男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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番外編・ミランサイド2

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 フェリクスとはじめて会ったとき、ミランは彼女のことを、職務に忠実な、真面目そうな男だと思った。「可愛い系第三王子」とまわりから称されることが少なくないミランは、その美男子ぶりに正直少し、嫉妬した。

 ……なんか無表情だしお堅そうで、月刊・魔法師団通信に書いてある通り、とっつきにくそうな奴だなあ、って思ったんだよね。

 ミランはそのときのことを思いだし、ベッドの上で苦笑する。

 だけど、実際のフェリクス殿は、そうじゃなかった。
 写真撮影ではうまく笑えなくて団員にからかわれてるし、ムキになって挑発に乗っちゃうところもあるし、団長室の鍵はよくかけ忘れるし。次第に親しみやすさを感じて……年上の友人ができた、と思った。

 団長就任式で歌うはずだった軍歌の練習は、本当に一生懸命、頑張ってた。
 本番では魔物のアクシデントで結局歌えなくて、フェリクス殿は落ち込んで……僕に謝ることなんてないのに、消え入りそうな声で、うなだれてた。
 あのときのフェリクス殿は、年上なのに、なんだか放っておけないなあ、ってちょっと思ったんだ。
 いや、だからって、女性だとは思わなかったけど!
 なんで僕にずっと黙ってたんだ? 言ってくれればノックもなしに部屋にずかずか入ったりしなかったのに。団長室だけじゃなくて、私室にも入っちゃったし。
 だけど男だと思ってたんだからしょうがないよね。
 言ってくれればよかったのに。
 まったく、マルガレーテといい、フェリクス殿といい、女性っていうのは、肝心なことを言わない!

 そうだよ、マルガレーテってば……婚約に承諾しておきながら、僕のこと、全然好きじゃなかったなんて。貴族学校で倒れるほど嫌ってたなんて。というか、別に相手がいたなんて。じゃあなんで婚約なんてしたのさ。いくら僕が強引に迫ったからって……。

 いつのまにかマルガレーテを責めている自分に嫌気がさして、ミランはベッドの上をごろごろ転がった。転がりながら床に落ちて、そのままうつ伏せに倒れていた。

 何やってんだろ、僕。

「失礼します、ミラン殿下。リステアード王太子より伝言がございます」

 ドアの外から自分付きの侍従の声がした。

「何? 開いてるよ。ベッドルームにいるから、勝手に入って来ていいよ」

 ミランはぶっきらぼうに言った。

 部屋に入って来た年配の侍従は、床に突っ伏すミランの姿を見るなり「殿下、お行儀が悪うございます」と、ミランに対し、苦言を呈した。

「なんだよ、兄貴からの伝言って何?」ミランは動かなかった。

 しかし侍従はそれ以上何も言わなかった。その場に立ったまま、床に倒れるミランを見下ろしていた。

 自分に注がれる冷たい視線に耐えられなくなったミランは、仕方なく四つん這いになってから立ち上がり、姿勢を正した。

「これでいいんでしょ。で? 兄上が、私になんて?」

「ミラン殿下。リステアード王太子殿下からの伝言を申し上げます。『お前は部屋にこもりっきりだとろくなこと考えないし、体に良くないから、朝、今までどおり、魔法師団団長フェリクス・ブライトナーに剣の稽古をつけてもらうように』とのことです」

「それだけ?」

「ええ。そうです」

「フェリクス殿にその話いってるの? というか、僕が婚約を解消すること、知ってるの」

「知ってるんじゃないですか。リステアード王太子に呼び出されたようですから」

 ミランは礼を言って侍従を下がらせた後、再びベッドに寝転がった。
 剣の稽古……。正直、今は、何もしたくない気分だった。
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