お悩み探偵シエルの事件簿 外伝

心桜鶉

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第1話 case1; 懸賞のなぞなぞ

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 この話は、登場人物の大学1年生、加野 詩絵(かの しえ)と八武崎 未和(やぶさき みわ)が大学で友人になり、後に詩絵が未和が勝手に設立したお悩み解決サイトのお悩み探偵シエルになる前の話である。



「詩絵ちゃん、この謎、分かった?」

 私の隣の席で顎に手を当てながら、集中して私の話を聞いていた、詩絵ちゃん―――私と同じ大学生1年生でミルクベージュの髪色の少女、加野詩絵、に問いかける。

「うん」



 およそ15分前―――


「授業終わった~」

 私は、ずっと座っていて凝り固まった体をほぐすため、軽くストレッチをする。

「大学生になると、1つの授業が90分になるから、長いよね」

 私は授業の途中、寝ていたので元気だが、隣で寝ずに一生懸命ノートを取っていた詩絵は、すでに疲れた表情をしていた。

「未和は開始30分で寝ていたけどね……」

「バレてたか!!」

 中学、高校までは授業時間50分だったが、大学に入ってから授業時間が一気に伸びた。ほぼ倍である。
 その分1回で習う内容は濃くなるので学びがいがあるといえばそうなのだが。
 内容がより専門的になり、1年目の私には脳が追いつかず、挙句の果てについ寝てしまうので、私にとって授業時間の伸びは睡眠時間の伸びでもある。
 しかし、大学の授業というものは高校の時間割とは違い、授業が9時から16時まで詰まっているわけではない。
 卒業までに必要になる単位数を逆算し、それを4年間で取れれば良い。単位のとり方はカリキュラムに例として載っているのでほぼそのとおりに取れば間違いないのだが、とり方によっては1日オフ――――1日だけ全く授業を入れない日、を作ることもできる。
 復習の時間に当てられる、と思う人もいれば、バイトを1日入れられる、と思う人もいてその時間の使い方は自由である。
 詩絵は3年生までに卒業に必要な単位をとる計画らしく、毎日授業が何かしら入っている。一番遅い時間で、17時開始の授業もある。
 今日は1限の授業は無かったので10時半スタートだった。こういう日は、少し遅くまで家で寝ていても怒られないので幸せだ。

 2限の授業が終わり、昼休みに入ったので私と詩絵は食堂に行き、昼食を取ることにした。
 私たちの大学にはそこそこ広めの学食があり、なんとキャッシュレスでの支払いもでき、交通系ICカードが使える。
 私たちが1番乗りだったらしく、席はすべて空いていた。とりあえず、壁よりの角に近いところに荷物をおき、席を確保することにした。

 今日の昼食として選んだ、唐揚げ定食をすぐに食べ終えると、3限は授業をいれていないので4限にある次の授業が始まるまでの約2時間あるこの時間をどう過ごすか考えていた。
 隣に座る詩絵も暇そうにしていたので、私は雑誌の最終ページに有る懸賞に応募するために、詩絵にも一緒に考えてもらうことにした。
 懸賞の問題は、ミステリー系であり、短編の話の謎を解いて、その推理を紙に書き、担当事務局宛で郵送すれば、応募完了で当選を待つだけである。

「ほうほう。私も一緒に考えれば良いんだね。そいで、そいで、その謎はどんな話なの?」

 私は、雑誌に書かれている、今月の謎を読み上げた。
 その謎は以下である。

『とある島にある住宅街で殺人事件が起きた。
 通報によると、家の中で女性の死体があるのが発見された、とのこと。
 通報したのは、その女性の弟であるAさんだった。
 駆けつけた警察が家の中に入ろうとしたが、窓には全て内側から鍵がかけられていて、唯一の出入り口である玄関にも鍵がかかってた。

 中にいる女性は警戒心の強い人物だったのか、合い鍵はなく、本人が所有している鍵のみだった。
 警察はその女性の弟であるAさんの立ち合いの元、リビングの窓ガラスを割って室内に入った。
 鍵は割れたガラスの破片の上にあるのが発見された。

