、昼下がり、静かに読書していたら、ミランが登場した。

「似てるけど、ちょっと違うんだ。魔法師団の活動が一層忙しくなったから、僕がマネージャーとして、フェリクス殿を、サポートすることになったよ。今日、上層部の会議で決まった」

「マ、マネージャー!?」

「僕も成人したことだし、王族として、本格的に仕事をしないとって、僕が希望したんだ。学校に行きながらになっちゃうけど、ダメかな?」

「ダ、ダメじゃないですよ、心強いです」

 ダメと言ったって、もう決まってしまったのなら、仕方がない。

「ありがとう、フェリクス殿。何かしていないと、マルガレーテのことで、気持ちが塞いでしまうんだ。情けないことに」

「礼には及びません。前も言ったとおり、私は、友人として、ミラン殿下を支えさせていただきます」

 そうか。わざと忙しくして、マルガレーテ嬢のことを考えないようにしたいんだ、ミラン殿下は。
 そんなに思っていたんだな、マルガレーテ嬢のことを。別の貴族学校に転入してしまったというから、もう会うこともない、元婚約者を。

 マルガレーテは婚約解消後、貴族学校を転校し、療養の名のもと、まわりから隠れるように別宅へ移った。
 実は、魔法師団として、フェリクスはお茶会に個人的に呼ばれ、ほんの一週間ほど前、彼女に会っていた。もちろんミランは知らない。
 フェリクスは、なぜ自分が呼ばれたのか分からなかった。正直の女だと、正体がバレやしないかと危惧していた。

 別宅へ到着したフェリクスは、柔らかな光が差し込む喫茶室に案内された。
 すでにマルガレーテが待っており、立ち上がってフェリクスに挨拶をした。
 その後、マルガレーテと向かい合って他愛ない話をしながら、香り高いハーブティーを飲んだ。マルガレーテは街で会ったときとは違って、眼鏡を外し、薄く化粧していた。ミランとは対照的に、あきらかに以前より頬がふっくらとしており、血色もいい。
 会話が途切れたとき、マルガレーテはふとこう言った。

「貴方様にお渡ししたいものがありますの、フェリクス様」

 なんだろう、とフェリクスは純粋に思った。

 フェリクスの前にそっと差し出されたのは、あのとき、ベンチに落とした実家への手紙だった。
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