男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

両思い

　どうにかこうにか無事終わった「ちびっ子向けショー」からひと月ほど経った頃。

　時刻は夕方。魔法師団はいつもと変わらずのアイドル活動を終え、それぞれ自由な時間を迎えようとした。
　
　魔法師団団長フェリクス・ブライトナーも、自室に戻り、夕飯までの間、少し読書をしようかと思っていた。
　だが、自室に向かう途中、リステアードが緊急で呼んでいる、と侍従の一人に呼び止められてしまった。

　緊急の用事なんて何だろうと思って、急いでリステアードの執務室に入ると、めずらしく青ざめた顔のリステアードが座っていた。

「突然呼び出してすまない。だが、大変なことになった。魔物が王宮から逃げ出した」

「ええっ」

　王宮内には国の行事や、魔法師団のパフォーマンスに協力してもらうための魔物が数十体ほど管理されている。
　訓練係によってしつけられているとはいえ、王宮の外に逃げ出したとなると、大変である。

「フェリクス・ブライトナー魔法師団団長、魔法師団を率いて、日が暮れる前に、逃げた魔物を至急捕獲してくれ。魔法師団がおおっぴらに動くと国民が騒ぎ出すから、極秘に速やかに頼む。ボーナスはずむぞ」

「国民に知らせた方がいいんじゃないでしょうか」

　フェリクスは至極まっとうなことを言った。リステアードはそれに対し、

「逃げた魔物に危険性はないから、その必要はないよ。とにかく今、王宮から逃げたってことに、気づかれたくないんだ」

　と、どこか気まずそうに言った。いつもどこか余裕のある、リステアードらしくない態度である。

「どんな魔物なんです？」

「俺は直接見たことがないけど、訓練係が言うには、狸そっくりの外見だそうだ。人間に化ける魔法を使うらしいんだけど、まだ子供だから、あまりうまくないらしい」

「つまり、ほぼただの子狸ってことですか」

「そういうこと。魔力を体内に有しているってだけで、知能も普通の狸と変わらない。狸の発する魔力を感知して、狸を捕まえてくれ。移動魔法や浮遊魔法は使えないから、そう遠くへは行っていないはずだ」

　相手の体内にある「魔力」を感知できるのは同じ魔力持ちだけである。あ、こいつ魔力持ってる、と分かるのである。フェリクスとリステアードも、こうして向き合っているだけで、お互いの魔力を感知しあっている。

　つまり、今回の仕事は「魔法師団」に適任なのだ。エルドゥ王国PRのためのアイドル活動ではなく、れっきとした任務。ただの狸探しでも、フェリクスの心は踊った。

「承知しました。このフェリクス・ブライトナー、至急魔法師団を率いて、狸型魔物を捕獲します」

「よろしく頼む。俺も行きたいけど、今は俺が王宮を任されてるからね。魔法師団の腕の見せ所だ」

「任せて下さい！　国のために尽くすのが、魔法師団ですから」

「なんだかめずらしく張り切ってるね？　魔法師団もここのところ入団希望者が増えてて、国民への人気度は増すばかりだ。まあ、魔力が一定以上ないと入団できないけどね」

　そう、美男子かどうかが重要視されがちだが、魔法師団は魔法師団なんだから、魔法が使えなくてはならないのだ。最近は顔が良ければ入れると勘違いしている者も多いらしい。

　魔法師団は高い魔力を持ち、国に忠誠を誓う誇り高く屈強な男たちの集まりなのだ。

　自分が男ではなく女であることはとりあえず置いておいて、フェリクスは張り切って団員を招集しに向かった。