 ところが警察は立ち会ったAさんを緊急逮捕した。
 それはなぜ?』


「―――というわけなんだけど、詩絵ちゃん、この謎、分かった?」

 私の隣の席で顎に手を当てながら、集中して私の話を聞いていた、ミルクベージュの髪色の少女、加野詩絵、に問いかけた。

「うん」

 詩絵は私の予想以上にあっさり答えたので、つい驚いてしまい、聞き返してしまった。

「本当に?」

「多分だけど、説明はできるよ」

「犯人は本当に弟のAさんなの?殺す理由無くない?登場しているのは弟と警察官だけど、実は自殺で誤逮捕とかじゃなくて?教えてよ!」

 私は、昼休みにこの謎を詩絵に聞かせる前に、家でも一度読んではいるが、さっぱり分からなかった。
 だが、問題文はこれだけなので、答えを導くためのヒントはこの文章の中にあるのだろう。
 今、改めて読んでも、密室の中で事件が起きた、ということしか分からない。
 だが、隣にいる詩絵は一度聞いただけで分かったという。
 犯人は誰なのか。本当に弟のAさんが犯人なのか。もし、犯人がAさんなら、鍵は部屋の中で発見されていたが、弟のAさんが姉を殺害してからどのようにして密室を作り出ていったのか。
 詩絵は頭の中で一通り整理できたのか、頷くと、説明するね、と話し始めた。

「この文章だけだと、なぜ殺したか、動機の部分は分からないけど、実は犯人が誰か分かる決定的な部分があるんだ。ただ、これは気付けるかの問題なんだけどね。
 とりあえず、最初から状況を整理しようか。

 まず、この話は自殺ではなく、殺人事件。
 その理由は、問題文の最初のところで『殺人事件が起きた。』となっているからね。

 そして、通報者はその女性の弟であるAさん。
 そのあと、駆けつけた警察が家の中に入ろうとしたけど、窓には全て内側から鍵がかけられていて、唯一の出入り口である玄関にも鍵がかかってた。
 つまり、密室だね。
 鍵は、殺害された本人が所有している鍵のみ。
 その鍵が無い限り、部屋に入れない。
 この時点で、鍵の在処は2パターン考えられる。
 1つ目は、どうやって密室は作るか分からないけど、殺害された女性が持っている場合。

 2つ目は鍵は犯人が持っていて、部屋のすべての窓を締めたあと、玄関に鍵を掛けて密室を作る場合。

 私はこの時点で2つ目のパターンが濃厚かなって思っていたよ。だって、これなら密室の作り方も説明できるからね。
 そして、警察はその女性の弟であるAさんの立ち合いの元、リビングの窓ガラスを割って室内に入った。
 鍵は室内で見つかった。それも割れたガラスの破片の上にね。もう分かったと思うけど―――」

 詩絵はここまで丁寧に説明し、一旦話を切った。

「もしかして、気づくべき部分って、鍵は割れたガラスの破片の上で見つかったってこと?」

「そう、そのとおりだよ、未和。順番としてはガラスを割る、部屋の中に入るの順番だから、ガラスの上から鍵が見つかったってことは、ガラスを割って部屋に入った後、犯人がそこに鍵を置かない限り、そうはならないよね」

「その場で立ち会っていたのは、弟のAさんだけだから…」

「そう、女性を――お姉さんを殺害したのは、弟のAさんってことになるね」

「詩絵、ちなみに他の人の可能性は……?」

 それでも、と思って私は聞いてみる。

「んー無いと思う。鍵は女性が持っている物のみで、合鍵はないからね。
 だからこの場合、鍵を持っている人が犯人で――もっと言えばお姉さんと最後に会っていた人物、ということになるね。」

「そっか、なるほど……でも詩絵はすごいね。一瞬で解いていた感じがするけど、こういうのは得意なの?」

「推理小説は読むから好きかも。でもいつも、話に出てくる探偵より早くは解けないよ。こういうのは気づきとひらめきが大事だからなぁ。
 それより、懸賞に受かると何がもらえるの?」

「えっと、今回は……旅行券!行き先はまだ未定だけど、応募者の中から5名様にプレゼントだって!」

「そっかー。でも懸賞の当選確率って低いよね。何人くらい応募したんだろう……」

 推理モードを解いた詩絵は、懸賞が載っていた雑誌をペラペラと読み始めた。

「当たると良いね。ねえ、未和~、もし当たったら私も付いて行って良い?」

 詩絵は読んでいた雑誌から顔を上げ、上目遣いに私の方をちらっと見ながら、お願いをしてくる。
 推理している時の真剣な表情とは違い、たまにこういうかわいい表情をしてくる。
 こういう頼まれ方をされたら、答えはもう決まっている。

「もちろん!無いとは思うけど……もし何か起こったら、その時は私を守ってね」

「おっしゃ~。了解だよ!その時は、命に変えても必ず未和のことを守るよ」

「もう、おおげさだな~」


 だが、この応募した懸賞に運良く当たり、詩絵と未和が旅先で事件に巻き込まれ、当選した5人で探偵役となり調査することになるのは、また別の話。














 




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